第72話戦後処理

「この人が、俺と魂を分けた、双子の兄弟なのか」

「左様。貞愛殿に何かあれば、義伊松殿の命もどうなるか分かりませんぞ」

「但馬守殿は、私が裏切るような事が有れば、貞愛殿を殺すと申されるのか」

「義伊松殿が無駄死にするような事があれば、貞愛殿が死んでしまうかもしれないと言っているのですよ」

「・・・・・」

 羽柴長秀は、徳川家の存続は許したが、徹底的に力を削いだ。

 家臣化されていた諸松平家は勿論、国衆の多くを羽柴長秀の家臣として、徳川家の配下から解き放ったのだ。

 家督も家康の望みを無視し、家康が嫌い抜いた次男の義伊松とした。

 しかも家康がひた隠しにしていた、双子の永見貞愛を探し出し、義伊松と対面させた後で、人質として宝寺城に連れていくことになった。

 勿論実母の於万の方も宝寺城に連れていくことになっていた。

 それだけではなく、家康が後継者に望んだ長丸は勿論、幼い福松丸も人質として宝寺城に送られる事になっている。

 だが家康は、隠居出家させられ、高野山に送られることになった。

 徳川家康と徳川家の人質だけではなく、駿河・遠江・三河の大名国衆の人質も、一緒に宝寺城に送られることになっていた。

 それを護衛監視するのは、木下与一郎の軍勢だった。

 長期に渡って戦い続けた木下与一郎は、久しぶりに本国に戻ることが出来るのだ。

 だが池田恒興・宮部継潤と前野長康は、後北条家に備えて駿河に駐屯することになった。

 そして今回の遠征の大勝利に対して、羽柴長秀と池田恒興に大きな恩賞が与えられることになった。

 池田恒興には、摂津三郡十五万石に代えて、遠江二十六万石の旗頭に任じられたのだ。

 元の国衆地侍を召し抱えなければいけないとはいえ、一国の国主に任じられたのだ。

 羽柴長秀にも、但馬十二万石に加えて、三河二十九万石が与えられた。

 元からの国衆地侍を召し抱えなければいけないとはいえ、徳川家の蔵入り地と、石川数正と酒井忠次の領地は召し上げられたのだ。

 石川数正と酒井忠次を三河に残すのは危険と判断して、領地替えを断行したのだ。

 宮部継潤と前野長康にも恩賞が与えられた。

 宮部継潤には駿河半国七万五千石が与えられた。

 前野長康にも駿河半国七万五千石が与えられた。

 堀秀政にも越後の内十万石が与えられた。

 羽柴秀吉自身は、多くの領地を恩賞に与えた後でも、甲斐・信濃・越後・加賀に多くの領地を得た。

 まだ上野が取り返せない滝川一益は、甲斐の領地を一時的預かることになった。

 宝寺城に入った木下与一郎は、久しぶりに妻子とゆっくりする心算だったが、そうはいかない事情が起こった。

 羽柴秀吉が直接指揮する、紀伊での攻防が終っていなかったのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る