第22話主導権争い
古来より、家臣が主君の敵を討つ事はないが、子供が親の敵を討つことは、とても好まれた行いだった。
だから秀吉は、今回の合戦を於次公が父・信長公の敵討ちの合戦だと宣伝した。
その上で戦後の主導権を握るために、仇討ちの資格を持つ信長の三男・三好信孝と合流せずに、尼崎から西国街道をそのまま進み富田に陣を進めた。
これがとても効果を現した。
生き残るために日和見を決め込んでいた、摂津の池田恒興・池田元助・中川清秀・高山右近達が参陣してきた。
富田は明智光秀を相手に陣を構えるのに絶好の場所だった。
浄土真宗教行寺の寺内町として栄えていたので、大軍を休ませるための家屋があった。
戦略上の重要拠点である天王山に近く、・高山右近の居城・高槻城と中川清秀の居城・中川清秀の中間に位置し、西国街道が通じていたので、大軍を運用するのに都合がよかった。
淀川の水運を利用して、来島村上水軍が物資の輸送補給をしてくれた。
少し高台になっていたので、攻め込まれた時の防衛力もあった。
秀吉は於次公を奉じて軍議を主導し、自分の思うように陣立てを組むことが出来た。
右翼軍(川手):池田恒興・池田元助・加藤光泰たち
中央軍(街道):高山右近・中川清秀・堀秀政たち
左翼軍(山手):羽柴秀長・木下与一郎・黒田孝高たち
ここにようやく三好信孝と丹羽長秀が合流してきた。
本来なら信長の三男・三好信孝が軍を主導するべきところだったのだが。
「筑前、何故御前が軍を指揮しているのだ」
「三七郎様、お止めください」
「何故止める、五郎左」
「筑前殿は中国軍の総大将ですぞ」
「だが余は上様の子だぞ。父上の敵を討つのなら、余が指揮を取るべきではないか」
「確かに三七郎様は四国軍の総大将になられましたが、しかし総大将になられたのは今回が初めてです」
「それがどうした。初めてであろうと総大将は総大将ではないか」
「しかし上様の横死の知らせを受けてから、兵共が逃げ出し、一万六千いた兵が、今では四千しかおりません」
「う」
「しかし筑前殿は、毛利と矛を交えていたにもかかわらず、二万の軍勢を率いて備前から駆け戻って来たのですぞ」
「う~む」
「何が何でもこの戦に勝って、上様の敵を討たねば、織田家は滅んでしまうのですぞ」
「う、う~む」
「その存亡の危機に、歴戦の筑前を大将から引きずり降ろし、自身で指揮を取ると申されるのですか」
「いや、それは」
「そのような狭量で、修理殿や彦右衛門殿の心を掴めると思っておられるのか」
「すまぬ。もう言わぬ」
「筑前殿、三七郎様も上様と殿を討たれ、動揺なされているのだ。これだけの事で、三七郎様の器量を図らないでくれ」
「分かっておりますとも五郎左殿」
秀吉と丹羽長秀の阿吽の呼吸だった。
最下層の草履取りから成り上がった秀吉は、長く丹羽長秀を立ててその組下で働いてきた。
織田家の派閥で言えば、同じ派閥に属している。
ここに集まった武将達は、戦国時代でも歴戦と言っていい者達だ。
この合戦が、単に織田家の存亡ではなく、天下の主を誰にするのかを決める合戦だと言う事を理解していた。
だから是が非でも勝ちたかった。
秀吉が大将だから勝てると判断し、己の命と家の命運をかけて参加したのだ。
それを今になって、青二才の三好信孝が大将に替わるなど、絶対に認められない事だった。
信孝の後見人でありお目付け役でもある丹羽長秀も、歴戦の武将だから、その事はよく承知している。
そこで諸将のいる前で信孝に失態を犯させて、信孝も諸将も納得するしかない形で、秀吉が引き続き指揮を取るように仕向けたのだ。
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