第3話女忍者・楓

「父上、松寿丸はどうなるのですか」

「どうにもならん」

「そんな」

「上様が官兵衛殿は裏切ったと断じられたのだ」

「そんなはずはありません」

「与一郎」

「はい」

「世の中に絶対はないのだ」

「父上は、官兵衛殿が裏切ったと申されるのですか」

「誰が誰を裏切ったと言うのだ」

「え」

「与一郎は誰が誰を裏切ったと言っているのだ」

「それは、上様は官兵衛殿が織田を裏切ったと御考えになられたかと」

「よく聞け。だが誰にも話すな」

「はい」

「官兵衛殿が上様を裏切ったとしても、それが殿を裏切った事にはならんのだ」

「それはどう言う意味・・・・・まさか」

「口にするな」

「はい」

「しかし、信じられません」

「儂にも本当かどうかはわからん。兄者と官兵衛殿だけが知る事じゃ」

「父上」

「だから、兄者の言う通りにするのだ」

「だから、松寿丸を殺さねばならないと言われるのですか」

「少し待て。誰かある。誰かある」

「何事でございますか」

「楓を呼べ」

「はい」

「しばらく誰も近寄るな」

「はい」

「父上」

「そなたにももう聞かせておこう」

「はい」

「楓は小六殿の手下の忍者だ」

「矢張りそうでしたか」

「気づいていたのか」

「羽柴家が他家に先んじて調略に強いのは、忍者の力だと思っていました」

「まあ忍者とは言い過ぎかもしれんが、元々木曽川の水運を生業としていたので、各地の商人とも伝手があったのだ」

「それで殿は小六殿に羽柴家の諜報を任されたのですね」

「そうだ。小六殿も諜報が性に合われたのであろう。新たに人を抱え、色々な商いに手を広げ各地の話を集めてきてくれた」

「小一郎様、何事でございますか」

「松寿丸の事じゃ」

「ここで御話させて頂いてよいのですか」

「構わぬ。儂に何時何があるか分からぬ。与一郎にも知っておいてもらうべきであろう」

「では申し上げます。半兵衛様が身代わりを用意なされました」

「待て。半兵衛殿は、松寿丸を助けるために、何の罪もない子供を殺したと申すのか」

「いえ、幼くして死んだ子供を探し出し、身代わりにされました」

「そうか。そうだな。半兵衛殿がその様な事をされるわけがないな」

「納得したか、与一郎」

「はい」

「では席を外せ」

「はい、父上」

「・・・・・、与一郎は行ったか、楓」

「はい、近くには誰もおりません」

「大切な事だから、本当の事を言って欲しい」

「・・・・・はい」

「楓は、小六殿の子供なのか」

「・・・・・母はそう申していましたが、真実かどうかわかりません」

「何故だ」

「・・・・・母は歩き巫女でしたので」

「そうか・・・・・だが小六殿が楓を儂の側に置くと言う事は、側室にして欲しいと言う事だな」

「小六様の御考えは、私には分かりません」

「楓は与一郎の事をどう思う」

「どうと申されましても」

「嫌いと言うわけではないのだな」

「嫌いも何も、特に何も意識してはおりません」

「では、与一郎の夜伽を命じたらどうする」

「・・・・・小六様からは、閨での務めも果たすように言われております」

「ならば、与一郎の子を産んでくれ」

「小一郎様」

「与一郎は先日病で死にかけておる」

「それは存じておりますが、与一郎様には許嫁がおられるのではありませんか」

「いる。だが年が離れすぎており、まだまだ子を望めぬのだ」

「・・・・・」

「殿には子がおらず、儂にも与一郎しか子がおらぬ」

「・・・・・」

「もしここで与一郎が死ぬことがあれば、羽柴家の血が絶えてしまうのだ」

「‥‥母親が歩き巫女の私でいいのですか」

「構わぬ」

「・・・・・分かりました」

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