101話目 襲撃後の王都整備

 〝グランドガーディアンシールド〟


 愛と実りの神ディーン、水の女神レーンベーレ、土の神ホンカ等の神力とアルフォンス王太子殿下と春音王太子妃殿下が虹色魔法を唱え、作り上げた王都ブーケッティアの防御の大魔法陣。物理防御、魔法防御共にかなりの上位魔法も防ぐ事が今回の襲撃により、各国へ伝えられた。


 ブーケット王国の防御力の高さもさる事ながら、王太子、王太子妃両殿下による、尋常ならざる魔力量や複雑な複合魔法の完成度、更にそれらを軽く扱う二人の技量に、ブーケット王国の住人及び、ブーケット王国以外の各国の首脳陣達も大国の脅威に今更ながら、畏怖を覚えるのだった。


 ある程度の魔力を持つ者であれば、その圧倒的な魔力量に恐れ敬うだろうが、一般市民にとっては何かまた、王都ブーケッティアが強くなったんだろうな位しか解らない。


 今も王都ブーケッティアの上空には変わらず、透明なままだが、王都を取り囲む程の巨大な魔法陣が回転しながら存在している。



 魔法防御には特化している事は想定内だった。……だが、物理魔法までも防いだ事によって想定の範疇を超えて、強大な防御力に王太子殿下自身も驚愕していたのであった。




 ブーケッティア王都をとり囲む塀は、まるで要塞の砦のように高さや厚みがある。


 各門番達が塀の中で休憩や仮眠を取る事が出来るように、また要人の出迎えの際に、使われる待合室や仮眠部屋があり、それらは高さや厚さがある事で、魔物の侵入を防ぐのに適していた。


 その塀の周りを避けながら、まるで飴が暑さで溶けたかの様に王都をぐるりと囲い、ドロドロに溶けた金属が落ちていた。高さのある巨大な門を内側から開くと、それ等は二階建の途中の高さまでに達していた。


 しかし、不思議な事に塀自体にはへばり付く事もなく、塀から1m程は避けた外側に、固まっていたのだ。


 大魔法陣が王都を防御した範囲というものか?


 王都の外ではドロドロの金属のせいで、商品の買付に来ていた商人や魔物狩りに出ていた冒険者達が王都に入る事が出来ず、門の外でテントを張り、一夜を明かしていたのだった。



「何なんだ!この金属の塊は?」


 冒険者のナスカ・ラス・プリクトンはオールの山から魔物討伐の帰還途中だったが、ブーケッティアの周りに落ちた金属の塊に阻まれ、困惑していた。



「とぉ!!」


 取り敢えず、塊に向かい剣を振り落とした。ミスリル銀の剣は軽く、金属の塊をザクッと一刀両断した。



「おお〜〜〜!!」

「流石!A級冒険者ほ違うね!」

「スゲエ!!真っ二つだぜ!」


 ワァッ!

 パチパチパチパチ!!


 商人や他の冒険者達がやんやと囃し立てた。確かに金属の塊に剣は入っていくが、だからといって塊が粉々になる訳ではない。例えば、真っ直ぐに金属が立っていれば、切りつけた後に倒せば良いだろう。だが、なんせドロドロに溶けた塊が冷えて固まった物だと、幾ら切りつけても切りがなかった。


 ゼイゼイはぁはぁっ


「せめて、門から入る事が出来ればなぁ。」


 流石にA級冒険者のナスカといえど、直ぐには金属の塊を撤去する事が出来ない状態だった。


 他の冒険者達も同じく切りつけてみるものの、やはり塊は重く、細かく切った物を端に放り投げるのも大変な作業だった。


 馬車が通れるだけ金属を減らすにはこの作業方法では何日かかるかわからない。


 ナスカは魔物討伐の後の疲れ切った体で、剣を地面に刺して体を支え、立っているのがやっとの状態であった。


 南門の門番、衛兵達と金属の塊を途方に暮れてため息をつきながら眺めていると、アルフォンス王太子殿下が騎士団や奇兵隊、近衛隊、シーレス魔導師隊をゾロゾロと引き連れ、やってきた。



「まずはシーレス魔導師隊!炎の魔法が使える騎士団、奇兵隊、近衛隊も一緒に炎でもう一度、塊を溶かせ!!」


「残りの者達はブロック型に溶けた金属を流し込め!」



 騎士団、奇兵隊、近衛隊、シーレス魔導師隊は王太子殿下の指示で、炎の魔法が使える者達は金属をさらに溶かし、煉瓦程の大きさのブロックの型に流し固めさせた。


 鉄や銀や銅なんかがごちゃ混ぜになって溶けた塊は、鈍い赤黒い色になっていた。取り敢えず精査は後にして、出来た塊は空間倉庫に次々と放り込み、各門の出入りを優先にする事にした。


 冒険者ギルドにも依頼は出され、東門にはジョージアが冒険者と一緒にあたっている。こちらは型に入れず、ある程度小さく切り込んだ後、そのまま空間倉庫へ放り投げた。


「どうせ、後で精製するのだから、型に入れるのは面倒」




 西門のアナスタシアは金属の塊を15cm位の大きさでハニカム六角形で、薄い金属タイルを作っている。それぞれを重ねては、空間倉庫に入れた。広場のタイルにするそうな。この上にアスファルトを乗せて、丈夫な小道も作るそうだ。丁度良い素材が手に入ったらしい。後は騎士団や奇兵隊、近衛兵では精製後に、剣やナイフ、矢尻の先、鎧などの防具に使う予定らしい。


「うふふ〜んふん♪これだけの金属が只で手に入る機会はそうそうないわよねぇ。」


 アナスタシアは上機嫌で、鼻歌まじりに作業を進めている。


 広場は最も人々が行き交う場所である為に、既にボロボロで走り回る子供達が足を引っ掛けて転ぶ事も多く、王都の住人達から修復の要望が多い場所であったから。



 更に、王都民の中で鉄の塊を欲しいという者が居れば、騎士団に申請すれば、下げ渡されるらしい。用途は様々だが、例えば馬車や屋根の一部に使われる予定らしい。


 流石に精製しても、鍋の一部には向かないだろうけど。一番目を爛々と輝かせて、金具屋や武器屋達も集まってきた。


 そら、彼等にはお宝だろうね。



 飛空挺に乗った者達は炎に包まれ、燃えたり飛空挺から投げ出され、落ちた時の衝撃で亡くなったらしい。だからか、あたし的にはこの素材の再利用は血糊や呪いでも付いてそうで、気持ち悪いし触りたくない。


 皆、逞しいなぁ。この世界の人々の認識からすると、丁度良い素材がなんの苦労もなく、空から降ってきた棚ぼた的な感覚なんだろうな。(実際はアルフがブーケッティアを襲う敵と戦ったという上での事だけどね。)


 日本で育ったあたしには、中々馴染めない感覚かもしれない。


 まぁ、実際には今のあたしはまだ体をバイアルン王国の洞窟の敵の基地の中に置いてあるから、表立って何も出来ないんだけどね。





 あたしが退屈そうにプカプカと魔力体で浮かびながら、横向きになって胡座をかいていたら、バイアルンの基地の調査は粗方終わったらしくて、シルバニアが声をかけてきた。


「春音様、そろそろ脱出しますか?」


 と伺いに来た。



 おお!やっとか!!



 あたしはウキウキとシルバニアの元に降りた。



 やはり予想通りというか、バイアルン王国を調査した結果、国王陛下や王太子殿下達はこの要塞について、まだ何も知らないらしい。これだけデカイ要塞の事に気がつかないって、それってどうなの?って思うけど、この国の人ってお気楽な性格っていうか、能天気な人が多いからな。


 ただ、第三王子であるブルガリア王子だけは、一部の貴族達と共にエジントラン連邦やリゼルバーグと繋がっているらしいって事が判明した。バイアルン王国は元々同盟国だから、潜入も割りと簡単に入り込めたらしくて、セキュリティー的に大丈夫か?って位、情報も取れ放題だったらしい。


 大国であるブーケット王国の隣に位置している事で、軍事的にも負んぶに抱っこな殆ど寄りかかっている状態だったからか、その状況に嫌悪感も持たない国民性や王達に不満を持った、ブルガリア王子はその状態を逆に利用して、王座を狙い敵国と手を組んだらしいというのが、シルバニアやダンビラスさん達が掴んだ情報、見解だそう。


「この国の奴等は腑抜けどもばかりだ!!」


 何かというとブルガリア王子は側近達に、そう不満を漏らしていたそうな。


 彼は特にリゼルバーグ王国のダーラシフォン王太子と懇意にしていた。彼の狡猾な知性やリゼルバーグ王国からもたらせられた様々な武器も、バイアルン国王陛下達に見つけられないよう、このゾーン洞窟に隠していた。ダーラシフォン王太子の為にバイアルン国王に別邸を持たせた程、彼を気遣っていた。


 まさか、ダーラシフォン王太子を探っていたシルバニアと会えたのは、本当に偶然だったんだけどね。





 これ以上ここ(敵の要塞基地)に居ても、碌なことにならなそうなので、早々に王都に帰還する事になった。


 この事以外にも、実はダンビラスさんから要請がきたのよね。アルフが今ヤバい状態らしくて、このままだと爆発してしまいそう状態だから、早く戻って抑えてくれとの事。


 そうね。あたしがアルフに辺境伯領に追いやられた鬱憤のせいか、敵に簡単に捕まるという、失態をした風なのがバレバレなんだろうな。感が鋭いのもあるけど、アルフから貰った魔道具アクセサリーで、あたしの状態はアルフに筒抜けだもんね。やっぱバレるよね。



 本当はあのキモい兄さんと戦った時、精霊魔法を抑える力を持っていたから、ちょっと興味持ってしまって、どの程度使えるのか調べたくなったんだよね。


 奴は漆黒の闇魔法を纏う事で、精霊の魔法力を弱めてしまう事が解ったのだ。精霊の力と漆黒の闇魔法の力は相反する力だから、炎、氷、水、雷、土魔法などの基本的な魔法では、攻撃しても魔力を弱められてしまう。


 あの時、光属性の魔法を使っていれば、問題なかったのよね。光は漆黒の闇魔法を払うから。あのケルピーの森で払った時みたいにね。


 キモい兄さんは今まであった魔族やアン・シーリー・コート達より漆黒の闇魔法が強く、濃い。人間に対するものなのか、心に憎悪を纏っていた。何か心に闇を抱えているんだろうが、知った事じゃない。はっきり言って、八つ当たりに付き合う義理はない。何が原因か?と調べるのも面倒だ。だが、その闇の心が魔法にどう影響されるのかは少し、興味があった。だから、シルバニアやアルフの言い付けを守って、大人しくしていただけ。


 でも、それ調べるのって、ここバイアルンでは無理だろう。それこそ、本国のエジントラン連邦かリゼルバーグみたいな漆黒の闇魔法使いの魔道士がうじゃうじゃいる状況じゃないと、調べられないんじゃない?


 アルフは光の魔法を使うのが苦手だ。過去にお姉さんの時に起きた事が原因だと彼は言っていた。


 炎や水、雷、氷、土。それらに精神的な影響はない。単純に素質、魔力量に影響されるだけだ。


 でも光や闇の魔法は違う。精神力というか、心の状態に影響がありそう。

 ……それがシルバニアとも話して、出た結論。あくまで、という想定の範囲内でね。漆黒の闇魔法を使うには、あのイカれたキモい兄さんが適した状態ってだけだろう。寧ろそのせいで彼も利用されているのかもしれないが、それも知った事ではない。あたしには関係ない。


 ……でもさ、立場的にあたしを捕縛したとか、自信持たれても困るしさ。



 ファイアインフェルノを唱えた時、漆黒の闇魔法で身体を防御魔法のように覆ったキモ兄はあたしの炎の魔力を軽く弾いた。雷もあまり効いていないようだったものね。面倒だけど、一度光魔法で闇魔法を払ってから、他の魔法を放つ方が効果的だった。



 ここに残って、漆黒の闇魔法に対して、色々実験させてもらった。なんせ漆黒の闇魔道師達が、次々と漆黒の闇魔法をあたしの体に放つんだもん。


 でも、それももうおしまい。




「ふわぁ〜!!体が固まったわ。」


 あたしは漆黒の闇魔道師達が闇魔法を今も、かけられ続けているにもかかわらず、身体を起こし伸ばしたり、頭型をコキコキ言わせて軽くストレッチをした。



「貴様ぁ!漆黒の闇魔法が効かないだとぉ!?」


「何故だ!!」



 闇魔道師達が驚き、立ち上がろうとする春音から、慌てて距離をとった。


 聖なる光魔法を体に纏っているから、何も効かないのよね。



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