77話目 王都に戻る前に狩です!

 今日は王都に帰る前にロータス侯爵領地に入った。ちょっと遠回りして帰る事になったのは以前、フローディア・ハープ・ロータス侯爵令嬢と狩のお約束があったから。


 旅行前に開かれた女王のお茶会で知り合ったロータス侯爵令嬢は代々続く騎士家系の唯一のご令嬢。


 沢山の兄上達に溺愛され、あまりに可愛いがられ過ぎて外に出すのを渋られ、数多の縁談を勝手に断られてしまう始末。今は婚約さえ許してもらえない身の上らしい。


 しかも騎士家系の為、女だてらに身体能力が高く、剣の腕や弓の腕もかなりのものらしく、あたしが一人狩すると知り、是非一緒に狩に行きませんかと誘われた。上品な会話に飽きてきた当時は嬉しくて、メガエラに返事はその場でするものではない。と窘められていたにもかかわらず、即行くと返事してしまったという経緯がある。


 性格的に面白そうな人物だし、是非女子会メンバーに入ってもらいたい事もあり、お誘いにのったのよね。


 出来ればミトレスにも参加して欲しかったんだけど、どうやら高坂と彼方の世界に行っているらしくて、今回の狩には間に合いそうもない。


 アミダラさんもマグノリアさんとジャンセン辺境伯城に行ったままだし、こちらもウォレット殿下やジャンセン辺境伯の警護も頼んでいるから、安易に呼べない。今回の狩は女性だけに拘らなくてもいいかな。


 オーレンがシルバニアから銀の弓を借りてきた。ちょっと大きな弓で、ミスリル銀で作られたものらしい。オーレンと弓って何か合わない。スピード重視のオーレンが後方から援護してくれるらしいけど、ジッと我慢出来るんだろか。



「そう言うすけど、俺ってば弓も中々な腕なんすよ?」



 ほうほう。それは見てみたい。


 シルバニアは当然、いつものミスリル銀の弓。オーレンより小さくて、まぁ、規定サイズかな、飾りが細かい。見るからに高そうな最高級品って感じ。


 アルフはお昼ご飯を作るから、後で転移して持って来てくれるそうな。狩は午後から参加するらしいよ。


 今回、ミハイルやメガエラ達がミュラとハイドランを見てくれているので、安心して出かけられる。グレンはアルフのお手伝い。

 アレキサンダーは狩組。




 ロータス侯爵領地の深緑の谷に魔物が密集する地域があるらしい。ここは急に増えたわけではなく、昔から魔素が濃い場所なので、定期的に狩をしなければやがて深緑から魔物が溢れてしまうらしい。

 冒険者ギルドの者達にとっても格好の狩場らしく、朝早い時間帯だと言うのに、門の近くは行列が出来ていた。勿論、身分を言えば並ばなくても通してもらえそうではあるけど、なるべく恨みや反感買いたくないし、何より目立ちたくない。


 せっかくあたしだと認識されない付加ピアスしているのだから、こんな所で注目されたくない。あたし達は後尾に大人しく並んだ。


 でもロータス侯爵令嬢が居る時点で無理な気もするけどね。あちこちでヒソヒソされていた。


 あたし達の装備や出で立ちで男勝りなロータス侯爵令嬢の変わり者仲間なんだろうと思われて噂されているようだった。別にそれ位は良いけどね。


 町から少し離れた所であたし達は転移の魔法を使い、深緑の谷入口まで一気に飛んだ。ロータス侯爵令嬢以外は場所を知らなかったので転移の際、ロータス侯爵令嬢に意識を重ね、同じ場所へリンクする事が出来た。この魔法は結構便利だと思った。


 深緑の谷へは馬車では行けないし、歩きだと半日はかかるので転移出来る魔法使いが居ないパーティーでは中々大変だ。もっとも転移魔法で運べるのはせいぜい1人か2人なので、大人数での移動は特に大変だとは思う。移動でMP使い切ってしまいそうだもの。

 あたし達は皆、転移魔法が使えるから負担にならないけどね。


 谷に入ると途端に温度が下がった。緑も徐々に色濃くなっていく。魔素の濃さのせいか、薬草も様々な貴重で珍しいものが多くあった。上級毒消薬、上級ポーションや皮膚病の塗り薬の材料になる薬草。食べても美味しいお菓子の材料等、これだけでもここに来た甲斐があった。


 ホクホクと満面の笑顔であたしはそれらを次々と空間倉庫に入れ、薬草備蓄を肥やしていった。

 あ、勿論、取り過ぎないよう、根刮ぎはしないわよ?ちゃんと少しは残して、育つようには気を付けたもの。


 暫く、そんな風に歩いていたら、大きな川にぶつかった。川の流れは急で渡るには橋の所まで歩く必要があった。でも面倒なので浮遊したら、ロータス侯爵令嬢は浮遊魔法までは使えないらしい。


 アレキサンダーも浮遊魔法はまだらしい。オーレンがお姫様だっこして、其々を往復して運んでいる光景は中々シュールだった。ロータス侯爵令嬢は良いんだけど、デカイ図体のアレキサンダーを運んでいる時は吹き出しそうなのを我慢した。イヤ〜アレはかなり辛かった。アレキサンダーは真面目だから、笑ったら気にしそうなんだもの。


 川を渡ってから直ぐに魔素が濃い場所に近くなったのが分かった。魔物が増えてきたから。

 12匹程のオークの群れが現れた。これは中級クラスのオークナイトだった。でも、アレキサンダーがお姫様抱っこの恥ずかしさ払拭の為、次々となぎ倒していった。ちょっと荒れている。皆にアレ見られるのはやっぱり苦痛だったのね。ミハイルに見られなくて良かったね。奴なら、揶揄う材料にしちゃいそうだもの。


 オークナイトはあっという間に良いお肉の塊になって、沢山の食材になった。オークのお肉は元々美味しいけど、オークナイトは繊維も柔らかくかなり高級で美味しい。暫く、食材に困らないかも。


 次に現れたのはレッドホーンと一角兎だった。あたしとロータス侯爵令嬢やオーレン、シルバニアで弓使って仕留めた。こちらも14頭、9頭程の群れだったから、魔法も使わなかった。比較的穏やかな魔物だったので、狩も楽だった。




「イヤイヤ!何呑気な事言っているんすか?全然穏やかな魔物じゃないっすよ?!向こうはこちらを殺る気満々で襲ってきてっすから!!一角兎なんか仕留めるまで向かって来ているっすから!!」



 あら?

 そうだった?




そんな余裕をかましていたら、あたしの背後から真黒い火蜥蜴が3匹現れた。尾も合わせると3メートルはあるかというクロコダイル位大きな蜥蜴とかげだ。けど、確実にワニより早い。


あたしは雷をまとわせた矢を三本掴んで放った。


うふふん。あたしの弓術もかなり上がっているんだよぅ。


まあ、ちゃんとばね。


辛うじて、一本は火蜥蜴ひとかげの頭に当たり、動きを止めた。なので、後は氷の矢で確実に仕留めた。


あ、勿論、他の2匹は他のメンバーに任せたよ。やっぱり弓だけじゃ辛い。


う〜ん。雷をまとわせても大きな獲物は麻痺させる位よね。





 運動した後はお腹が空いてきた。良いタイミングでアルフとグレンが転移で現れた。


 直ぐに魔素が比較的薄くて広く平らな場所へ皆で探して、転移した。目の前は緩やかな川が流れていて、来た道とは違う場所だった。アルフはテントやテーブルを出すと、早速料理を出してきた。


 アボカドやルッコラや卵のサラダ。アボカドって此方の世界にあったっけ?


 手作りのリボンの形のマカロニをバターとトマトソースで和えたパスタ。バジルの香りが食欲をそそる。


 皮ごと揚げたポテトフライにホワイトテイルチキンの唐揚げ。此方の世界の鶏みたいな魔物なんだけど、大きさが大型犬位ある。


 コーンスープはカップで其々運ばれていく。




「さて、皆、席に着いたかな。


 では、いただきま〜す!」



 アルフの掛け声で慌てて席に座るオーレンとグレン。



 ゆったりした景色をながめながらの昼食は程よい運動で、疲れた身も心も癒された。



「どう?ここの魔物は危なくはなかった?」



 アルフったら、既に判っている癖に一応聞いてきた。あたしに危険があれば直ぐにアルフに伝わるアクセサリーを身につけさせているからね。ピアスにネックレスに腕輪に指輪に其々、魔法防御や物理防御、受けた攻撃を相手に返すカウンター付与やついでにアルフのアクセサリーに情報を伝えるようになっている。本当に危なくなったら、転移で来るつもりでしょ?


 そのせいで午前中、側を離れていても余裕で安心して部下にあたしを任せていられるらしい。心配性のアルフだけど、今回みたいに身内だけではない場合は周りにはそれをあから様に見せる事は出来ない。ロータス侯爵令嬢やお付きや護衛の者が居るからね。


 だから、敢えて午前中は別行動をしたらしい。ロータス侯爵令嬢の場合はほとんど身内なんだけどね。女王のお茶会に参加出来ていたし、足元をすくうような人達ではない。あたしがアルフのアキレスであるのは周知の事実だとしても、それでも、それを改めて見せる事は出来ない。余裕あるポーズが必要なんだとか。その辺りはよくわからないから、アルフに任せておくよ。腹の内を隠しての腹芸は苦手だし、迂闊な事して迷惑かけてしまいそうだから。


 午後からはアルフも参加して、もっと中心地の近くの狩場に行った。つまり、魔素が濃厚な魔素溜まりと言われる場所。


 魔物の数も尋常ではない。


 今回はこの場所の調査の意味もある。魔素溜まりと前回の魔人が起こした魔方陣による魔物召喚との違い。そして、ケルピーの森で起きた黒いベタベタが出来ていないかも確認したかったらしい。


 黒いものは特に見当たらない。魔素溜まりは魔力が濃厚だったけど、特に何も感じない。



 アレ?


 ………変わらないのはあたしやアルフ、シルバニアだけだった。他のメンバーは魔力当たりにあったらしく、顔を青白くさせて、具合が悪くなってきているようだった。


 オーレンでさえ、口をおさえて既にお昼を吐きそうたったらしい。魔力の少ない者達の症状が他の魔力強い人と比べて悪かった。魔力の少なさを身体能力でカバーしているロータス侯爵令嬢が特にグッタリしていた。



 あたしはむしろ濃厚な魔力に自身が回復してきているのが分かる。

 お肌もツヤツヤしてきているよ?




「……春音様…魔物!?っつあ!」



 シルバニアがオーレンの頭を掌で叩きつけた。


 アルフもシルバニアもあたしと同じ症状が起きていた。……これってもしかして、妖精族の血なのかしら?3人に共通している事って、それくらいよね。あ、虹色使いっていうのもあるか。しかし魔力溜まりで回復って。まさに魔物と同じ状態よね。


 疲れた時に時々3人で来てみるのもアリなのかも。


そんなあたし達は他のメンバーに確実に人外認定されつつあり、呆れられたようにため息をつかれた。

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