63話目 神殿プロジェクトが始動したけど…。

 雨漏りのする屋根。

多分、昨日の雨水がまだ捌けていないせいだとは思う。


 カビや埃、何か腐った物の匂いがこもっていた。



 ……うう。

 くっさ〜い。



 木の扉もが所々腐ってボロボロだし、石壁も壁穴から小動物の糞やら、虫の気配がする。まずは除菌!!



「ピュリフィケーション!」



 聖なる光魔法シリーズ。またもや清潔にるす魔法の登場。清浄な空気が漂う。殺菌はしたけど、根本的な解決にはならない。大規模な修理が必要ね。



「レベルテ」



 腐って落ちていた床がギシギシと音をたてて盛り上がってくる。


 壁の穴も塞がれ、傾いた天井も上がっていく。危ないので浮遊魔法で、浮きながら躱す。ほんの1分後には静かにおさまった。


 しかし直ったのは良いけど、古い作りなので、何の変哲も無いし古臭い。このままでは手を入れないと使えないわね。



 ここは王都の東地区の市民街にある元神殿の廃墟だった場所。


 半分しか建物が残っていなかったし、傾いて今にも倒れそうだった。試しに魔法で直してみた所、当時の建物を再現出来た。


 それは良いが、神様を迎えるにはそれなりに作り直さなければいけない。アルフとシルバニアが働いてもらう人の面接をやっているので、あたしは建物の修理に行かされた。


 こういう作成系の魔法はアルフより、あたしの方が得意だからもあるけど、クロからの返事がやっと来て色々指示されたのよね。


 クロが言うには元神殿には神気が満ちていて、神様達とコンタクト取るには良い場所なので、別の場所に新たに作るより神様達を喜ばせる所として最適らしい。


 神気とは神の力の影響が起こしやすい空間らしくて、昔、巫女が神からの神託を授かる神聖な場所として、大事にしていたのだとか。


 日本でも神社とか神聖な場所でパワースポットとして人気があるけど、意味合い的には同じみたい。


 魔力の強い場所は魔族も利用するけど、神気が強い場所は魔族は近付けないみたい。王都の防御結界は今は神力で出来ているから、魔族に対して強く防御出来るのだとクロは言った。


 神の力がかかっている場合は魔族は力を使えない。だからといって完璧という訳ではない。


 なぜなら、人間には可能だから。今回の襲撃のように、人間と魔族が組んで起こしたような場合、人間に対しては有効じゃない。魔族しか退けられない。なので、より完璧にするには魔力防御も必要になる。


 クロが神力と魔力を使った防御を王都に張り巡らせれば、大抵のものは防げるのだと言ってたんだけど、どうやってかけたらいいのかまではクロも知らないんだって。


 どちらかというと古代魔法に近い方法らしい。


 ただ、王都にある王立図書館に神力と魔力を合わせる方法ついて書かれた本があるかもしれないと言っていた。古代魔法で書かれた本が防御魔法についてなのかは分からないけどワシは忙しいから自分で調べてこいと言われた。


 あたしの先祖のおじいさんが書いた本で、古代魔法や魔方陣、妖精や精霊、魔族、魔物、魔力や神力等の研究をしていたらしい。ちょっと変わった人で一日中魔法研究をしていた人だとか。あまり人と交流もせず、研究室にこもっている方が幸せなつまり魔法オタクね。ネトゲ廃人みたいなもんよ。


 兎に角、クロに頼まれたのは廃墟神殿の復活と王立図書館でその防御魔法について調べてくる事。


 それが終わったら、こっちも手伝えと言われた。



 ……えらいコキ使うわよね。あのジイさんたら。




(…聞こえとるぞ。)



 ……。


 ……チッ…おちおち愚痴も言えやしない。




 どんな風なデザインにするかなぁ。


 あたしはパラパラと彼方の世界の建物が載った資料を参考に眺めていた。アルフが用意してくれたのは良いけど、難しそう。サクラダファミリア、パルテノン神殿、マヤ遺跡、伊勢神宮でしょ、おや!ピラミッドはお墓じゃん。凱旋門とか神殿と関係ないし、今見ると懐かしい。フランスの修学旅行を思い出すなぁ。アルフと出会って、助けてくれたんだったっけね。もうずっと昔な気がする。


 それにしても、お風呂の時みたいには簡単にいかなそう。



 そこで背後に強い気配を感じ、ジャンプして短剣を構えた。



 あたしの後ろにアルフの親戚みたいな男性が立っていた。



 金と銀の合わさったようなプラチナブロンド。髪の質もゆるふわなウェーブでアルフみたいに前と横は長めで、後ろだけ短くしていてそこも同じ。瞳の色も深い海のようなブルー。でも顔立ちがより彫りが深くてもうちょい濃く、顎がアルフの方が華奢なのに対して、しっかり張った感じ。でも年があたし達より上なんだろうけど、顔立ちは若い。なのに落ち着いた感じが年上と思わせた。あまりにもアルフに似過ぎていて、変な感じがした。


 あと、服装!シャツにズボンってありきたりな格好なんだけど、何だろうかデザインが古いっていうか、高級なんだろうけど中世のようなレトロ風なシャツが違和感を感じている。


 オーラも虹色で親戚の人達、全員と紹介してもらったと思っていたけど、虹色はアルフとシルバニア以外いなかったはず。他にも居たの?


 戸惑いながらも、その人に敵意は感じられなかったので剣を収めたんだけど、オーラが凄かった。尋常じゃない。




「…失礼したね。驚かせてしまって、申し訳ない。」




 穏やかで温かみのある、それでいて良く通る声だった。


 ああ、声でやられた。


 でも何よりこんな威圧感て、神様の時を思い出すわ。天から降って来た時、あまりの圧にその場に居た者全てが、ひれ伏したっけ。

 それ程まではいかないけど、圧迫感ハンパない。


「あの、アルフのご親戚ですか?まだお会いするのは初めてですよね?私はハルネと申します。」



 親族に対して、礼儀をもって膝を折り正式なご挨拶をした。



 それには答えず、彼はクスクス笑っている。



 ?


「…あ、あの。アルフォンス王太子のご親戚ではないのですか?」




「…フフッ。可愛い子だね。…そうだね。遠い親戚かなぁ。」




 そう言うと彼は音もせず近付いてあたしの髪を触っていた。


 え?

 あれ?

 いつのまにこんなに近くに?




「君の瞳って、よく見ると虹色の光が見えるね。髪も体も光があたると仄かに虹色に光るんだね。妖精族の血が入っているのかな。」




 彼はあたしの腰に手をあて、ぐいっと引き寄せた。


 はい?


 ボゥッとしている間に頬を撫でられ、耳朶やうなじまで指で愛撫してきた。



 !!!

 おい!



 再び、後ろにジャンプして身構えた。




「あ、あの!あたしはアルフの妻です!!お、おふざけが過ぎますよ。」




 しかし、何も動じず、目だけ驚いているような感じでこたえた。




「……ほぅ。あの子の奥さんなの?それはそれは。そうか、君がダナンの子孫の娘かい?」




「……はい。」



 警戒を解かずにこたえた。



 彼は変わらず微笑んでいる。




「僕はジェイムス。君の主人のアルフォンスの遠い祖先なんだ。宜しくね。ハルネ。」




 ん?

 遠い親戚じゃなくて?


 遠い祖先?




「それはどういう意味なの?祖先って?」




 またクスクス笑う。




「そう!遠い親戚じゃなくて、遠い祖先だよ。彼は僕が初めて人間に産ませた子供の子孫だからね。」




 アアア、マタモヤソウイウコトデスカ。


 つまり、彼も人間ではないと。

 ハイハイ。もうお腹いっぱいですから。


 神様の次はアルフのご先祖の妖精サンデスカ。そういえばアルフの所はどういう経緯で妖精サンと付き合っていたのか、とか知らないなぁとか、ボーッとヤサグレた目つきになったあたしに彼は目の前で、手を振っている。


「ヤホーッ!聞いている?」


 とか言っているけど、もう、面倒臭い。キャパオーバーですから。


 あたしはその場に体育座りをして、気持ちを落ち着かそうとした。


 もう、クロのお手伝い行けなくても良いヨネ。図書館の本も明日にして良いヨネ。何か疲れちゃったよ。




「春音!大丈夫か!?」




 本物のアルフが側に来た。

 アルフモドキとの間に立って、あたしを庇うようにしてくれた。



 わぁ、やっぱり似ているなぁ。こうやって比べてみると違う人間なの解るけど、初めて見る人だったら、間違えてしまうかも。


 あたしは立ち上がって、アルフにぎゅっと抱きついた。

 うんうん。やっぱりこの感じじゃないとね。



「…クロが春音が困っていて行ってあげた方が良いって言うから、何事かと来てみたんだ。」



「アルフまで、すっかりクロに使われちゃっているね。」



 アルフの匂いを嗅いだら、落ち着いてきた。




「…君達は仲が良いね。良かった。これなら、心配要らなそうだね。2人とも魔力が強いし、アン・シーリーコートなんかにはやられなそうだ。」



 アルフのご先祖妖精はあたし達2人を上からつま先まで、ジロジロ眺めながら呟いている。



 !!!


 アルフが振り向きご先祖妖精と目が合うと、初めて顔を見て驚いたようだった。



「…なっ…き…貴様は誰だ!」



 …だよね?


 ドッペルゲンガーみたいな、双子の兄弟みたいな感じだよね。

 似ているけど、よく見ると微妙に違う。でも、それが自分だったら、すごく驚くし嫌だよね。

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