61話目 魔族とアン・シーリー・コートの違い。

 ブーケット王宮地下3階。ここは囚人が一時的に収監される牢屋がある。コンクリと鉄の格子に囲まれた場所は昨夜降った大雪の影響か、かなり冷え込む。



「寒い中、お疲れ様ですね。」



 シルバニアは微笑んで、衛兵に声をかけた。牢屋の衛兵が体を震わせ、敬礼をした。


 シルバニアは近衛兵隊の青い制服に実は付加魔法でほんのりと温めているので、寒くない。


 なのに衛兵からはこんな寒い場所でも、背筋を伸ばしシャキッとしていて、立派な方だなと思われていた。



「魔族の者は気がついているのですか?」



「は!!目覚めておりますので、魔封じの鉄枷てつかせほどこしました。」



 ほう。魔族ともあろうものが、それだけで大人しくなるのですか?あり得ますかね。


 やはり、確認せねばなりませんね。



 魔族の部下だった男は魔法を発動出来ないよう太い魔封じの鉄枷をつけられて、冷たい床に尻をつけて座っておりました。


 こちらに気が付くと顔を上げ、睨みつけてきました。


 肌は青味がかった灰色。瞳は黒。オーラはあまり強くなさそうですね。こんな魔力量でも魔族なのでしょうか?


 そして、何と言っても、魔族にあるはずのツノが見当たりません。


 昔、ブーケットを襲った魔族達はつのを持ち、金の瞳だったはずですが。


 容姿を変える魔法を今、ワザワザ使う筈は無いでしょうし、ならばこの人は一体何者なのでしょう。



 ふむ。カマをかけてみますか。



「……随分魔力の弱い魔族ですね。」



「…な!…俺は魔族なんかじゃない!」



 でしょうね。



「それでしたら、あなたは何者ですか?ツノも無ければ、金の瞳も無い魔族のなり損ないでしょうか?」



 ……。



 それには答えないのですか。



「…フフッ。まぁ、聞いてください。私達は不思議で仕方がないんですよ。あなた方のような小さな国が何故、私達のような大国に戦いを仕掛けてきたのでしょうか。」



 ……。



「ああ、エジントラン連邦王国でしたっけね?」



 !!!



「……何故バレたかですか?分からない訳がないですよね。確か小さな島国の集まりで、様々な人種が集まって出来た国でしたよね?」



 シルバニアは相手が震えて来た事に気が付いた。



「魔族じゃないなら、ドラゴン族でしょうか?人の姿に化けられるらしいですが、それ程の魔力量はなさそうですよね。まさかドワーフなんて事は無いですよね。背はありそうですし。ましてやドワーフは政治に興味は無さそうですからね。ですから、やはりあなたは魔族のなり損ないです。」



 ペラペラとバカにするようにあおってみました。



「違う!魔族ではない。我らはアン・シーリー・コートだ!妖精族と魔族の違いも解らぬ呆け者の癖にふざけるな!」



 ほう。アン・シーリー・コートでしたか。と言う事は南のピクシーの森にいるような妖精ですかね。



 もう、教えてやる。何も知らぬ人族が!と、上手いこと乗せた所、この者が言うには魔族とは魔界に住む者達のようで、この世界の者ではないらしいです。


 ただし、この世界の者も魔族化する事は出来るらしく、魔族化するにはかなりの魔力量と魔族による儀式が必要であるという事でした。


 あの襲撃で春音様が魔法で追い払った女性は既に、彼の世界から来た魔族によって儀式を受けてしまったのです。ただし魔力量が少ない為、まさしく魔族のなり損ないなのだそうです。


 エジントラン連邦王国の第三王子のアントルは魔界の魔族を呼び出し、自らも魔族化してしまったらしいです。そして、昔ブーケット国を襲わせた人物でした。


 エジントラン連邦王国はブーケット国から攻められ、落とされる寸前、両国の中立的な立場であるリゼルバーグ国の計らいで、戦争を終結させたそうです。


 その際、アントル王子は魔力をブーケット国にある魔導機により剥奪され、魔力を増やす事も出来ないよう、自身で転移出来ないよう封印され、異世界へ追放されました。そう、魔法の無い世界へ。


 アン・シーリー・コートは黒妖精と言われ、妖精族の為か寿命が永いそうです。ちなみにシーリー・コートは白妖精と呼ばれているらしいです。


 妖精族なら魔力量が多いと思っておりましたが、一般的な魔力量しか無い者もおられるらしいです。


 春音様なんか妖精の子孫ですから、魔力量が多いと言われてましたのに。私も殿下も妖精族の子孫ですし、これは 妖精族=魔力量大の構図が覆された瞬間でした。



「我らが弱くなったのは黒妖精の女王が黄昏の地へ旅立ってしまったからだ!」



 あらら。黒妖精の女王も白妖精の王も黄昏の地へ行ってしまわれたのですね。


 つまり、彼らが狙っていたのは魔導機だったのですね。アントル王子を戻す為にでしょうか?


 これは複雑な事情がありそうですね。


 彼らの連邦王国は今、仲裁していた筈のリゼルバーグ国に狙われているという事でした。


 ゲラン第一王子が亡くなったのも、リゼルバーグの手の者によるものだと彼は言いました。少しづつ弱ってきた状態がそもそもおかしいのだと言うのです。


 妖精族は寿命が長いらしいです。と言う事は病気や麻痺、毒などにある程度耐性があるのだそうです。


 唯一、耐性が無いのが呪いの類いだそうで、呪いの魔法具がゲラン王子の部屋から死後に出てきたのだそうです。


 プワトロ王子は魔力量がゲラン王子やアントル王子よりも少ないらしくて、一般的な者に比べたら多いのですがドラゴン族や獣族のように魔力の強い種族に勝り、リゼルバーグに対抗するにはアントル王子の魔力が必要なんだとか仰っておりました。




 シルバニアの報告を聞きながら、アルフは溜息をついた。



「……なんか、闇が深いな。」



「…はい。噂のリゼルバーグの王子も動き出していますからね。」


 シルバニアはマンドリン家の娘がリゼルバーグ国に送られた事をミハイルから報告を受けていた。


「漆黒の闇魔法はアン・シーリー・コートの魔法では無いそうです。つまり、魔族の者が使う魔法らしいです。ガルーシアという魔族化した者は居たものの、魔力が少ないので、とても漆黒の闇魔法は使えないのだとか。」



 ケルピーの森で使われた、漆黒の闇魔法。彼らはエジントラン連邦王国の者ではなかったのか。あの東北のバイカル湖でも使われていたらしいしな。


 春音に言って、闇の精霊クロに確認してもらう必要があるな。





 春音は高坂のお願いでミトレスを誘い、女子会に参加していた。


 今回はパメラのお屋敷で女子会です。魔物の皮で小物作りますよ!


 レッドホーンとイエローエルクとか、ブルーグリズリーやデアウルフ等、他にも材料はよりどりみどり〜。魔石もコルクや木の皮も討伐や襲撃で沢山手に入りました。


 イエローエルクの皮も良いけど、角でボタンを作っても良いよね。


 パメラのお屋敷は凄かった!学校みたいな大きさ。三階の建物。地下も二階まである。

 お庭にある温室を見せてもらった。外は雪が積もっていたのに、温室の中は暖かかった。


 なので、温室にテーブルを置いて、お茶会をした。ブーケット蘭が青も白もあったので、婚姻の儀を思い出しちゃったや。国花だもんね。


 イエローエルクとレッドホーンでアルフのお財布を作っているんだけど、お揃いで、あたしのポーチを作ろうと思っているの。皮のなめしはプロにやってもらった。

 まずはカットから。


 ソフィアからもらった型紙にそって、ペンを入れた。アルフのお財布の分とポーチの分。


 パメラのお姉様も今回は飛び入り参加で、レッドホーンでショルダーバッグを製作中だよ。


 パメラとそっくりだけど、髪の色だけは違う。パメラは栗色だけど、お姉様のマニラは輝くブロンドヘア。癖が強いので、三つ編みにしているのがキュート。


 カットがよれよれなので、魔法で綺麗にした。そして、繋ぎの部分にカットを入れる。角を斜めに薄くしたり、愛情を込めて一つ一つ丁寧に作業する。


 ミトレスはレッドホーンで帽子を作っている。高坂のリクエストらしい。こちらも真剣。愛情がこもってるね。




「……はぁ。羨ましいですねぇ。殿下。」




 シルバニアが呟く。



「……ん?」




「私もお財布作ってもらいたいです。」



 ああ、そうだったね。シルバニアはもっと先の未来にならないと、出会えないんだったね。

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