59話目 其々の思い、思惑

 エジントラン連邦はブーケッティア大陸とはかなり離れた、東のトラン海のエジントラン諸島にある沢山の島々で暮らすエルフ族、ドワーフ族、人族、獣族、ドラゴン族、トカゲ族等の様々な人種で構成された連邦国家である。


 国の中央部にある、アン・シーリー・コートの暮らすコロラド島の宮殿の最深部、地下50階の庭園でアリッサは薬草を収穫していた。



「アリッサ様!お姉様はいかがですか?落ち着いてきました?」



 第三巫女のフィリシアがお供も付けずに、現れた。


 アン・シーリー・コートの中でもずば抜けた魔力の持ち主で、予言や透視、魅了、感応の魔法の才能がトップクラスの魔族である。



「…また一人で来たんですの?お目付け役は無能ね。それとも、魔力を使って神殿から出て来たのかしら。」



 アリッサは呆れたような目をフィリシアに向け答えた。



「えへへ。そんな意地悪言わないでくださいな。毎日毎日、勉強ばかりじゃ息がつまりますもの。息抜きが、必要だと思いません?」



 フィリシアは悪びれる様子もなく、ニコニコ微笑みながら言った。



「…フウッ。…ガルーシアはまだ眠っていますわ。あれから変わりはなくてよ。」



 アリッサの姉である、ガルーシアはプワトロ第二皇子の命令で、ブーケット国に戦いを仕掛けに行ったが、先日瀕死の状態で戻ってきた。


 しかも、同士は3人しか残っていなかった。


 どんな無茶な作戦を考えたのやら、プワトロ殿下はどうしてしまったのか。


 ゲラン第一皇子が亡くなってからというもの、プワトロ殿下がエジントラン連邦の継承者として周りから見られる事の重圧のせいなのか、はたまた後ろ盾というミノに隠れて私欲を肥やす、取り巻きのせいなのか、プワトロ殿下のする事は日に日に迷走し、暴走してきている気がする。


 殿下を操ろうとする者のせいなのか。気が触れたように時々叫び出したり、今回のように突然ブーケット国という大国に戦いを挑もうとしたり、はっきり言って常人のする事ではない。


 第三皇子のアントル殿下が向こうの世界に追放されてしまった為、プワトロ殿下しか、残されていないというのに。


 エジントラン連邦国は異種族で形成された国なので、其々の種族の主張が異なり纏めるのは中々難しかった。


 ゲラン殿下が生きていた時はまだマシだった。殿下は魅了と人前に立つとカリスマ性と説得力のあるスピーチに、誰もが引き込まれた。種族を超えゲラン殿下にならと、信頼も大きかった。


 やはりブーケット国に戦いを挑むのは間違いだ。相手はスィーテニア最大の国だ。国力も人の数も圧倒的に違う。


 魔物を人の代わりにする等、無理だと解っているだろうに、何故挑むのだ。戦争したいのは上の奴らだけだ。痛い目に合うのは下の者達だけだから、何も解っていないのだ。


 向こうが本気になって反対に我が連邦国に攻めて来たら、どうす対応するのだろう。魔力でも、人数でも勝てるわけでもないのに。


 今回、戦に使われた魔物の内、ブルーグリズリーは私達ランドルウッド家で提供したものだ。繁殖が成功し、これからという時につがいの二匹を残し、他は全て持っていかれた。


 手塩にかけて育てた、やっと成長したばかりの若いブルーグリズリーも連れて行かれてしまった。



「可愛いモフモフの子達でしたわ。ガルーシアが殿下の命令にしたがって同行したのは、この子達が居たからだと思いますの。きっと死なせたくなかったからでしょうね。」


 アリッサは目頭を押さえながら話した。



「私もあの子達を撫でると癒されましたわ。アリッサ様もお辛かったですわね。」



 フィリシアはニッコリ微笑み答えた。



「ガルーシア姉様の為に、薬草の採取お手伝いいたしますわ。」




 フィリシアは薬草を収穫すると


「ポーション作りも、手伝ってもよろしいでしょうか?」


 と嬉しそうに聞いた。


 そうね。今出来る事をやるしかないのよね。





 リゼルバーグ国のダーラシュフォン王太子は部下の報告を苦々しい顔で聞いていた。



「やはり、所詮はゴミダメの集まりか。エジントラン連邦国と名前だけはご立派だが、浅慮な作戦しか思いつかんとはな。魔物の数を増やしても、それだけでは勝てぬとは思っておったがの。」



 それでも、少しでも戦力を削げればと思っていたがな。強力な治療士がいるらしい。それ程までに、ブーケット国とは強大な国なのか。

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