第41話 憂さ晴らしの大救出劇〜完了!

 ミハイルは水流に呑まれ、東へ流されていく仲間の隊員達を、岩にしがみ付きただ、眺めているしかなかった。


 これはもう、仕方ない。最終手段を使うしかなかった。

 ピアスに仕込んである、シルバニア近衛兵隊隠密部隊長、直通の通信機を使った。


「部隊長、お久しぶりですぅ。今良いですか?」


 シルバニアの周りから、賑やかな歓声が響く。

 そうか、他の隊達は王宮に戻ったばかりなんだな。羨ましい。


「すみません。馬鹿共がコカトリスと共に流されてしまいました。おっと!…通信が切れそうです。お願い…部隊長!…助け……」


 ため息を吐くシルバニア。

貴族の問題児達に、私の手の者を上手く潜り込ませたつもりだったのですが、ミハイルは気まぐれな所がありますからね。我儘わがまま共に我慢出来なくなって、見捨てたのでしょうか?コカトリスと言っていたようですが、まさか本当に非常自体?あのミハイルが?


 一応、形だけでもと、第3隊のご親族様に確認しなければ。今後の処置の為にも、責任の所在場所がどこにあるか、または上手く取らせるか、確認し考えないとなりませんね。


 ご親族様達は皆、驚いておられました。


「きっと、強い敵と戦っている最中で、討伐が長引いているんですよ。」


 と誇らしそうなのは、アレキサンダーの父上です。ここは武将を多く輩出した、名門バルトトロス家ですから。

 それはどうでしょうね。アレキサンダーも大変でしたね、馬鹿共のお守りをさせられて、可愛そうだとは思ったのですが、真面目な彼だからこそ、打って付けだったのですが。やはり、荷が重かったようですね。

 他の親族は私と目も合わせようとも、しないんですから。ご自分の息子達の事、良く分かってらっしゃるようです。


「その可能性もあります。従って我々が手助けを必要であれば行う予定です。側で確認し、必要なければ、ポイント等は彼等に渡しますので、ご安心を。」


 アレキサンダーの父上はホッとした顔をしたが、他の親族は明らかに別の意味でホッとしたようだ。



 よし!殿下に報告しよう。


「殿下、大変です。第3隊が戻りません。其々それぞれのご親族に確認した所、そちらにも連絡がありません。」


 そう、第3隊長は何の連絡もありませんからね。



 アルフは途切れ途切れ、検索魔法に反応する、アレキサンダー隊長の腕輪に通信を試みなから、ウラヌス渓谷を北上した。


「腕輪通信機は失敗だったな。魔石の量が少なかったせいなのか、それとも場所が悪いのか。」


 磁場が強い場所だと、魔石の効果が弱まる傾向がある。もし、そういった所に居るのであれば、早目に行かないと、最悪検索出来なくなってしまう。だが、検索魔法で反応する位置は、ずっと同じ位置を示している。

 バイカル湖を東に進んだ、魔の森と言われている、バイカル盆地だ。何せ、面倒なステータス異常を起こす、毒、麻痺、石化と湿度の高い場所。それに確かに磁場が強い。


 バイカル湖をやや東に向かった所で、第3隊の隊員の一人、ミハイル・コラン・グレースが現れた。


「ども〜。殿下、わざわざのお越し申し訳ございません。」


 膝を付き敬礼する。


 ミハイルに大体の事情を聞く。

彼はアレキサンダー隊長が可愛そうだったので、東のビクタラスで、1週間も隊員達を説得した話を、多少盛って話してあげた。まぁ、事実だし。そして、コカトリス騒動で、バイカル盆地まで、流された可能性があると話した。


 そんな事だろうとは思った。

 兎に角、救出に向かうしかない。


 ここで、アルフは空間倉庫から四輪バギーを人数分出した。

そして、ふむと考えた。


「……お前はこれを操縦した事があるのか?」顔を青くして、ブンブン横に顔をふるミハイル。


「では、シルバニアの後ろに乗せてもらえ。」


 殿下はそう言うとバギーに跨り、マグノリア隊長、ジョージ、オーレンもその後に続き、バイカル盆地へ向かい走り出した。


 ミハイルはシルバニアの後ろに乗り、ガタガタいったり、跳ねながら初めて乗る、鉄の馬に恐怖した。シルバニアの腰に抱きつき、


「部隊長ぉぉ!!怖いですぅ!!

 ……ヒィッ…もうちょい……スピードォォ落としてくれませんかぁぁぁ#€*ガハッ!!」


 泣きながら訴えるが、運転しながら、楽しそうなシルバニアの歓声を聞いてしまい。ミハイルは諦めるしかないと悟った。この人ドSもいいとこだったっけ、そういや。


 凸凹な道を進んでいくと、キョッピァッギャッと言う、沢山の鳥の鳴き声がした。坂の下の窪み、石が密集した周りを取り囲むように、沢山の黄色くモゾモゾ動くものが見える。


 ほほう。どうやらエライ数のコカトリスに囲まれているようだな。


 オーレンが暴れたそうにウズウズしているが、まずは隊員達の位置を把握しなければならない。


 水魔法で流された隊員達は3m程の高さの石で、流れを止めたらしく石の影に隠れていた。


 人数を確認した。ヨシヨシ!全員いるな。コカトリスは興奮し、石の周りを回っては、くちばしを突いて鳴きながら威嚇いかくしている。だが、密集した石の隙間に居る隊員達には、あたっていない様子だ。


 その数、100匹近くはいるんじゃないか?思わず彼方あちらの世界のヒヨコの繁殖場を思い出した。

 コカトリスの大きさは1m弱。単体では弱いが、必殺技の石化ブレスがある。石の側に隠れたのは案外悪くない。石に石化は効かないので、魔法自体が無効になる。毒ブレスと違って、石化ブレスはあくまで魔力を使った魔法だから。そこにいれば石化ブレスは仕掛けてこないだろう。


 だが、隊員達の疲労はピークのようだ。魔力も枯渇こかつし、時間の経過からキチンと眠れていないだろうし、体力も残ってなさそうだな。仕方ない。


「これより、コカトリス討伐ならびに、第3隊員救出に向かう。あくまでも討伐より、救出が優先とする!安全を確保しての場合であれば、あらゆる魔法、兵器の使用を許可する。以上救出にあたれ!」


 ウッヒョ〜ウ!

 はっ!

 畏まりました!

 よっしゃ!


 飛空魔法で飛び出したのはオーレン。飛びながら風魔法を唱えた。


「サイクロンソード」


 オーレンが近付いくとコカトリス達の首を、カマイタチと剣で次々と撥ねていく。その様はエグい。血しぶきが上がり、混乱し、逃げるもの、攻撃しようとするが、オーレンの動きは早い。


 次にマグノリア隊長が大剣をサーフボードのように自分の体を乗せ、やや浮かせながら、やはり首を撥ねていく。そして両手には別の剣を持ち、コカトリスを猛スピードで切り裂いていく。


 二人だけでも地獄絵なのに、ジョージが「ファイヤートルネード」と叫び、風圧で捲き上るコカトリスはその身を炎が包み、こんがり焼き上げていく。


「ズルイ、、。」シルバニアは呟やくと、沢山の矢の束を浮かせて「ライジングアロー」と一度に沢山の雷の矢を放った。逃げるコカトリスを次々と串刺しにし、やはり燃え上がらせて絶えた。


 そして、殿下が少しづつコカトリスに近付いて歩いて行く。一斉にコカトリスは石化ブレスを殿下に向け浴びせるが、殿下の周りに白いほのおのような光に弾かれる。


 殿下の体が浮き上がり、髪が逆立ち、虹色に光輝いたと思ったら、残りのコカトリスの体が弾けた。


 ミハイルはただ硬直し、立ち尽くしていた。何も手伝う事ないね。

 怖っ!!バケモノだらけの第1隊の噂って、本当かもしれない。これより強いハルネ様の魔力って?

 何もの??



 その一部始終を全て見ていた、第3隊員達は恐ろしさで、腰を抜かしていた。



 コ、コカトリスより怖ェェェッ!



 まぁ、その後の隊員の態度の低さったらなかったね。素直な心を取り戻したようで、殿下達に感謝と尊敬の眼差しで、頬を染めて、キャッキャッしてたようだ。カッコイイ〜♩とか何とか……。


 確かに、格好良すぎて、何かなぁ。俺も頑張らないと。今回、全然良いとこ無かったなぁ。


 シルバニア部隊長がコッソリとお疲れ!と言って、肩をポンと叩いた。


 …でもって最後の最後に、ログナーが突然現れた。


「では王宮へ運んでも宜しいでしょうか?」


 殿下が頷くと、全員を一度に王宮へ運んだ。


 ゲッ!お前居たんかい!!


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