朝起きたら奴隷がいた
藤原
第1話
朝起きて気がついた奴隷がいた
「あー、嬢ちゃんはどうしてここにいるのかな?」
「覚えてないのですか?」
ぴょこぴょこと動く耳。首には大きな首輪。着ている服はボロ布。
うん、少女にさせていい格好じゃない。というか、首輪ついてる時点で奴隷だよな。なんでいるんだ?
よし昨日のことを少し思い出してみよう。
確か昨日は仲間と仕事の成功で盛大に飲み歩いて……勢いで奴隷商に行ったような気がする。
そこで何かオススメされて、酔っ払った勢いでその時稼いだ金を全部使って奴隷を一人買ったような……
「いや買った経緯は思い出したけど、そこからは全く覚えてないから、買った後のことを教えて欲しい」
「ご主人様は私を買われた後、すぐにここに私を引っ張っていきました。私の体を舐め回すように見ていました。正直言って気持ち悪いです。近寄って欲しくないです。ご主人様は女の体を舐め回すゲスなのですね」
「ひどい言い草……」
「事実ですから。どうせ私を買ったのも持て余す欲望を私を使って存分に発散するか為なのでしょう? 汚らしい」
随分と口の悪い娘のようだ。あ、契約書。流石に高額商品だから契約書くらいはあるかな。
そう思い探してみると机の上に乗っていた。
「えーっと、主従の契約を交わした証として首輪が奴隷にはつけられています。これは奴隷の位置を補足するとともに懲罰を与えることも可能となっています。痛みの段階は五つあり……ふむふむなるほど」
契約書もとい説明書によるとどうやら俺が念じることによって首輪から適度な痛みを与えることができるらしい。試してはみたいがその前にこの娘の服装がきになる。どうせなら俺の好みの服を着せたい。
「よし、君の名前は?」
「どうせ答えなければこの首輪を使って痛めつけるのでしょう? ご主人様は鬼畜ですね」
「いいからさっさと名前教えて」
ここまで言われるとへこむよ。
「リリー」
「よし、それじゃリリー服買いに行くぞ。ついてこい」
「私に何かいかがわしい服を来させようとしているご主人様は変態ですね」
なんだろう。この娘、これを素でやってるならとんだ変態だな。エルフってこんなに変態なのか?
「普通の服だから大丈夫だよ」
「それなら良いのです」
つかみどころのないエルフだ。いやそんなことより店に行こう。知り合いの服屋の親父ならリリーに似合う服を見繕ってくれるだろう。
「おい親父!!」
「朝っぱらからうるせえな。大きな声出さんでもわかるわい」
服屋の親父はリリーを見て俺を憐れみのこもった視線で見てきた。なんだよひどいな。
「お前、とうとう犯罪者になろうとしているのか」
「誤解だから!?」
誤解を解こうと説明すると、親父は豪快に笑ってそりゃ災難だったなと言ってくれた。うん、この親父は見た目は怖いけどやっぱりいい人だ!
「で、この娘に似合う服をいくつか見繕って欲しいんだ」
「それならいい服が何着かあるな。嬢ちゃんちょっとこっち来てくれるか」
リリーは何も言わずに従う。俺の時とはえらい違いだ。俺への不遜な態度は一体なんなんだろう。
「このサイズでとなると…… あったあった」
「はいよ。これとこれ、あとはこれだな」
親父は手際よくリリーのサイズに合わせた服を何着か出してくれた。試着して丁度いいようなら買っていこう。
「試着の必要はねえよ。俺の見立てに間違いはない。それに嬢ちゃんにはなんでも似合うよ。お前の好きそうな服も何着か入れておいたからな。なんならそれを着せていけよ。いつまでもそんなボロ布だとその子もかわいそうだ」
「そうだな、リリー着替えるか?」
「着替えます」
素直でよろしい。素直な言葉は嬉しいなあ。
「おい兄ちゃん、どんな事情であれ一度買ったなら絶対大事にしろよ。あういう状況に置かれる子は大抵心に傷があるからな。メンタル面を気をつけないと大変なことになるかもしれないぞ」
「忠告ありがとさん。参考にさせてもらうよ」
心の傷なんてリリーにはありそうにない。俺に悪態つくしどっちかというと俺の心の方がボロボロです。
「ご主人様はこういう服が好きなのですか? だとしたら変態です。変態ば近寄らないでください」
「言われてるなあ兄ちゃん」
親父は豪快に笑ったが俺としては結構、グサグサと心に突き刺さる言葉です……
それにしてもメイド服を着たリリーは随分と可愛い。口さえ悪くなければ完璧か。
「そんじゃまたなんかあったら頼むわ」
「おう、いつでも待ってるぜ。そこの嬢ちゃんもいつでも来いよ。大歓迎だ」
親父は優しい。見た目はスキンヘッドかつ筋肉隆々で服屋とは誰も信じなさそうで、さらに言えば裏社会の人っぽいのに善人だ。
人は見かけによらないってのはこのことなんだな。
「さて次の店に行こうか」
「私にあんなことやこんなことをするために必要な道具が売っているお店ですね。なんで畜生なご主人様なんでしょう」
「街中でいうのはやめてほしいんたけど!?」
「事実ではないですか」
真顔だ。真顔で言ってくるから尚更怖いんだけど。
「いいから来い!」
「ああ、私はこれからどうなっていくのでしょう」
無理やり手を引っ張って次の店に向かう。あまり抵抗しないところを見ると嫌ではないようだ。なんなの本当に。
「お前遂に小さな子に手を出したのか…… なに気にするな。私はお前がそんな社会的によろしくない趣味を持っていても蔑むだけでそれ以外の付き合いは変わらんから」
ん? 結局アウトって言ってるじゃないか! 俺の友人はこんなやつしかいないの!?
「それで真面目な話、その子はどうしんだ」
よかった彼女はふざけていたようだ。
「実はーーという訳なんだ」
「やっぱり犯罪者でいいか」
「よくない、よくないから!!」
必死に否定するが目の前の女は分かった分かったと棒読みで言ってきやがった。なんたる屈辱。
「そんなことよりもこの娘に必要なものを買いに来たんだけどさ、適当に見繕ってくれないか?」
この女の営む店とは何でも屋に近い。最初は寝具を売っていたはずが、なんだか家具やら雑貨やら果てに占いの用品まで置くようになった意味不明な店だ。
置いているものが来るたびに増えていふが何かと便利な店ではある。
「……服は親父のところで揃えたか。お前の家にもう一つベッドを置く余裕はあるか?」
「いやないな」
そういえばあの家も二人で済むなら狭いかもしれないな。
「分かった。どうせあんなボロ屋はすぐに引っ越しそうだから、枕と毛布で十分だろう。あとは日用品はその娘に選ばせな」
「だそうだ。リリー、自分の食器とかを適当に選んでくれ」
「ご主人様が選ぶと淫乱な食器になりそうだったからよかったです」
もう本当になんなのこの娘。
「おい、お前は引退することは考えているのか?」
引退、唐突に言われたそれは俺の今の仕事のことだ。
「んー、稼ぎはいいからまだ辞めたくないな。それに引退後にどんな仕事をするか全くビジョンが見えん」
「早めに考えておいた方がいいぞ。いつまでもできる仕事じゃないからな。もっとも、二十半ばのお前はあと数年は仕事ができそうではあるがな」
「ご心配ありがとう。いざとなったら育成にでも回るか、なんかの斡旋業者でも作るよ」
ぼんやりとしか思い描いていない引退後の人生設計の一つだ。まだまだ稼がなくちゃいけないという気がして引退の『い』の字もないのが今の俺だ。
だが、こいつの言う通り考えるべきではあるのだと思う。
「はは、仮にもそこそこ強えお前ならどうにでもなるんだろうな」
「ご主人様は強いのですか?」
「ああ、こいつは友人としてのひいき目抜きにしてもかなり強い。リリーちゃんも見たと思うけど本来あんなボロ家に住む必要なんてないはずなんだけどね」
「以外です。私は弱いヘタレなのかと思っていました」
なんだと。これは今までの中で一番の心外だ。流石に怒っちゃうぞ!
「戦闘面以外ではそれも間違っちゃあいないなあ」
おいそこ! 何言ってるんだ。ただこいつがいうなら事実ではあるんだろうが、リリーに揺すられそうなことはあまり言わないで欲しい。
「それで選び終わったのか?」
「はい、ご主人様に無駄なことを言われる前には選びきることができました。これで私の純潔は守られます」
うん、言っている意味が分からん。
「お前も苦労しそうだな。私含めて周囲は賑やかになりそうではあるけど」
「だといいんだけどな」
心の底から何もなく賑やかになってほしい。
「そういえばリリーちゃんはいくつなんだい?」
そういや幾つなんだろう。見た目的には間違いなく10代だが後半か前半かはわからん。
「今年で15歳くらいになります。よかったですね。おそらくではありますが”ロリ”と言われる年齢は超えていて」
15歳にしては随分と変態な気がするが、そこは触れない方が吉だ。君子危うきに近寄らずと言うし。
「以外だねえ。私の目にはもう少し下に見えたよ」
本当に余計なこと言わないで!
「ご主人様はやはり幼女趣味があるのですか?」
ほらこうなった。もう答えていて飽きないけど、心は徐々にえぐられていくんだから勘弁してほしい。
「そんな趣味はないよ。俺はアイツが好みだよ」
「バカっ! 目の前でそういうこと言うんじゃない!!」
照れてやんの。でも事実だ。
「お二人は付き合ってらっしゃるのですか?」
「「……」」
少なくとも俺は付き合いたい、のだが……
「お前、私に気があるなら言葉にして言えや」
「そっちだって」
「なるほど、要するにお二人は両想いにもかかわらず照れ臭くてお互い付き合いたいことを言い出せないヘタレだったのですね。私、そういうのは好きですよ」
リリー……世の中には言っていいことと、言わない方がいいこともあるんだぞ。だけど、これに関してはちょっぴりありがとうと言いたい。
言ったらなんか言ってきそうだから言わないけど。
「なあエマ、良ければ俺と一緒に暮らさないか?」
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