第33話換金騒動

12月4日8時00分:川崎駅前の喫茶店


 昨晩のうちに、どうすれば少しでも早く帯広競馬場のたどり着けるか調べに調べた。


 絶対に動かせないのがウィンズでの換金時間で、これは10時からと決まっている。


 羽田空港に1番近いウィンズは川崎競馬場内にあるウィンズ川崎だった。これだと大井の定宿に泊まった方がよかったのだが、こればかりは今更どうしようもない。朝早くに、時間が読める電車で川崎駅まで移動し、口座のある銀行と交渉しておくべきだろう。


「タクシー会社さんですか?」


「はい、○○タクシー会社です」


「明日、8時30分からワンボックスタイプで3時間借りたいのですが、大丈夫でしょうか?」


「はい、少々お待ち下さい、直ぐに確認させていただきます。それでどこに配車させて頂けばよろしいのでしょうか」


「川崎駅までお願いします」


「3時間で1万3770円です。そこに車種指定料金500円がかかり、合計1万4370円になりますが、それで宜しいでしょうか?」


「それでお願いします」


「受け賜わりました」


 昨晩の内にタクシー会社に予約を入れておいたのだ。




「○○銀行川崎支店です」


「○○支店で口座を持っている、○○勝也です」


「はい、○○勝也さまですね」


「今日そちらの店から入金させていただきたいのですが、金額が多いので、手伝いの外交さんを手配してもらえますか?」


「それはちょっと受け賜わりかねるのですが?」


「○○支店の口座番号○○○○○○○で○○勝也の残高を確認してもらえますか?」


「え~と、え! な、7億2200万円!?


「今回も6億少し入金したいのですが、手伝いが出せないのなら、他の銀行にお願いする事になりますが、それで宜しいですか?」


「少々御待ち下さい、渉外係と相談させていただきます」


「では他の銀行と相談してみて、その後で電話させて頂きます」


「あの、ちょっと」






「はい、ウィンズ川崎でございます」


「あの、昨日一昨日と中山競馬場で大穴を当てさせてもらったものですが」


「はぁ? そうでございますか」


「ネット投票でも○○勝也で同じだけ勝っていますので、少々調べて頂ければ直ぐに分かると思います」


「はぁ、それでどう言うご用件でしょうか」


「10時丁度に、6億3398万円ほど換金に伺わせていただきますので、用意しておいて下さい」


「はぁ? 御冗談は御止め下さい」


「ネット投票の加入者番号は○○○○○○○○○、P-ARS番号は○○○○、INET-IDは○○○○、の○○勝也だ。過去の勝った履歴を調べてみれば、言っている事が嘘かどうかは分かるはずだよ。ネット投票と同じだけの現金投票をしていたんだ。行って現金が用意されていなければ、君と上司をこってりと絞らせてもらうからね」


「冗談は御止め下さい、この電話は記録されています」


「それは好都合だよ、俺は1分1秒で大金が動く仕事をしているんだ、事前連絡していたのの用意しておかなった証拠になるからね。それと俺もスマホで今の会話は録音しているからね、その事は忘れないでね。じゃね」


「太郎君、花子ちゃん、綾香さん、そろそろ時間だから行こうか」


「行くよぉ~」


「花子もいくよぉ~」


「はい」






「○○勝也です」


「お待ちしておりました、○○タクシーの鈴木と申します」


「今日は3時間で色々な所に行ってもらいますから、宜しくお願いします」


「こちらこそよろしくお願いいたします」


「では最初に○○銀行の川崎支店まで御願します」


「承りました」






「すみません、先ほどお電話させて頂きました、○○勝也と申しますが」


「はい、○○勝也様ですね、担当に代わらせていただきますので、少々御待ち下さい」


「ああ、今から店の方に行かせてもらいたいのですが、それで宜しいですか」


「はい、え~と、営業時間までまだ少しあるのですが」


「いいですよ、店の前で待たせてもらいますから」


「え? はい、分かりました。失礼したしました、○○勝也様、勝手口から入って頂けますでしょうか」


「彼女と子供2人も一緒なので、その心算でいて下さい」


「え? はい、承りました」






「鈴木さん、ここで待っていてください」


「はい、御待ちさせていただきます」


 ○○銀行の川崎支店まで行くと、まだ少し営業時間までは早かったのだが、勝手口から入れてくれた。


「○○勝也様ですか、私は支店長代理の佐藤と申します」


「○○勝也様です、まずはこれを入金して下さい。信用していただくための見せ金です」


「見せ金でございますか?」


「はい」


 俺は何時でも使えるように用意しているお金の内、1000万円を出して入金を御願した。


「でです、本命の現金なのですが、まずはこの画面を見て頂きたいのです」


 俺はノートパソコンを取り出し、JRAの払い戻しページを開いた。


「この結果を確認して頂けますか?」


「はい、確認させて頂きましたが?」


「で、この当たり馬券を確認してください」


「この馬券でございますか?」


「はい」


 俺は予想が的中した6億以上の馬券を1枚1枚確認してもらった。


「で、この馬券をウィンズ川崎に行って換金したいのですが、出来るだけ早く入金作業を終わらせたいのですよ」


「そうですか、理解いたしました」


「で、です。何人の行員の方を出して頂けますか」


「2人で行かせていただき手宜しいですか?」


「こちらは構いませんが、ウィンズで預かり証を頂きますが、その後怖くはないですか?」


「4人手配させていただきます!」


「それとです」


「何でしょうか?」


「ウィンズには事前に連絡しておいたのですが、どうも信用していなようなのです。今日も帯広競馬場で勝負する心算なのですが、ウィンズで時間を取られると勝てるレースに間に合わなくなるんです」


「それで私にどうせよと言われるのですか?」


「ウィンズの方に、○○銀行から換金されたと同時にお金を預かりに行くと、そう連絡して欲しいのですよ」


「それは、私の一存では」


「それは僕に何度も何度も同じ話をしろと言う事ですか? 佐藤さんは支店長代理ですから、課長に次長に副支店長から支店長と、同じ話をさせるのですか? それくらいなら、××銀行さんか△△銀行さんにお願いしますよ」


「少々お待ち願えますか?」


「ええ、でも駄目なら早く返事して下さいね。駄目なら他を当たりますから」


 結局のところ、ようやく支店長を引っ張り出すことが出来た。通帳の残高を確認したのだろう、狂人のヨタ話ではないと判断してくれたようだ。


 その上で、当たり馬券とネットの払戻金ページを穴が開きそうなほど見比べていた。途中で女子行員が耳打ちしていたから、恐らく俺のノートパソコンだけでなく、自分達のパソコンからもアクセスして確認していたのだろう。


 そこまでして、支店長はウィンズ川崎の連絡を入れてくれた。まあただの入金ではなく、川崎支店で6億円の定期貯金をすると言う約束はさせられたが、これくらいはどうと言う事はない。支店長にしても、定期で6億円の残高が増えるのなら、少々の無理はしてくれるのだろう。この銀行も昔からネット投票に選ばれるだけの都銀ではあるし、確認の為にウィンズから銀行に直接電話をさせていたから、10時には直ぐに換金してくれるだろう。


 6億円以上の大金だから、言ってすぐに換金してもらえるとは到底思えなかった。だからこその手間暇だが、御蔭でウィンズ川崎に行ってすぐに、1億円の定期預金の預かり証書6枚と、3400万円残高が増えた普通通帳をもらう事が出来た。


 予定していた以上に早く全てを完了することが出来た!


 そこでウィンズ川崎からタクシーと飛ばし、羽田空港に入ってキャンセル待ちをすることにした。運がいいのか悪いのか、キャンセルがなく12時15分まで待たねばならなくなってしまった。こんなことなら銀行で定期証書を発行してもらえばよかった。


タクシー代:3時間:1万4270円


 空港では、前もってコンビニで買っていたパンやお菓子を食べる事にした。これほど時間があるのなら、空港ターミナルビルで食べたのだが、時間ぎりぎりになると考えて買ってしまっていた。


コンビニ代:4000円


「予約していた空路」

羽田空港:12時15分発

AIRDO ADO65便 帯広空港行

大人3万3900円×2=6万7800円

幼児1万6950円×2=3万3900円

帯広空港:13時50分着

    :14時00分発

連絡バス 帯広行

大人1000円×2=2000円

帯広競馬場:14時45分


電車代 :1760円

航空機代:大人2人8万6200円

    :小児2人4万3200円

    :小計12万9300円

バス代 :2000円


 何とか帯広競馬場のパドックに辿り着いたのは14時55分で、第3競走の出走馬の元気さを確認出来た。太郎君と花子ちゃんは、輓馬には特に親しみを持っているようで、食べる事も忘れて声援を送っていた。俺達はコンビニで買ったパンとお菓子の残りを食べて最後まで過ごした。


 今日は現金もネットも17万8710円づつ勝つことが出来た。純粋にお金儲けだけなら、船橋競馬場に行った方が大儲けできただろう。だが、太郎君と花子ちゃんは輓馬に会いたいのだ。その気持ちを無碍にするわけにはいかない。


ネット投票:17万8710円

現金投票 :17万8710円


 11競走まで声援を送った後で、今回も帯広のカレー屋さんい行く事になった。太郎君と花子ちゃんが、珍しくどうしても食べたいと言ったのだ。前回食べたカレーが、忘れられない美味しさだったのだろう。


 前回はインデアンルーを食べたので、今回は野菜カレーにして野菜ルーを試ししてみたが、これもとても美味しかった。辛さの程度は、太郎君と花子ちゃんは普通を頼み、俺が中辛で綾香さんが辛口だった。トッピングはチーズ、ハンバーグ、チキン、エビ、カツと全部乗せにした。俺は水を飲んだが、3人は前回と同じようにメロンソーダと山ブドウを頼んだ。


「カレー屋メニュー」(税込価格)

普通:子供から大人まで食べれるスタンダードな辛さ

中辛:普通の辛さにもう1味辛さを加えたもの

辛口:更に辛みを加えコクのある辛さにしたもの

大辛:辛さに更に辛さを加えた本場の辛さ

極辛:本場の極辛

「カレー」

野菜(野菜ルー):421円×4=1684円

「トッピング」

チーズ  :86円×4=344円

ハンバーグ:194円×4=776円

チキン  :194円×4=776円

エビ   :194円×4=776円

カツ   :259円×4=1036円

「ソフトドリンク」

メロンソーダ  :86円×3=256円

山ぶどう    :86円×3=256円


小計:5904円


カレーを食べた後で、定宿にしている温泉ホテルに戻った。

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