第21話養老馬 帯広グルメ3 寿司
帯広競馬場バックヤードツアー:13時00分
入場料:200円
バックヤードツアー代:2000円
「お馬さん沢山~」
「可愛い~」
「これだけ沢山の輓馬が並んでいると壮観ですね」
「ええ、1トン前後の馬の迫力は凄いものですね」
俺達4人は、時間までに集合場所に行き、バックヤードツアーに参加させてもらった。
最初に馬と人が一つ屋根の下で生活するきゅう舎地区に連れて行ってもらい、競馬の公平性確保のために、出走馬の馬体検査、蹄鉄の検査、馬体重の測定や、馬の健康状態のチェック等を行う装鞍所(そうあんじょ)に案内してもらった。
「あのお馬さん泣いてるぅ~」
「あのお馬さん死んじゃうのぉ~」
「勝也さん、どういうことなでしょうか?」
「競走成績が悪くて、馬肉になるのかもしれないですね」
「え?! そんな事があるのですか?!」
「ええ、東京競馬場や大井競馬場で走っていたサラブレッドは、肉質が硬く脂肪も少ないので、肥育しても人が食べるのには向きません。まあ動物園で飼っている、ライオンや虎の餌にする場合は、安い上に逆に高タンパク低脂肪なので、重宝されると聞いた事がありますが」
「でも、ここにいる輓馬達は人の口に入るのですね!」
「基本食用に輓馬を生産している訳ではなのですよ、そんな事をすれば、受胎から食肉にするまで2年前後の月日が掛かってしまいます。だから食肉になった馬肉を直接カナダやメキシコ・アルゼンチン・ブラジルなどから輸入しています。後は当歳馬や1歳馬を生きたまま輸入して、ある程度肥育してから食肉にする場合もありますね」
「今日も豚丼を美味しく食べた私達に、その事をとやかく言う資格はないのでしょうね」
「ええ、あくまで経済動物ですから。馬主さんも生産者さんも、家族や社員を養い生活を保証しなければいけないんです。昔バブル時代に、グルメブームで食肉用輓馬が1頭100万円で売れた時代があったんです。でもバブルがはじけて、1頭30万まで価格が暴落した事があるんですよ」
「今は1頭30万円程度なのでしょうか?」
「どうでしょうか、昔ね、養老馬制度と言うのに興味があって、調べた頃の金額ですから」
「養老馬制度ですか?」
「ええ、引退した馬を肉になどせずに、みんなでお金を出し合って寿命を全うさせてあげようと言う、ボランティア活動ですね」
「そう言う活動もあるのですね!」
「犬や猫を保健所から引き取って、里親を探すボランティアがあるでしょ、それに似た活動ですよ。でも犬や猫のようには行かないのは、自宅で保護する事が出来ないので、お金を払って牧場に預けるしかないという事ですね」
「確かに一戸建てに住んでいる人でも、駐車場で馬を飼うと言う訳にはいかないのでしょうね」
「ええ、気性の荒いサラブレッドでは、散歩の時に他人を傷つける恐れがあります。そもそも輓馬やサラブレッドを、素人が散歩させるなんて絶対無理ですから」
「牧場に馬を預けるのには、幾らくらいのお金が必要なのですか?」
「競走馬を育成するような牧場は、調教費用がかかるので、月額30万も40万もかかります。養老だけを条件に、牧場に預けた場合は月額7万5000円に、別途実費で月額1万円から2万円の装蹄費に、年数回の伝染病検査代と予防接種代が毎回1万円程度必要だったと思います」
「思っていた以上にお金が必要なのですね」
「はい、走れなくなって、1円も稼げない馬を生涯飼い続けると言う事は、馬主にとって相当な負担なのですよ」
「仕事と言うか、企業・商売・家業として馬に携わっている人にとったら、走れなくなった時点で負担でしかないのですね」
「はい、身も蓋もない言い方をすれば、余計なコストでしかないのです」
「でも、勝也さんは助けてあげたくて、調べられたのですよね?」
「ええ、ホースセラピーと言う考え方もあったのですが、それだともっと身近でいつも側にいてくれる、犬や猫の方が効果がありますから。それにけがや病気になった場合、保険なんかありませんから、何十万何百万もの負担が増える事もありますから」
「けがや病気が駄目なのぉ~」
「けがや病気なら治せるよぉ~」
「「え?!」」
「太郎君と花子ちゃんはけがや病気を治せるのかい?」
「治せない~」
「でも薬があるよぉ~」
「そうか、その話は後でしようね」
「わかったぁ~」
「花子もわかったぁ~」
「勝也さん?」
「ちょっとシャレにならない話なんで、後で4人だけで話しましょう」
「いいよぉ~」
「花子もいいよぉ~」
「分かりました」
「養老牧場の馬預託料」
A牧場 :B牧場 :C牧場 :D牧場
入会金: :5万4000円: :
準備金:5万円 : : :
入厩料:10万円 : : :
月額 :4万8000円:7万5600円:7万5000円:
調教料: :1万0800円:(税別)
別途 :装蹄費・獣医費用
厩舎のない装蹄もしない昼夜放牧の野生飼い :4万2000円
「乗馬クラブの馬預託料」
:Aクラブ :Bクラブ :Cクラブ
入厩料:43万2000円:10万8000円:預託料の1ヶ月分相当
預託料:10万8000円:10万8000円:6万0000円~
調教料: :1万6200円 :
乾草代:1万0800円 : :
医療費:実費 :実費 :実費
装蹄料:実費 :実費 :実費
ウォーキングマシーン :1万0800円 :
「あのお馬さんはどうするのぉ~」
「花子あのお馬さん欲しい~」
「太郎君、花子ちゃん、勝也さんに無理言っちゃ駄目ですよ」
「いや、いいんです、太郎君と花子ちゃんの御蔭で金儲けさせてもらってますから。そうですね、競走馬の馬主になれなくても、養老馬として牧場に預けてあげるのが人の道ですね」
「係員さん、いいですか?」
「はい、何でしょうか?」
「あの馬なんですが、もしかして処分されるんでしょうか?」
俺達は、太郎君と花子ちゃんが馬の話を始めてから、競馬場で話すには色々と差し障りのある話題だったので、最後尾でひそひそ話していた。
だが、食肉になるかもしれない馬を買うとなれば、1秒の遅れが手遅れになるかもしれない。急いで前の方に移動して、バックヤードツアーの案内係さんに話しかけたのだ。
「さあどうでしょうか?」
案内係の人も、競馬が好きでバックヤードツアーに参加している人達の前で、食肉にされる輓馬の話は出来ないだろう。小声で交渉することにしよう。
「子供達が馬を欲しがっているので、肉代分は払うんで、処分される馬がいたら買いたいんですよ」
「本気ですか?」
「僕の事は聞いておられますよね?」
「協賛レースの方ですよね」
「ええ、だったら本気だと分かって下さいますよね。毎月預託料に10万くらいなら出せるんで、話し付けてもらえませんか?」
「分かりました」
怪しすぎる!
馬の処分の話の後で、こそこそと内緒話をするのだから、他のツアー参加者から非難の視線が来るのは当然と言えば当然だ。だがこんな視線に太郎君と花子ちゃんを晒させる訳にはいかない、ここは好い人を演じなければならない。
「昔から、引退する競走馬を養老するボランティアをしようと思っていたんで、ツアーに参加させてもらた今日がいい機会なんで、もし引退する馬がいるんなら買い取らせてもらおうと思っているんですよ」
「そうなんですね、でしたらツアーの後で、調教師や厩務員に話してみます」
「お願いします」
話は決まった!
決まったからには金を稼がなければならない!
「太郎君、花子ちゃん、お馬さんを助けるには競馬を当てなくちゃいけないんだけど、元気な馬を教えてくれるかな?」
「いいよぉ~」
「花子もいいよぉ~」
とても忙しかったけれど、何とか全レースを的中させる事が出来た。売り上げの少ないばんえい競馬だから、1投票当たり100円に限定したけれど、それでも結構な金額を手に入れる事が出来た。毎日これくらいの金が手に入るのなら、100頭や200頭の競走馬を養う事が出来るかもしれない。
現金投票 :65万3290円
ネット投票:65万3290円
俺達は全11レースの結果を待って、現金で買った馬券も清算してからタクシーを呼んだ。朝パン屋さんで買ったパンはまだたくさん残っているんだけど、北海道に来て1度も寿司を食べていない。明日には北海道を離れるのに、寿司を食べないで北海道を離れるなんてありえない。
昨晩の内にネットで検索し、北海道帯広市大通南10丁目7−1にある、寿司屋の中で1番上位の店を予約したおいた。17時から1時まで営業してくれているから、帯広競馬場に長くいても安心だ。タクシーを帯広競馬場まで呼んで、寿司屋さんまで行った。
タクシー代:870円
ばんえい競馬を最後まで観てから行くと予約しておいた御蔭か、着いて直ぐに座敷に案内され、大将に御任せしておいた料理が出てきた。
「先出」
塩水雲丹:塩水に漬けたウニが出てきた、こう言う時に酒が飲めたら思う
あん肝:ポン酢をかけたアンコウの肝だ、本当に日本酒が飲めればいいのだが。
たちぽん酢:真鱈の白子にポン酢をかけたものだが、昔から大好きなんだ。
「刺身」
縞あじ:白身でも淡白でなく脂乗りも最高で肉厚、この店にして正解だ!
時しらず:鮭は好きだけど、今まで食べたことがなかった!美味しい!
漬けまぐろ:醤油の漬け加減が絶品だ!
たらば蟹:食べ応えのある大ぶりな脚、味も濃厚でたまりません!
活つぶ:丸々と大きなツブ貝を刺身で出してくれるとは思わなかった
つぶ肝:ツブ貝の肝を刺身で食べれるなんて、人生初めてのことだよ!
「握り」
ひらめ:新鮮であっさりしているけど旨味がある!
ボタン海老:新鮮大きくてぷりぷりしていて甘さが最高だ!
海老ミソ軍艦:これまた新鮮で濃厚な味だよ!
海老のお碗:お替り自由と言って出してくれたけど、海老の旨味一杯だよ
シメサバ:鯖の酢漬け加減が最高だね!
生雲丹:大阪では考えられないくらい盛っている、甘味と旨味で気絶しそう!
ほたて:貝柱が大きくて下のシャリが見えないくらい、甘くて美味くて最高!
ホタテが最後と言う話なので、綾香さんや太郎君、花子ちゃんに追加に何が食べたいと聞いたら、たらば蟹を寿司にした物とボタン海老・海老ミソ軍艦・生雲丹の寿司をもう1度食べたいと言った。カウンターなら寿司ケースを見ながら握ってもらえたのだが、太郎君と花子ちゃんには、カウンターで座りっぱなしは辛いだろう。まして今日は1日中立ちっ放しだったのだから。
追加のお寿司と海老のお椀を食べてお腹が一杯になったので、近い上に深夜料金になるのだが、タクシーを呼んで温泉ホテルにまで戻ることにした。
明日は浦和競馬場に行くから、朝からバタバタするだろう。
多くの馬を養老馬として受け入れるには、とにかく馬券で稼ぐしかない。土日は売上が段違いに多いJRAの競馬場に行くしかない。そうなると帯広競馬場には月曜日しかこれなくなるが、それは仕方がないことだろう。もっともっと勝ったとしても、55%は税金を支払わなければならないのだから。
帯広競馬場や水沢競馬場以外の地方競馬場を巡りたかったけど、南関東以外の地方競馬は売り上げが少ないから、養老馬の資金を稼ぐには不向きだ。今回は上手く浦和競馬場から東京競馬場、帯広競馬場と言う流れになっているけど、いつもいつもこちらの都合よくレース日程が組まれているとは限らない。
地方競馬場だけじゃなく、競艇場や競輪場、オートレース場の食べ物を全部食べたかったけど、太郎君と花子ちゃんの想いを踏みにじって食べ歩きなんか絶対できない。会津の座敷童屋敷で、引退した馬を全部引き受けてくれるのなら大丈夫なのだが、さすがにそれは無理な話だろう。
「太郎君、花子ちゃん、ホテルに帰ったらさっき言ってた薬の話をしてくれるかな」
「いいよぉ~」
「花子もいいよぉ~」
寿司屋代 :4万1800円
タクシー代: 710円
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