座敷童に見込まれました:金運が少しよくなったので、全国の公営ギャンブル場を周って食べ歩きします
克全
第1話座敷童を預けられました!
2017年11月10日:合津磐梯山八方台登山口コース途中
「八方台登山口」
猫魔八方台登山口→中ノ湯跡→お花畑展望台→弘法清水→山頂
所要 :2時間
距離 :3・5km
標高差:620m
「もしもし、そこの旦那様」
「へ? 俺の事かい?」
「そうでございますとも旦那様」
「俺は旦那様と言われるような人間じゃないんだがな」
「いえいえ、人相と言いお姿と言い、旦那様程立派な方は滅多におられませんぞ」
「俺にお世辞を言っても何も出ないぞ?」
「いえいえいえ、お礼はこちらからお渡しいたしたいと思っておるのでございますよ」
「何か怖いな、それに俺は急いでいるんだよ」
「急ぐとは申されても、今から山頂まで行かれるのなら十分時間に余裕があるのではありませんか?」
「いや久し振りの登山なんでね、途中で断念して引き返す可能性が有るくらい自信がないんだよ」
「そうは見えませんが、それなら帰りはここで休んで行かれてはどうですか? それとも明日は仕事でございますかな?」
「いや、不況で自営業を廃業してしまって、次の仕事を探す前に最後の旅行にしようとここに来たんだよ」
「ほう! そうでございましたか、それならば私には好都合でございます」
「俺が廃業して職探ししているのが、貴女には好都合だと言うのですか?」
「はいはい、実は孫娘の世話をお願いする人を探していたのでございますよ。どうでしょう、少々話を聞いて頂けませんか?」
「まあ俺としても就職できるのなら話くらい聞かせてもらうが」
「ではどうぞお入りくださいませ」
「凄い長屋門でですね!」
「旧家でございますから」
「いやいやいや、いくら旧家とは言っても、掃き清められ手入れの行き届いた庭園のような前庭に、大名屋敷かと見まごう程の表玄関を持つ家など早々有りませんよ」
「由緒正しい旧家なのですよ」
「本当の俺が入っていいんですかね?」
「私がお迎えしたいと申しておるのです、堂々とお入り頂いて大丈夫でございますとも」
「そうですか、何か気後れしますね、こんな立派な玄関に俺の靴を脱いでいいもんですかね?」
「心配なされずとも、家の者が仕舞わせていただきますよ」
「ピカピカに磨き上げられて敷台ですが、汗をかいた俺の足形が残ってしまいますよ」
「汚れても汚れなくても毎日磨いていますから、気になさるような事ではありませんよ」
「そうですか、そこまで言って下さるのなら遠慮せず上がりますけど、本当に汚いんですよ」
「ええ、ええ、大丈夫ですとも、遠慮なされず上がって下さい。ささ、こちらでございます」
「この廊下も立派ですし、廊下から見える庭も綺麗なものですね」
「家の庭師が毎日手入れしておりますから」
「廊下から見えるだけですが、天井に使われてる材木も立派なものですね」
「この地の銘木をふんだんに使って建てておりますから、ささ、この部屋にお入りください」
「いいんですか、畳が汚れますよ」
「大丈夫でございます、孫娘が待っておりますから、どうぞお入りください。おや? どうしたんだい太郎、今度の御客様は花子を預けるんだよ」
「おばあちゃん、僕も一緒に行きたい」
「おやおやおや、太郎は寂しがりだね、花子と一緒がいいのかね?」
「うん、僕、花子と一緒に行きたい、離れ離れになるのは嫌だ」
「花子はどうなんだい、太郎と一緒でもいいのかい」
「私も太郎と一緒がいい」
「どうでしょう旦那様、孫達がこう申しておりますので、最初の話とは違ってしまうのですが、孫娘だけでなく孫息子のお世話もお頼みしたいのですが」
「え~と、最初に申し上げておきますが、俺も孫がいてもおかしくない歳ではありますが、子供を育てたこともなければ結婚したことさえないんですよ」
「ええ、ええ、ええ、大丈夫でございますよ。人柄さえ宜しければ、結婚歴がなかろうが、育児した事が無かろうが、全然問題などありません」
「そうですかね、本当に問題ないんですかね、俺には大いに問題があると思えるんですがね」
「そこに座っている、赤い振袖を着たおかっぱ頭の子が孫娘の花子でございます。」
「花子です」
「花子ちゃんか、宜しくね」
「隣に座っている、紺の絣に虎柄のちゃんちゃんこを着た、おかっぱ頭の子が孫息子の太郎でございます」
「太郎です」
「太郎ちゃんか、宜しくね。でもこうしてみると伝承の座敷童そのもですね」
「ほ、ほ、ほ、よくご存知でございますね」
「ええ、趣味のネット小説の題材にしようと調べた事があるんですよ」
「旦那様の仰る通りでございますよ、この子達は座敷童なのですよ」
「はい? 冗談は止めてくださいよ」
「ほ、ほ、ほ、冗談などではありませんよ。旦那様は座敷童に選ばれた、幸運な方のですよ」
「え~と、選ばれたと言う事は、俺の家に座敷童の太郎君と花子ちゃんが住むと言う事なのですか?」
「それが今回は少々話が違いましてね、お家に住み着く前に人間の社会を見学させていただく事になったのですよ」
「それはどう言う事なんですか?」
「人間社会が、私や子供達の時代と大きく違ってしまったので、住み着く人間の家を決める前に、その社会を見学させようと言う話になったのでございます」
「そうなのですか、そのお世話役に俺が選ばれたと言う事なのですね」
「旦那様の言われる通りです、旦那様には明日から1年間、孫達に色んな所を見せて旅してもらいたいのです」
「旅ですか、そうするとホテルや旅館に泊まり歩く事になるのですが、3人旅だとかなりの資金が必要になると思うのですが」
「前金1000万円をお渡しいたしましょう。1年後に、無事に孫達を連れて戻ってくれましたら、後金として5000万円をお渡しいたします。悪い話ではないと思いますが、いかがですか?」
「確かに悪い話どころが、美味しい条件なのですが、少々気になる事があるのです」
「なんでございましょうか?」
「研修と言うかお試しと言うか、座敷童としての本領を発揮する事はないのでしょうか?」
「本領と申しますと、幸運金運を住む家に授けると言う事ですか?」
「はい、ホテルや旅館に泊まることになると思うのですが、そのホテルや旅館が幸運や金運に恵まれると言う事は有るのでしょうか?」
「何日も何日も連泊すればそう言う事もあるでしょうが、今回は家と言うよりも旦那様に幸運や金運をもたらすと思いますよ」
「その幸運や金運で得られた物は、この家に戻って来た時にお渡しすればいいのですか?」
「ほ、ほ、ほ、自分の物にしていいかと聞きたいのですね」
「ええ、本音としてはそうです。余禄として貰えるのでしょうか?」
「余禄として自分の物にして頂いて結構でございますとも」
「俺は昔、競馬が好きだったんですが、馬券を幸運や金運に任せて買ってもいいものでしょうか?」
「まだ太郎も花子も一人前ではありませんから、大した幸運も金運も持っていません。あまり信じ切られたら痛い目にあわれますよ。それに馬券を買われる資金を、太郎と花子の世話をする為の前金から使ったりしたら、色んな妖に祟られるかもしれませんよ」
「ええ分かっていますとも、馬券は自分のお金から出します。前金は太郎君と花子ちゃんを育てること以外には使いません」
「旦那様の日頃の生活費に使ってもらうのは大丈夫でございますよ」
「ええ、それは分かっております。遊興費には使わないようにしますから、どうか祟るのだけはご勘弁願います」
「それはこの話を受けて下さると言う事ですね」
「今更お断りしたら殺されそうで、とてもじゃないですが断れませんよ」
「そんな野蛮な事はいたしませんよ、ここでの事を忘れて頂くだけでございますよ。それでどうでございましょうか、お受けして頂けますか?」
「ぜひお願い致します、俺としてもこんな幸運を逃すつもりはありません」
「それはようございました、ではこれから話がまとまった事を祝して宴会といたしましょう!」
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