第61話タツコ村

「ツェツィーリア、無理はするな」


「ガゥ」


 完全獣形態となった5人の人狼は、その連携の良さと身体能力の高さで、攻め寄せる獣を次々と返り討ちにしていた。建設中の第1砦を護る従士たちも、ローゼンミュラー家から借り受けた装備で防御力を強化されており、少々の攻撃で即死する事はないだろう。


「イチロウ殿、やはり奥山に拠点を設けるのは厳しいのではないか?」


「確かに難しいとは思います、ですがカール殿、奥地で発見した里山に安全にたどり着くには、半日毎に2カ所の砦を設ける必要があります」


「そうだな、新月期だけ移動するにしても、里山地帯で野営するのは危険だな」


「特にローゼンミュラー領が危なくなり、奥地に避難する非常時の場合には敵軍も警戒する必要があります」


「そうだな、それで里山地区での拠点設営は順調なのか?」


「はい、従士と領民を3つに分けて、第1砦・第2砦・タツコ村の建設に当たらせています」


「ふむ、タツコ村は里山地区だから獣の襲撃がないのは理解できるが、第2砦に襲撃がないのは何故だ?」


「餌になる鶏肉を第1砦周辺撒いて、獣や魔獣を第1砦に誘導しています。それでも他の場所に近づく敵は、ドローンで始末しています」


「魔道具を取り付けた切り札のドローンを、獣や魔獣相手に使っているのか?!」


「大切な家臣領民を護りながら、拠点となる砦を完成させるためです」


「ふむ、イチロウ殿の資金力だからやれる事だな」


「あと半月で新月期になります、今回は今までの3倍の商品を用意しました。アバーテ城でも初めての競売を行うのですから、万が一の奇襲に備えて万全の態勢を築いておくべきです」


「ふむ、教都に向かう部隊とハナセダンジョン都市に向かう部隊に分けるのだったな」


「はい、アーデルハイト殿にはハナセダンジョン都市に向かって頂き、バルバラ殿には教都に向かって頂きます。それぞれローゼンミュラー家譜代従士バルドゥイーンとベルンハルトが副官につきますから、心配はないでしょう」


「ああ、あの2人なら間違いなく補佐してくれるだろう」


 眼の前で人狼5姉妹が敵を相手に戦ってくれている!


「ガァ!」


 ツェツィーリアがオークの喉笛を一撃で噛み千切り即死させた!


 満月期に魔獣が里山地帯にまで入り込む事は聞いていたが、100を超すオークが攻撃して来るとは想像もしていなかった。日本からドローン配送させた、鶏胸肉を餌として撒いた事で集まったとしたら、1カ所に敵を集める事には成功したが、強敵を集めてしまった事は失敗だ。


 ドローンで魔法を駆使して支援しているが、人狼姉妹がいなければ第1砦建設現場は大被害を受けていただろう。


 人狼姉妹の八面六臂(はちめんろっぴ)の活躍(かつやく)は、全てをドローンのカメラで撮影保存している。これを動画サイトにアップしたら、今まで以上の再生回数を記録する可能性が高い。5姉妹には止めの場面として、人形態に変化して着替えてもらおう。

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