第62話人狼姉妹

「よく働いてくれた、御蔭で砦と村の基礎が完成した。褒美として約束通り奥山地区に領地を与えるが、場所は何所がいい?」


「は、有り難き幸せでございます。出来ますれば、この一帯を拝領出来ましたら、2カ所の水源を確保したうえに姉妹協力して領地を護って行けると思います」


 ツェツィーリアたちが望んだ土地は、確かに水源確保としては理想的な場所だと思う。今回の奥地探査で遡(さかのぼ)った沢と、ドローンで魔境外縁部を索敵した時に見つけた沢を、領地の境目にしている。


「だがここでは満月期に、真っ先に魔獣の襲撃を受けてしまうぞ。しかもローゼンミュラー領にも近いから、貴族たちが攻め込んで来た時にも最前線になるぞ」


 そうなのだ、ツェツィーリアたちが望んだ土地は、ローゼンミュラー領から見て左側の直ぐ奥地にあるのだ。早い話がローゼンミュラー領との国境線から奥地に、5姉妹の領地が続くことになる。


「確かにここは危険だと思いますが、その分手柄を立てれる可能性が高いです。貴族が攻め込んで来る確率は低いですが、魔獣がタツコ村に攻め込んで来るのはほぼ確実です。それを事前に姉妹で撃退することができれば、領地の加増も夢ではないでしょう」


「そうだな、タツコ村を護ってくれたら領地を加増をしよう」


「それと以前御願していた件ですが?」


「一匹狼の男性人狼のスカウトだな」


「はい、せっかく領地を賜ったのに家族を創る相手がいないのでは話になりません。優秀なパートナーを探すことは、家族を大切にする人狼族の本能とも言える事です」


「すでにローゼンミュラー家には、ハナセダンジョン都市・教都・アバーテ地区で、サートウ家の代理で男性人狼を採用してくれるように話してある。ツェツィーリアたちがパートナーに選ぶほどの強者が来てくれるかどうかは分からないが、人狼族は優先的に家臣に迎えよう」


「有り難き幸せでございます」


 通常人狼族の縄張りは、獲物の密度にもよるものの1家族で100から1000平方キロメートルもの広大な土地が必要なのだ。だがここは毎月満月期に魔獣や獣が押し寄せてくるので、1万分の1と言う狭さの1町(10反・3000坪)ですんでいる。


 人狼族は肉食の為、基本耕作はしないのだが、獣や魔獣を誘き寄せる餌として小麦や蕎麦を植えることもある。ただ美味しさや量を求めていないので、疲れる水田を作る事はないし、雑草抜きや肥料を与えることもない、荒れ地に種をまいて勝手に育つのを待つだけだ。


 現に満月期から今日まで、オークをはじめとする多くの魔獣・獣を仕留めており、俺が買い取って従士たちの食事に使っている。だから人狼姉妹の貯金は毎日増えており、妊娠しても貯めた御金で俺から食材購入も可能だ。


 それもあってパートナー探しを急いでいるのだろう、もう1度ローゼンミュラー家に人狼探しの確認をしておこう。彼女たちの動画の御蔭で再生回数が鰻登りだ、月の収入に換算すれば1000万は稼いでくれている、高待遇を保証しなければ罰が当たる!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る