第50話べアトリクス
「べアトリクス殿、アバーテ地区の巡視は終わったが、特に不審な点はない」
「ありがとうございます、イチロウ様。峠には偵察の兵を駐屯させていますが、心底から信じる事ができなかったので助かります」
「ドローンの行動半径には限界があるので、アバーテ地区全てを完全に巡視出来ている訳ではありません。ですが偵察兵も含めて、ローゼンミュラー家に害意を持つ者はいなかったよ」
「ブリギッタと交代で新規の家臣を指揮していますが、みな海千山千の者どもで、一瞬の油断も出来ません」
「バルドゥイーンやベルンハルトと言った、譜代の領民従兵に任せるところは任せた方がいいのではないか?」
「もうすでに、沢山の仕事を受け持って貰っています。特に新規の仕官希望者が引っ切り無しでやってくるので、予定通りに仕事が進みません」
「ミヒャルケ侯爵軍を打ち払ったのが大きかったのだろうが、中には侯爵軍の密偵が入り込んでいる可能性があるね」
「ええ、それは覚悟していますが、今は1兵でも多くの戦力を増強する必要があります」
「最悪の場合は、事前に話し合っていたように、信頼できる兵だけを率いて本領に撤退した方がいいよ」
「はい、その準備は進めています。この地を放棄(ほうき)したくはないですが、生きてさえすれば再度取り返す事も可能ですから、意地になって籠城したりはしません」
「そうか、それなら安心だね」
アバーテ地区を占領したことで、何れローゼンミュラー家を出て嫁入りするはずだった、べアトリクスとブリギッタの運命が大きく動いた。
5人の姉妹の中で貴族待遇の魔術師・べアトリクスは、将来は婿を取りローゼンミュラー家の従士長か魔術長に就任する予定だったそうだ。まあ貴重な魔術師なのだから、有力貴族家に仕官するのが普通なのだそうだが、最初からローゼンミュラー家に残る予定だったそうだ。もっとも今ではローゼンミュラー家も準男爵家となり、教都からアーデルハイトとべアトリクスが戻れば、正式な貴族である男爵に陞爵(しょうしゃく)される。
べアトリクスはアーデルハイトに何かあった場合の予備として、騎士としての修行と訓練をしていたから、男爵家の騎士長として残る事になるそうだ。アバーテ地区を任されいていることから、代官として統治と防衛を任されることになるのだろう。
4女のブリギッタは、ローゼンミュラー館に女性司祭として残る予定だったのだ。だが家が隆盛している事もあり、防衛拠点となる場所に教会を立てて修道騎士団を創設する予定になっている。そのため司祭の訓練に加えて、騎士としての訓練も始めているそうだ。
問題は他家に嫁入りするはずだったビアンカだ、側にいて欲しいのは確かなのだが、正妻に迎えると言うのは抵抗がある。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます