第93話 あの日の始まり

里奈は何度も何度も、肩を掴み呼びかけ体を揺らした。


けれど返って来る言葉は、霊子しか知らない暗号じみた秘密の言葉。


ピートントンピートントンピートントンピートントン。


波は居た堪れず、里奈に言った。


「取り敢えず、教室に連れて行こう?」


里奈は何か納得行かなかったが、渋々頷いた。


「うん、わかった。」


波と里奈は、霊子を教室まで連れて行った。


すると、体育館に吉沢先生が来た。


表情は如何にも、慌てたという顔をしていた。


「君達、教室に戻りなさい。」


生徒達は先生に詰め寄った。


大半の質問は、殺害された拓己と小平の話だった。


中には学校に殺人犯が紛れ込んでいるのか?と言う話や、学校関係者が犯人、又は生徒や先生が犯人じゃないかと言う生徒もいた。


「取り敢えず教室に戻りなさい。」


生徒達は渋々教室に戻った。


教室に集まる一同。


吉沢先生は教卓の前で長く沈黙した。


教室の雰囲気に、合わせるように口を開かない。


静まった教室に、不気味な声を上げる霊子。


「ピートントンピートントンピートントンピートントン」


すると、京介は怒り声で言った。


「うるせぇな、何わけのわかんねぇ事言ってんだ。」


里奈は叫ぶように言った。


「しょうがないでしょ?あんなの見たら」


「そんなのみんな同じだろ?本当はそいつが殺したんじゃねーの?」


里奈が言い返そうとしたら、吉沢先生が間に入って言った。


「霊子なわけないだろう。死にたいのか?…あ…いやすまん、先生も動揺して」


生徒達は思った、犯人は吉沢先生なのではないか?


普通、生徒が殺された直後に動揺しているとは言え、殺すぞと言うだろうか?


波は吉沢先生の言葉に、里奈に目線を送った。


里奈は口を閉ざしたまま頷いた。


それはやはり今迄の生徒が消えたのも、吉沢先生が犯人と断定した合図だった。


霊子は段々と落ち着きを取り戻し、いつもの霊子に戻った。


里奈はいつもの霊子に戻り、歓喜していた。


吉沢先生が話を切り出す。


「何故、殺されたかも、犯人も検討もつかない、だが安心してくれ、警察には通報しておいた。


だから、今は死んだ拓己と小平を安らかに眠れるように祈りをあげよう。」


生徒達は不審がる者。


信じる者。


様々いたが、少なくともあの写真を見た人達は、吉沢先生を警戒していた。

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