奴らの大学生活
コンポタナック
第1話 4月・入学式後
なかなか小説や漫画のように満開の桜が舞う入学式は訪れない。今年も例外でなく、残り香たなびく寂しげな桜の木々の下。
「バスケ部どうですかーー?!」
「アーチェリーやってるよー!」
「吹奏楽サークル、昼コンやります!!」
「手話サー入りませんか!?」
入学式終了から始まる、壮絶な争い。
そう、新入生を歓迎するのは桜ではなく、サークル名が飛び交うチラシの吹雪だった。
入学式後から勧誘活動が許可されているこの舞台。名は笛柴(ふえしば)大学。偏差値は平均ほど。学部は少なく、文学・経済・法・理そこに細々と学科を構える具合だったのだが今年度より新たに体育学部を設立した。
サークル活動は盛んだが、残念ながら未だ全国的に認知されている訳ではない。在学生たちは、今年こそはと新入生を捕まえるため躍起になっているのだ。
「っしゃー。俺らもやるかー」
「うおー」
そんな熱気を帯びた勧誘活動を尻目に、教室の4階でお菓子を食べている学生が数人。
気怠げな声を出し、立ち上がる男。
教室の窓を開け放ち、それはそれはどデカイ手作り暖簾を放り落とした。
『サッカー同好会で菓子パしよーぜ』
決して綺麗とは言えない字で書かれたそんな文字に、初めはみんながざわつく。しかしそれも数分に留まった。どうせあのバカグループがやってんだろう、またかよ、と言った在学生たちの心の声が聞こえてくるようである。
名ばかりのサッカー同好会。勿論サッカーは好きだが、それ以上にお菓子が大好きな仲良し集団。
暖簾を落とし席に着いた男は、派手にチャラけた服装にオレンジ頭、毛先を黄色に染めている氷黒雷斗(ひぐろ らいと)。早速ポテチを縦に何枚口へ放り込めるかというしょうもないことにチャレンジしている。その隣では、髪をサイドに纏めた女、菱河美桜(ひしかわ みお)が4種類のラムネを一気に食べて味が分からなくなっている。窓を見下ろし、注意しに来た教授に中指を立てている女が空伊流麻(そらい りゅうま)である。小さく やめなさいよ、と空伊を窘めている薄い金髪の女は涼風美音(すずかぜ びおん)。冷めた表情で紅茶を飲んでいる。その近くには毛先のハネたショートカットの箱円数(はこまる すう)がどら焼きを一口で食べられるかをチャレンジしている。
5人の学生によって成り立っているこの同好会もどきは、教授たちも黙認するほど個性的な人種が揃っているのである。
氷黒と箱円が喉を詰まらせ、噎せながらでも菓子を飲み込もうとする様を空伊が爆笑しながらスマホで撮影している。
「ヒーッ!おま、そこはおまっ、出すだろ!食うの?食うの??キャハハハハハ」
「ほんふぁふぉおうふぃんおあえんあ?」
「おい飲み込んでから喋れよ箱円」
「いや何しれっとしてんの?お前も詰めてたから!ヒーッしんどい!!」
そんな3人を横目で見ながら、菱河は涼風に尋ねてみる。
「新入生入ってくれるかなー?」
「…さあ。よっぽどの物好きなら」
外からは未だに教授の怒鳴り声と勧誘活動の声が聞こえている。5人は目の前のお菓子を手に取り、のんびりと菓子パを続行するのであった。
続く
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