拝師ねる
拝師ねる
第1話 プロローグ(配信準備)
みんな、どれだけ自分をさらけ出しているのだろう。わからない。他人が、わからない。自分が、わからない。
ドラマや漫画では、本音をぶつけあって、時には拳で語り合い、そして理解を深めていく。まったくの他人であった人間と。そうして友情を深め、お互いの距離を縮めていく。あるいは、それが異性であった場合、深まるのは愛情というものになるのだろう。どちらも得体の知れない言葉である、というのはひとまず置いておく。
例えば、他人との距離を数字で表してみたとする。まったくの他人との距離感を十とすると、知人レベルで七か八、友人レベルで三から五、親友や家族で一から二といったところではないだろうか。
人との距離感がうまく掴めない僕には、これらの数字に一から二を足したぐらいだと思っている。それが零の距離になることなんて想像もつかないし、想像したくもない。むしろ全員共通で七くらいがちょうどいい。
距離を縮めるには少なからず自分を理解してもらう必要がある。そのために、自分をさらけだす必要がある。隙を見せるといってもいい。
それが苦手なのだ。いつでも、どんなときでも、自分をさらけだしたことの無い人間、それが僕。それっぽく振る舞うことはできる。わかりあった振りをすることはできる。そういったことが苦手だからこそ、そうした振る舞いは得意になる。でも、それだけだ。僕は一生、他人と深く関わることができないのかもしれない。
そんな僕が小説を書いている。小説を書くと言うことは脳内をさらけ出すこと。なんて言っているが、僕は脳内どころか、脳を覆った頭蓋骨、頭皮、髪の毛すらまだフードで覆い隠した上に、ひとりで部屋にこもっている。
出版を決意し、覚悟を決めた今でも、まだ。僕は焦っているのかもしれない。インターネットをつかったリアルタイム動画配信をすることにした。それは小説の宣伝のため、自分の名前を知ってもらうため、自分の考えを知ってもらうため、理解を得るため、理由はいくらでもつけることができた。小説家としても、出版社としても、僕の配信活動でマイナスになるものは何もない。
だけど、そうじゃない。僕は自分の殻を破りたい。いや、これすらも言い訳であって、自分の中の何かを守るためのフィルターなのだ。
そう、きっと根源では、人間は自分をさらけ出したいのだ。
――本能。
それは最も恥ずべきことであり、僕が真に嫌うもの。本能が理性を上回るなど、それはもう、ただの動物ではないか。
いったい僕は……。
わかっている。僕は壊れてしまった中身を隠そうと、必死で外側だけ取り繕っているんだ。しかし、もう……。
こうして準備は整った。そして僕は少し汗ばんだ手で、クリックした。
「配信開始」
この物語は、「ほぼ」ノンフィクションで綴る、僕、拝師ねるが出来上がっていくまでの、あるいは壊れて無くなってしまうまでの、記録を紡いだ物語。
動画をライブ配信できるストリーミングサービスでの配信に基づいて、話を作っていくという自主企画。この物語をつくるのは視聴者の皆様であり、僕を形成していくのは読者の皆様である。
いつか、この物語のことを、完全なるノンフィクションであると言えるようになることを願って、まずは、筆を進めてみるとしよう。
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