第11話 死後の真実
「なごみ……」
「えっ! 何よこれ、何が起きてるの!?」
「妙な服装の人間……ですね」
「どっかと繋がってんのか!? ありえねぇだろ!」
スマートフォンの画面を見る為に魔人達がゼロ距離接近してくる。暑苦しいが彼等に構っている場合ではない。「さすが魔王様っす!」と興奮しているアルスを含めた四人を空気としてなごみと向き合う。
画面の向こうの従姉妹は真顔だったが、渡はそれが意図的に人を驚かせようとしている時の顔だと知っていた。彼女はわざとそんな顔を作り、渡を渡と認めたことを伝えてくれたのだろう。
「角が生えてパワーアップしたんだよ。なごみ」
『お姉ちゃんとつけなさいと言ってるでしょう?』
「年上の従姉妹をお姉ちゃん呼び出来るのは小学生までだ」
『恥ずかしがらなくていいのに。それで……異世界に転生してうさ耳じゃなくて角が生えたのね? 後ろにいる皆さんはコスプレじゃないのね?』
今度のなごみの顔には冗談味が感じられなかった。口元に僅かに笑みが乗っているが、目が真剣だ。
「随分とすんなりと信じるんだな」
『渡が生きていると思えるなら、なんだって信じるわ』
漂う空気に危険なものが混ざっている気がしたが、そこに触れたら世界越しにでもろくな目に遭わなさそうなのでスルーする。
「ところで、俺はどうなったんだ? その……そっちに復帰出来る程度の……アレなのか?」
『それは……』
なごみは答えを躊躇い、目を反らした。
「あ、い……」
『ああ、ぎりぎりまだ見られるぞ。ちょうど運ぶところだったんだ』
復帰出来ない程度のアレらしいと察し、言わなくていいと伝えかけたところで画面がブレた。天下の声音からはラッキーだったな的なニュアンスが感じられ、何考えてんだと思ったところで死体が映る。血の染みた道路の上に横たわっていたのは、紛れもない自分だった。うつ伏せで、背中の至る所に穴が空いている。腕にも、下半身にも幾つかの弾痕があった。
「……思ってたより原型があるな」
また、思っていたより動揺もしなかった。抱いていたのは、自分だからというのは関係なく『人の死体』に対する純粋な嫌悪感だけだった。
『残念ながら中身には原型がないと思うが。戻ってきたところで一瞬でまた即死だろうな』
「…………」
少し面白そうに天下が言う。その内容に、渡の気分は著しく下がった。再び、音花の『体なんてぐちゃぐちゃよ!』という言葉を思い出す。
(そうだ、音花……!)
奇跡的に元の世界と繋がったのだ。ほぼ駄目だと確信していた自身の状態よりも訊く事があった。
「音花は居るか? 元気……じゃないだろうが、どうしてる?」
『え?』という、なごみの声がした。たった一音なのに、それは驚きと躊躇で揺れていた。
『音花、ちゃんは……』
画面の端に映ったなごみは、渡の死体のその先に視線を送っていた。スマートフォンのカメラはすぐにそちらにフォーカスする。ご丁寧にビニールシートが捲られた。天下の声が映像と被る。
『身を挺したのに残念だったな。君の体を貫いた弾丸が勢い余って彼女を襲った。君程の損傷はないが、充分に致命傷……やはり、即死だろう。だが……』
仰向けになり、目を閉じた音花の顔に苦痛は無かった。しかし、色も無かった。最近買ったというリップのピンクと、制服の赤だけが目立っている。
(音花が、死んだ……?)
『だが』の後の天下の言葉は耳に入らず、背後の四人もいつの間にか黙っていて、何も聞こえなくなった状態で渡はただ呆然としていた。
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