其の七十三 ピカソが愛したと言えば、石ころだって美術館で展示されうる


 ――濁った雲がどんよりと空を覆う、昼下がりの午後。


 歪に両手をくねらせた状態のまま、『タコ踊り』を強制終了させられた僕、こと『水無月 葵』の脳みそが……、

 フルスロットルで高速回転を試みる。



 「――たし、かに……」



 ――月曜日、『黒幕』は、どこかのタイミングで鳥居先生と不知火さんに、『僕が青眼』だという事実を伝える。鳥居先生はさっそく僕の事を『体育教官室』に呼びつけ、『数々の凶器』を使って僕の事を殺そうと試みた。……まぁ、如月さんの手によって返り討ちにされたんだけど……。

 ――火曜日、『鳥居先生』の不在によって、不知火さんは先生の『青眼殺し失敗』を知る事となる。彼女は、僕の事を『放課後デート』に誘って、僕が『青眼』かどうかを確かめようとした。……その瞳の奥に潜む、『藍色』の光を探すことによって……。 

 ――水曜日、僕の事を『青眼』だと確信した彼女は、僕に呼び出されたのをきっかけに、僕と『心中』をする決心をする――


 ……なるほど、流れとしては『自然』だ。……ただし、幾つかの『謎』は解明されないまま……。



 「……っていうか、『黒幕』は、なんで僕が『青眼』だって気づいたんだろう」



 ――至極、『当然の疑問』。


 今思えば、全てが始まったのは『月曜日』。

 『何の変哲もなく』、『一切のさざ波すら立たない』、

 ……『僕のツマラナイ人生』の歯車が、オーバーヒート気味に加速し始めた『危難ノ幕開け』。



 ポツリと、何気なく言った一言だった。


 如月さんが、その声を聞いて、

 ハッと何かに気づいたように、

 その眼を、丸くする。



 「……ねぇ」


 「……?」



 ――慎重に、言葉を紡ぐように、



 「……あなたが、校舎裏で『青眼の能力』を暴走させたのも……」


 「……」



 ――彼女の口から発せられる、ある『仮説』。



 「『月曜日』じゃなかったかしら……?」


 「――ッ!」



 ――そう……、だ。



 『色眼』を巡る、『僕の命を懸けた戦い』の発端……、『須磨のスマホ盗難事件』をきっかけとして発生した――


 ――僕の『マイナス思考』と、世界の『リンク』――



 ……あの時、校舎裏には僕と『須磨』以外誰も居なかったけど……、今考えると、校舎の『窓』からその惨状を覗き見ることだって、誰にでも『可能』なんだ……。


 ――果たして、『黒幕』の容疑者は、『全校生徒』が対象になり得るという、『事実』。



 そして……、



 ――その惨状を『たまたま覗き見た』のが、『赤眼』……、すなわち『黒幕』だったという、『仮説』――




 「……水無月君、よく思い出して……、あの場所には、あなた以外に誰が居たかしら?」


 「……」


 ――グルグルと、ビデオテープを逆回しするみたいに、僕は自身の記憶を全速力で駆け戻る――



 「……ええと、まず須磨に校舎裏に呼び出されて……、御子柴……、さん、が居たな。タバコを吸っていた……。その時の僕は、もちろん青眼じゃない。……御子柴さんが居なくなってからは、須磨がすぐに校舎裏にやってきて、僕の事を殴りつけて……、僕の『青眼』が暴走して……、須磨は、すぐに逃げ出して行った。……そして――」



 僕はそこまで言うと一呼吸置き、

 真剣なまなざしで、じぃーーっと僕の事を見やる二つの『眼』に向かって、

 静かに、言いやる。



 「……君が来たんだ……、如月さん」



 ――ザワッ……――



 濁った雲がどんよりと空を覆う、昼下がりの午後、

 色気の無い『灰色』に染まった、学校の屋上、

 湿った風が、僕たちの頬をまとわりつくように、『撫でる』――


 …


 …


 …


 ……そういえば……



 ――如月さんって、なんであの時、『校舎裏に現れた』んだろう?――



 

 「……水無月君」



 フッ――、と頭に疑問が浮かぶのと同時に、

 僕の顔をじぃーーっと見つめている『如月 千草』が、

 僕の名前を、ボソリと呟く。



 「……私、今日はもう、『早退』するわ……」



 ――そして、『そんな事』を言う。



 「……? どうしたの? ……やっぱり、まだ身体が万全じゃないとか……?」



 僕の質問に対して、彼女は遠慮がちにかぶりを振る。

 真剣なまなざしで、強い光を瞳に込めて――



 「……『作戦』を思いついたの……、うまくいけば、『三人目の赤眼』の正体を知ることができるかも……」



 ――果たして、『驚愕の一言』。



 「……えっ!?」



 眼を丸くして驚く僕に対し、

 彼女は、『事の詳細』は明かさず、

 『父親』のような、厳しい目線を僕にぶつける。



 「……水無月君、私が居ない間、『決して無茶をしてはダメ』よ。 ……そうね、一対一で人と会うのは、極力……、いえ、『絶対に避けた方がいい』わ」



 あまりにも『威圧的』な声色、

 有無を許さない、『覇王』のトーン――


 僕は、一瞬でカラカラになった喉に緊急的に『潤い』を与えるべく、『ゴクリ』と、生唾を飲み込んだ。

 


 「……わ、わかったよ……」



 情けなく、シオシオと声を絞り上げる僕に対して、

 如月さんが、フッと表情を『崩す』。



 「――時に、水無月君……」



 ――そして、『こんな事』を言う。



 「……その『ポーズ』、かなり面白いのだけど……、疲れないかしら?」



  濁った雲がどんよりと空を覆う、昼下がりの午後、

 色気の無い『灰色』に染まった、学校の屋上……、


 不朽の迷作、『タコ男の彫像』が、爆誕していた。



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