神様の御意向で。
もちもち
一、神様?アホですよ!
私、七瀬千景は生まれつき、前世の記憶を持っていた。
それはまぁ、ごく普通のことで。
目立つことが苦手な私はそれをおおっぴらには出してこなかった。
前世の記憶を使う…といっても、出来るのは勉強だけだったから、頭のいい女の子として育ってきた。
そのお陰か、私は進学校に進むことができ、順風満帆だった……筈。
私は今日、入学する学校、桜宮高校の前で立ち止まった。
だって…聞いていない。
ここが乙女ゲームの世界だなんて…。
「お嬢様…?」
見習い執事の真琴が、心配そうに私を呼ぶ。
私はハッとして、何でもない、と返した。
「ありきたり、よねぇ…」
そう。ありきたりなこと。
前世でも、流行っていたではないか。
それに比べたら、私なんて別に対したことはないのでは?
そう思って、自己完結しようとすると、意識がプツンと途絶えた。
◇
「んんぅ…?」
真っ白な空間にぽつんと立っている私。
何、してるんだ?
『君は七瀬千景…であってますかね…』
「ひえっ!」
突然現れたジジ…お爺様。
何故に敬語なのだ?
見た感じ仙人?神様?ぽいけど…。
『私は神です。突然すみません。君は乙女ゲームの住人になりました』
「それは、分かりましたけど…」
『そこで、君にはサポートキャラをしてほしいのです』
「私が?他にいませんでしたっけ?サポートキャラ」
確か、ヒロインの
『そうなんですが…、何かの手違いで、その親友がいないんです』
「は?つまり、ヒロインは…」
『ボッチです』
「なるほど…。それで私に協力を…と?」
『はい。転生者である千景さんならと思いまして』
「一つよろしい?」
『はい…』
「あなた様はアホでございましょうか?」
私の発した言葉にポカンとするお爺様。
だって…、私の執事、攻略キャラなんですけど?
どうしてくれるの?
「見習い執事の
『はい…』
「あのね、林真琴は、悪役令嬢の!執事なの!」
『ハッ…!!』
「だから、私が、悪役令嬢ってことなの!悪役令嬢の私が、サポートキャラをしないといけないのよ!?そこんとこどうしてくれるわけ!?」
敬語もとれている私にタジタジの自称神。
私、七瀬千景は、悪役令嬢。
そして、今。サポートキャラになれと言われている。
『でも、もう、決まってしまいましたし…。とにかく、お願いしますね!』
「あっ、ちょっと…!」
◇
「わっ…!?」
「あ、あんまり動かないでください!パンツが見えます!」
「うるさい!変態執事!」
「お礼ぐらい言ったらどうです!?」
「……だって。お姫様だっこって!」
そう。私は今、お姫様だっこをされている。
この変態に。
みんなからの視線が痛いです…。
「お嬢様、すみません。でも、これくらいしかなくて…」
「私…も。ごめんなさい。だけど、歩けるから!もう降ろして!」
「仕方ないですね…」
「ん」
ペタと、地面に足をつける。
そして、真琴、と呼ぶと、真琴は少し不貞腐れていた。
「……あの、ありがとう」
「…………は?」
「もう行くからね!」
「お嬢様!もう一回言ってください!」
「嫌だ!」
七瀬千景。
悪役令嬢兼サポートキャラ。
どちらも頑張ります。
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