神様の御意向で。

もちもち

一、神様?アホですよ!


私、七瀬千景は生まれつき、前世の記憶を持っていた。

それはまぁ、ごく普通のことで。

目立つことが苦手な私はそれをおおっぴらには出してこなかった。

前世の記憶を使う…といっても、出来るのは勉強だけだったから、頭のいい女の子として育ってきた。

そのお陰か、私は進学校に進むことができ、順風満帆だった……筈。


私は今日、入学する学校、桜宮高校の前で立ち止まった。

だって…聞いていない。

ここが乙女ゲームの世界だなんて…。


「お嬢様…?」


見習い執事の真琴が、心配そうに私を呼ぶ。

私はハッとして、何でもない、と返した。


「ありきたり、よねぇ…」


そう。ありきたりなこと。

前世でも、流行っていたではないか。

それに比べたら、私なんて別に対したことはないのでは?

そう思って、自己完結しようとすると、意識がプツンと途絶えた。







「んんぅ…?」


真っ白な空間にぽつんと立っている私。

何、してるんだ?


『君は七瀬千景…であってますかね…』


「ひえっ!」


突然現れたジジ…お爺様。

何故に敬語なのだ?

見た感じ仙人?神様?ぽいけど…。


『私は神です。突然すみません。君は乙女ゲームの住人になりました』


「それは、分かりましたけど…」


『そこで、君にはサポートキャラをしてほしいのです』


「私が?他にいませんでしたっけ?サポートキャラ」


確か、ヒロインの海宇良日向うみうらひなたの小学校からの親友がサポートキャラだったよね?


『そうなんですが…、何かの手違いで、その親友がいないんです』


「は?つまり、ヒロインは…」


『ボッチです』


「なるほど…。それで私に協力を…と?」


『はい。転生者である千景さんならと思いまして』


「一つよろしい?」


『はい…』


「あなた様はアホでございましょうか?」


私の発した言葉にポカンとするお爺様。

だって…、私の執事、攻略キャラなんですけど?

どうしてくれるの?


「見習い執事の林真琴はやしまことっているんだけどね?真琴も攻略キャラなんですよね?」


『はい…』


「あのね、林真琴は、悪役令嬢の!執事なの!」


『ハッ…!!』


「だから、私が、悪役令嬢ってことなの!悪役令嬢の私が、サポートキャラをしないといけないのよ!?そこんとこどうしてくれるわけ!?」


敬語もとれている私にタジタジの自称神。

私、七瀬千景は、悪役令嬢。

そして、今。サポートキャラになれと言われている。


『でも、もう、決まってしまいましたし…。とにかく、お願いしますね!』


「あっ、ちょっと…!」








「わっ…!?」


「あ、あんまり動かないでください!パンツが見えます!」


「うるさい!変態執事!」


「お礼ぐらい言ったらどうです!?」


「……だって。お姫様だっこって!」


そう。私は今、お姫様だっこをされている。

この変態に。

みんなからの視線が痛いです…。


「お嬢様、すみません。でも、これくらいしかなくて…」


「私…も。ごめんなさい。だけど、歩けるから!もう降ろして!」


「仕方ないですね…」


「ん」


ペタと、地面に足をつける。

そして、真琴、と呼ぶと、真琴は少し不貞腐れていた。


「……あの、ありがとう」


「…………は?」


「もう行くからね!」


「お嬢様!もう一回言ってください!」


「嫌だ!」


七瀬千景。

悪役令嬢兼サポートキャラ。

どちらも頑張ります。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る