07話「ライダーズギルド」


 機兵乗り組合ライダーズギルドとは、だいたい冒険者ギルドの様なものらしい。竜殺機兵ドラグーンを生産し、販売し、整備し、消耗品を用意する。機兵乗りライダーを登録し、評価し、仕事を斡旋する。


 巨大ロボットを扱うこと以外、大体ライトノベルによく出る感じで。この世界の人類が、竜種に対抗する為に作り上げた組織である。


 まぁ師匠曰く、中身は真っ黒かつドロドロで、王侯貴族や商人達が裏で戦いを繰り広げていて。皮肉なことにその結果として実質的な中立を確保しているとのことだ。


 ただ、高い確率で事前の連絡無しでは門前払いを覚悟していたのだけれども――

 


「確かに赤い悪夢の封蝋だ。普段は紙一枚の癖にこれ見よがしに使いやがって」



 どうやら僕の想像以上に師匠の紹介状は強力だったらしい。受付で取り出した時点で豪勢な応接間に案内され。美人のメイドさんから、この世界では高価な甘い焼き菓子を振る舞われ。


 そして今、僕の目の前で封蝋を外して内容を確認しているのは。ゴート=ニーサッツさん、機兵乗り組合東支部長である。


 年齢は地位の割には若くて、たぶん20代半ばくらい。普通にしていればクールなイケメンで通じるけれど、表情を半ば当てつけの如く歪めていて威圧感が強い。



「要するにだ、この紹介状を読む限り。テメェはタダで機兵が欲しいと?」



 師匠が紹介状に何を書いたのかと内心頭を抱えてしまう。いや、そりゃ師匠が買ってくれるというのを無理に止めて。その上でわざわざ書いて貰ったものに文句はつけたくないけれど。


 ただ竜殺機兵に乗りたいだけなら。それこそ素直に甘えれば済む話。けれどそれじゃ、ただ貰っただけで。手に入れたとは言い難い。技も、立場も、何もかも借りものだとしても。


 その上で、意思と覚悟すらなく手に入れたものなんて。誇る以前に、自分の手に入ってすらいない。



「いいえ、自分を売り込みに来ました」


「売り込みに、ねぇ?」



 さて、手元にあるチップはほぼ師匠から貰ったものばかり。その上で、今僕がゲームを始められているのも師匠のお陰。それでも他人にジョーカーを引いてもらうのではなく。せめて自分でカードを選びたい。



「ええ、それなりに腕には自信がありますから」


「大口を叩いてもいいがが。コレがある以上、相応だと見るぞ?」



 ぺらりとゴート支部長は師匠からの紹介状を僕に向ける。つまり失敗すればツケは師匠に回すと、そういう事だ。



「えぇ、師匠の1/10位は働けるかと」


「年間って事は年10匹上位竜を狩れるって話になるぞ?」



 仮に師匠が僕と同じ年からライダーを始めたとするならば。400匹以上倒している計算になる。それに自分が届くか、少しだけ考えて答えを返す。

 


「ルージュクロウと同等の機体があれば、行けますね」


「同じ機体で成果は1/10ですじゃ話にならんぞ?」



 当然、ここは当たり前の話。勇者の剣があれば勇者の1/10位は働けますなんて話じゃ売りとしては弱すぎる。



「ええ、ですけど師匠より便利で、話は通じると思います」



 ピクリとゴート支部長の眉が上がった。



「師匠は強力ですけど、ゴート支部長にとって手札と言えますか?」


「あいつとのコネは手札だな。それはそれとしてその言い分も理解出来る」 



 そう、師匠は基本的にワイルドカードの諸刃の剣。焼き込まれた知識と、自分の実感からそれはほぼ間違いない。



「その上で、なんでうちに来た?」



 機兵乗り組合には派閥がある。王室との関係が深い本部、貴族と協調する北方面、海洋進出派の後押しを受ける南方面。


 大きな物を上げるならこの3つ。これらがギルド全体の7割を占めている状況で。ゴート支部長の統括する東支部は残り3割のうちでもそう大きくはない。


 そう、つまり大きな派閥より。小さな派閥の方が高値で買ってくれる。そういう目論見も0ではないのだけれども。



「はい、実は僕。師匠に拾われる前。ここでお世話になっていたんです」



 お世話になっていた。というのはかなり誇張表現で。正確には日雇いで使われることがあったというだけの話。精々ちょっと単純労働を任された程度だけれど、雰囲気が悪くなかった。


 それこそ、売り込み先にここを選ぶくらいには楽しく過ごせたのだから。



「ああ、そういえば暫く前。部下が目端が利く下働きが消えたと言っていたが……」



 ゴート支部長は菓子を片手でつまみ。口に運んでから。



「ありゃ、お前の事か?」


「二週間前なら、時期は合いますが。もしそうなら嬉しいですね」



 師匠と出会う前の事を思い出す。知らない街でどうにかお金を稼ごうと、走り回った二週間。割と言葉が通じないのは大きなハンデではあっても、自分だけでもない。


 そんな塩梅だったから、それこそボディランゲージや雰囲気であっても。それなりに相手の意図をくみ取れれば。それなりに真っ当な仕事も出来る。


 言葉が通じないなりに、上手くやれていたと思うし。なんだかんだで、居なくなって困ると思われる程度には馴染めていたのかと思うと。嬉しさが湧き上がってくる。



「ふん、まぁ確かに悪夢よりは話は通じて。使い出もありそうだな」



 心の中で小さくガッツポーズを取る。


 

「ええ、それじゃ。どれくらいで僕を買ってくれますか?」




 出来ればC級の改造機まで貰えればうれしいけれど。それは高望みが過ぎるか。



「そうだな、良いぜ。1機倉庫に面白いもんがある」



 ほんの少しだけ、支部長の渋い顔が緩むけれど。それを確かめる前に、彼は立ち上がりくるりと扉の方に体を向ける。



「ついて来いよ。テメェが英雄の卵か、稀代の詐欺師かどっちかは知らんが」



 そのままこちらを見返す事も無く、歩き出して。

 


「つまらない結果は見せてくれるなよ」


「はい、勿論。損はさせませんし何より――」



 その背中に向けて、返事を返す。

  


「僕はリーナさんの弟子をやりたいんです。愛玩動物なんかじゃなくって」 


「ふん、それくらいの意地がある方がやり易いぜ」 



 さて、ゴート支部長が何を用意してくれるのか。心の中でワクワクしながら、僕はその背中を追っていくのであった。

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