第二章「張る意地を胸抱いて」
06話「ロボを買いに行く話」
「という訳で、少年。
「はぁ、えっと…… そんな気楽に買えるんですか?」
師匠は葉物野菜が苦手だ。芋を野菜と言い張って頑なに緑黄色野菜だけのサラダを見ると眉を顰める。まぁ、半熟卵とチーズを乗せれば食べてくれるのだけれども。
「うーん、そうだねぇ……」
シンプルなダイニングテーブル。向かい側で師匠が、くるくるとフォークを弄ぶ。
「A級だと流石の私もすぐには買えないかなぁ?」
パクリと口元に運ばれた葉野菜を見て、僕はヨシと小さく呟く。
「注文してから半年、お値段はざっと金貨100万枚」
「……えっと、概算でざっと10億円?」
ちょっと金額が大きすぎて想像がつかない。
「そもそもそんなにお金があるんですか?」
「こう見えて君のお師匠様はお金持ちなのだよ? 少年」
フフン、と笑みを浮かべる師匠は大人なのだと感じる。稼げるお金の金額が違う。自分は必死で働いても2週間で銀貨100枚も稼げなかった。
「B級でも種類は選べないかなぁ。スタリオン一択」
「スタリオンは確か、この国の騎士団が使っている?」
「そうそう、大体ルージュクロウの廉価版って感じかなぁ」
白いシンプルな人型を、刻まれた記憶から思い出す。こういう話がパッと出てくる辺り、師匠も乗った事があるのだろうか?
「癖が無くて使いやすいけど、方向性は私と同じで固定されちゃうかなぁ」
色々な知識を魔術で刻まれたけれど。その中には師匠が。リーナさんという転生者が何者なのかは殆ど含まれていない。
「お値段は?」
「金貨で10万枚、改造し甲斐があれば2~3機買っても良いんだけどねぇ」
師匠の言葉の通り竜殺機兵とはプラモデルを買う感覚で所有できるか? その辺りの常識も、まだ良く分からない。
「C級なら余裕かなぁ、お値段は金貨1万枚前後」
実際に余裕なのは間違いない。なにせこの前倒した
「重装甲のディーブス、軽量機のクライスター」
性能が良好だが不格好なディーブス、飛行可能だが脆いクライスター。脳内に刻まれた記憶を思い出すのにも、ある程度慣れて来た。
性能では一長一短で、僕の好みと師匠のルージュクロウと行動すると考えるなら。飛行性能があるクライスターが候補になるだろうか?
「師匠としてはどれがオススメですか?」
「いっそ、両方買って弄っちゃうのも良いかなぁ?」
師匠の瞳がキラキラと輝いている。僕の為というよりは、出汁にしている気はするけれど。それに文句を言うつもりもないし、有難いとすら思う。
「そういえばD級はどうなんですか?」
気になってふと尋ねてみる。そう、今僕の全財産は金貨367枚と銀貨30枚。無銘のD級ならそれこそ即金で購入してもお釣りが来る。
中古ならそれこそ端数の金貨で手が届く位。
「うーん、選択肢としては無しかなぁ……」
師匠は渋い顔をした。
「そんなにですか?」
「まぁねぇ、あんなのに乗り続ければ2~3年で死ぬよ?」
師匠の寂しそうな表情に言葉が詰まる。誰か、親しい人がそうなったのだろうか?
「うん、変な遠慮はいらないよ? だからちゃんと良い機体を選ぼう」
「そう、ですね……」
もし師匠と出会っていなければ、僕はどうしていたのだろうか? それこそ必死になって働いて、どうにかD級竜殺機兵を手に入れて――
いや、その前に死ぬ可能性が高かったと思い直した。
「じゃあ、ちょっと甘えても良いですか?」
「いいとも、少年! 3機買っちゃう? 折角だし専用機にカスタムとか――」
「買える場所に、紹介状書いて下さい」
師匠の頭の上に?マークが浮かぶのを幻視する。
「その、折角だし。自分で交渉したいなって……」
一から十まで正しく師匠に選んでもらっても良いのだけれど。それでは自分で選ぶ力が育たない。そんな気がするのだ。だから自分の目と判断で最初の1機は手に入れたいと甘える事にする。
「ううっ、分かるけど。分かるけれどもぉ!」
師匠が半分泣き顔になっている辺り。割と本気で僕の機体を選ぶのを楽しみにしていたみたいで。意外な子供っぽさに、ちょっとびっくりしてしまった。
「じゃ、じゃあ後で私ともう1機買おう? こう弄ろう? 良い感じに!」
まぁ、なんやかんやでそんなことを言いながらも。紙とペンを探し始める辺り、僕の意思を尊重してくれているのは確かで。今晩の夕食は我儘を聞いてくれたお礼に、豪勢にすることにしよう。
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