おっさんギャル再び!そして、狩人狩りの時間だ。
水たまりに銃が落ちた。雨の降る暗い路地裏だ。
「や、やめてくれ!わかった、逮捕される!逮捕されるよ!」
男が慈悲を乞うのはド派手な虎柄ロリータファッションの女。
「あ?ガキを5人もレイプしたゴミが都合のいいことくっちゃべってんじゃねえぞコラ!
ガキのハラワタはうまかったか?糞袋がよ!そのまま死ね!」
女が手に持ったホッケースティックが鎌のように振り回され、男の首が飛んだ。
「はぁー。よし、いい仕事したわ。ビールビール……うんめぇー!」
女は腰につけた水筒からビールを飲むと、軒下で雨宿りしてスマホを打つ。
「おっすー。トラガールだよ、仕事終わったわ。後頼むな。うん、よろしくー」
■
魔法と異種族の存在が公表され早30年。
おおくの戦争、科学と魔法のフュージョンの生み出す爆発的発展により、
いまや魔法はカルチャースクールで習うモノで、妖怪は外国人並みによく見かける存在となった。
混沌の時代において退魔師は自警団を組織。
魔法を使う犯罪者や犯罪妖怪を狩る「狩人」となる。
■
スティックを肩にかけ、ビールをちびちびやることしばし。
物陰から複数の足跡が聞こえた。
「ういっす、今日は早いな。よろしく頼むわ清掃の人……じゃねえな。誰だおめえ。同業者か?」
物陰から出てきたのは髪にプチハットをつけた黒ワンピースの女だった。
「そうよ。元同業者……とういったところかしら?」
「『血に酔った狩人』か。なるほどね……」
トラガールは静かに立ち上がり油断なくスティックを構える。
「まあまあ、そう殺気だたないでよ……あなたにとっても、悪い話じゃあないわ」
「そんで?話があるんならちゃっちゃと言え。もったいぶるな」
血に酔った狩人とは、血と殺しに我を忘れた者。
犯罪者でなくとも、誰彼構わず殺すようになった狩人。
あるいはもっと単純にテロリストである百鬼に寝返った者だ。
いわゆる狩人の暗黒面である。
「ねえ、私にはわかるわ。殺し、奪うのが好きなんでしょう?なら百鬼の方がおすすめよ。
面倒がないし、妖怪より人間の方を狩ったほうが楽で楽しいわ」
トラガールはタバコを取り出してくわえ、魔法で道具もなにも使わずに火をつける。
「ほんで?話長くなる?」
トラガールは警戒を解いたように背中を向けて少し離れてタバコを吸った。
黒ゴスの女はここぞと早口にまくしたてた。
「いいえ!あとたった一つよ!
この戦い、人間側が勝ったとして、それでどうするの?
平和になった世界に狩人の居場所はないわ!
だから、あなたさえその気なら百鬼に来なさいよ。
できればあなたのお師匠のイルマに話をつけてほしいの!
あなたたちイルマの門下生ってみんなそうなんでしょ?血濡れなのは見ればわかるわ!」
トラガールは退屈そうにタバコを吹かして月を見ている。
無言だ。
「ど、どうかしら……?あなたにとっても悪い話じゃないはずよ」
トラガールはふーっと紫煙を空に向かって吐くとゆっくりと話し始めた。
「あのさあ、最近の世間知ってる?
ワカってねえな。違うんだよ。
人間も妖怪もかわりゃしねえ。悪党狩るのはそのほうが楽しいってだけだ。
弱い者いじめはガラじゃねえ。最低限いいリアクションが欲しいわけ。わかる?」
どうも何か誘い方を間違えてしまったらしい、と黒ゴスの女は気づいた。
「あとな、平和になったら狩人の居場所がねえのは確かだけどさ。
そんなんどこの業界でも一緒じゃん。
10年後まで安定してるって断言できる業界いくつあるよ?なら狩人の方がマシだって話だよ。
一度引き金引いた独立戦争だぞ?中東並みにグダグダになるわ」
今度はトラガールが早口でまくし立てる番だった。
黒ゴスは静かに拳銃を抜いた。
「いいえ……じゃあこういうわ。
血よ。血の渇きを満たし、血の歓びを本当に味わえるのは百鬼しかないわ。
それが本質でしょ?とりつくろわないで本音に従いましょうよ」
「本質はき違えてんのはてめーだろ!
いいか、あたしはできるだけクズな悪党をぶっとばしてすっきりしたいわけ!
誰彼構わずとか、女子供相手にイキりたいわけじゃねえんだよ……わかれ、わかってくれ」
「わからないわよ……違うのは人と妖怪であって善悪なんて、ね」
二人の間に殺気が通る。
二人ともいつでも抜ける体制だ。
「そうか。名前は?」
「麻耶。知ってるけどあんたは?」
「トラガール。いいねえ、血狂いでも戦いの作法は忘れてねえ。なかなか悪くねえ」
少しの間の沈黙。
「そう……」
「ああ」
そしてトラガールがタバコを吐き出す。その時に両者動いた!
トラガールが振り返りながらスティックを振り回すのと、麻耶が拳銃を撃つのは同時だった。
計算され尽くした動きで弾丸がスティックにはじかれる。
「死ね!ああ、死ね死ね死ね!狩人など、あんたらの方が血濡れじゃない!気取るな!」
「やかましいわ血狂いがよ!酔狂を気取りもせずに人生やってられっか!頼むから死んでくれ」
トラガールは足元のジェットローラーを吹かして壁を走りながら弾丸を避ける。
麻耶は乱射から静かに待つ構えに変えた。
「オラァ!」
「今!」
トラガールのスティックが振りかぶられた一瞬に麻耶がトラガールのスティックを打ち抜いた。
一瞬の硬直を狙って麻耶が開いた右手でトラガールの腹部を貫く。
隠していた熊のような生体インプラント腕だ。
「ああ、やっぱり暖かい血……これでさよならよ!」
「いいや、もうちっと付き合ってもらう!狩人狩りの時間だ!」
トラガールは麻耶の首をつかんでまるでプロレス技のように高く高く持ち上げる。
「覚悟はいいか?」
そして垂直落下式デスバレーボムで落とした。
「がぁっ!」
そして馬乗りになると、まず麻耶の頭にあるプチハットをもぎ取った。
黒い帽子とは狩人の象徴でもある。
「てめーは超えちゃいけない一線を越えた。だからこれだけは置いて行ってもらうぜ」
「お前!」
「文句あっかてめーで踏み外した道だろうが!」
プチハットを放り投げるとトラガ-ルはスティックの握り部分で麻耶のこめかみを連打する。
「オラ!さっさと死ね!顔だけは止めてやるから慈悲もらってありがたく死ね!」
「あいにく、人道を踏み外したから諦めがわるいのよ!」
麻耶はトラガールの眼孔に指を突っ込んで引き倒してマウントから逃げる。
そして、
「これから百鬼は同じような勧誘をかけるわよ!もっと多くの狩人に!
あなたの言う人間らしさをどれだけの狩人が持っているか知るといいわ!
あたしの勝ちよ!この場はね!」
麻耶は百鬼の妖怪、
トラガールはよろよろと立ち上がりながら回復剤を太ももに注射する。
「あー……いや、こっちは負けた気しねえわ。
こいつだけは置いてってもらったからな。もうつけんなよ!」
そう言ってトラガールは取り上げたプチハットを掲げる。
月と共に輝く血濡れのそれは、まさしく狩人の象徴である。
「ええ、もうつけることはないでしょうね……返すわ。それを」
「それでいい。そんだけ解れば、上等だ……」
ふらふらになり血を流しながらもトラガールは帰っていく。
再戦と再起を誓いながら。
それでも満足そうに笑って。かくして血に濡れた夜はまだ明けない。
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