第60話夜のデート


 共鳴石の特性と、共鳴石の作り方が書かれた記録を図書館から借りてきて、最初の方に目を通したところで今日の授業が終わった。

 共鳴石はまだ公表されていない物体らしく、製本された記録は無く、全部研究者のメモ書きの集積だった。章立ててまとまっているわけではないので、とりとめの無い文章を読んでいる。


 夕食は、食堂で食べる。男女別れての食事がこの国での作法なので、男性の食事が終わるまで女性の食事の時間は回ってこない。これが、異国人である私からしてみると、いつ食事が終わるのか分からないから、いつ食堂に行って良いのかがわからない。みんなどうやって時間を知っているのだろう?

 先に食べた男性に聞いているのだろうか。身分事に食事の場所も違うから、私の場合はシャールーズに尋ねるしかないんだけれど。

 部屋で食べたらダメかなぁ?錬金術の工房は使っていないし、簡単な台所作業は十分出来そうだ。アンナもいるから、食事の支度もしてもらえる。


 貴族階級用の食堂で、男性がまだ食事をしているからと、控え室で待たされながら思った。昨日はこの時間で食事ができたんだけどな。


 やがて、女性の使用人に食堂が使えるようになったと案内された。床の上に敷いた絨毯の上に車座で座り手で食事をするのが正式な食事の作法だ。

 手で食べるのがとても苦手で、フォークを借りて私は食事をしている。この食堂で私以外の人が食事をしているのを見たことがない。

 たぶん、貴族階級で王宮に留まっている女性は私一人しかいないのだろう。私の講師であるニルーファルは、城下に家があるので通いだと言っていた。


 この食堂はいつでもスパイシーな香りがしている。ナジュム王国の料理がスパイスをふんだんに使うからなのだろう。そういうところは、アーラシュ帝国と似ている。


 今日の夕食はトマトスープに肉団子が入っているものと、小麦で焼いた丸パン、胡瓜とヨーグルトのすり流し(に見える)だ。異国なので料理名がよくわからない。飲み物には紅茶かミントティーだ。

 トマトスープは、色んなスパイスの入った味がする。胡椒ぐらいしかわからなかったけれど、舌にぴりっと刺激がある。肉団子はかじるとほろっと柔らかい。他にも具材が入っているみたいだが、細かく刻まれていて、人参かな……タマネギかな……?みたいな程度にしかわからない。でも、おいしい。

 丸パンは、てっぺんが茶色く良い色に焼けていて、中を割るとチーズがとろっと垂れてくる。刻んだパセリも一緒に入っている。ちょっと固めのパンだけれどスープと一緒に食べるから、ちょうどいい。小麦の味がランカスター王国より濃いかも。

 胡瓜とヨーグルトのすり流し的な食べ物は、スープでは無いみたい。食事を運んでくれた使用人にスープか尋ねたらスープじゃありませんと言われたのだ。じゃあ、なんだろ?という気もするけれど、サラダとかの一種だろうか。

 綺麗な模様の入ったガラスの器に白いスープ状の物が入っている。これが胡瓜とヨーグルトのすり流し的なものだ。胡瓜は刻まれていて、ヨーグルトとニンニクと混ぜ合わされている。最初に食べたときに、ニンニクの味がするとは思わなくて、とても驚いた。胡瓜の味は少しするけれど、ヨーグルトの酸味とニンニクの辛さの方が勝っている。でも、後味はさっぱり。

 これに加えて、ドライフルーツがデザートとして出てくることが多い。品質第一らしく、良い品が手に入らないときは、潔く提供しないのだそうだ。


 異国の料理って、変わってるけれどそこに住んでいるんだという実感が一番出来ることだと思う。



 夕食を食べ終わって、私はアンナに手伝って貰いながら外出の支度をしていた。昼間は暑いナジュム王国だが、夜は冷える。せっかくなので、ナジュム王国のシンプルなドレスを着て、ナジュム王国で購入した首飾りを付ける。化粧は夜なので、少し濃いめにしてもらった。

 支度が終わった頃にシャールーズが部屋に迎えにきた。こちらも少しだけ着飾っているようだ。いつもの姿とは違う。紺色の裾の長いジャケットみたいなのを羽織っていて、裾には幾何学模様の刺繍が金色で施されている。いつもよりシックな姿だ。


「行くぞ」


「どこに?」


「着いてからのお楽しみだ」


 シャールーズは得意げに言って、私の右手を取り、恋人同士のように指を絡ませて、私の手を引いた。

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