第52話家出資金の捻出
ランカスター王国では、塩味が基本の料理が多い。スパイスは新しい物好きや、富裕層など限られた人が使っているので、一般になじみが無い。スパイスやハーブが身近になれば、料理のレパートリーも増えるから今より食事が楽しくなると思うんだけどなぁ。
新しいスパイスやハーブって使いどころが分からないから、手を出しにくいっていうのもある。
「アミルは、何を商品の目玉にしてるの?」
「唐辛子とローズマリーだ。乾燥して運べるし、料理に使いやすいから」
「唐辛子やローズマリーはどうやって使うの?」
前世の知識で、唐辛子は辛い料理に主に使うし、ローズマリーはジャガイモと一緒にオーブンで焼くと最高に美味しいっていうことは知っている。
今の私は、唐辛子やローズマリーの使い方を知らないはずだからね。
「唐辛子は辛いから、辛みのある料理に使う。ローズマリーは、煮込み料理が多い。臭みを消すから」
「たぶん、使い方が分からないから、買うことを控えてしまうのかも?」
店頭で販売するときに、使い方まで説明しているとは思えないなぁ。店員さんも使ったこと無いかも知れないし。
「この国では、なじみが無いんだったな。当たり前のようにスパイスをたくさん使う料理ばかり食べてきたから」
「どんな料理に使うのか、販売するときに説明をしたらいいんじゃないか?主な購買層になる料理人達は識字率が高い。レシピでも渡せば、売り上げが伸びるかもな」
お兄様が、前世のスーパーマーケットでよくあった材料のそばにレシピが無料配布されていることと同じ事を提案していた。
私もそれが良いと思うなぁ。これで、スパイスを使う料理が一般的になって、さらに市場規模も流通経路も大きくなるだろう。
レシピを渡すのも良いし……ただ、レシピ通りに作っても口に合うとは限らないし。試食は難しいだろう。料理を広めるとしたら、気軽に食べて貰う機会が増えること。
ランチ、とかどうだろう。
「お兄様、いま大規模な公共事業を領地で始めたりしてませんか?」
「何か面白いことを思いついたみたいだね」
お兄様は、嬉しそうに目を細めて微笑んだ。
「まだ、ちゃんと形になってないの。でも、なにかできそうな気がする」
「第二の都市ビーンステッドから汽車の線路を延ばす。領地のドラハムまで」
ドラハムは、領地でのお屋敷のある場所だ。ビーンステッドから線路を延ばすとなるとかなりの大規模な工事だ。人がかなり集まるはずだ。
「昼食をスパイスを使った料理を提供すればいいのではないかしら?持ち運びできるようにすれば、どこでも食べられます」
ファーストフードとまでは言わないけれど、簡単に持ち運びができる軽食が提供される飲食店があれば、仕事の合間に食べようという人だっているはず。この国は、まだランチは時間をかけてゆっくりと食べる文化だ。限られた時間で食べなければならない労働者にとって、食べないという選択肢を選んでしまうことだってあるだろう。
線路を延ばす工事というのは、重労働だ。食事を抜いたら体が持たない。そこで、簡単に食べられる昼食の提供をしつつ、スパイスを使った料理を広めることも出来る。
「面白い考えだな。他に良いアイディアがあれば、知りたい」
「資料を用意するわ」
このアイディアを形にして、商会に売れば私の家出資金が貯まるのでは?
いまの状況だと、処刑台送りの事件が先に起きるか、ナジュム国王との結婚が先か、というぐらい未来が分からなくなっているけど。
○●○●
珍しく、お母様に呼ばれてパーラーに向かった。お母様は幾つか手紙を持っていて、私に差し出した。
「そろそろ成人の証としての指輪の製作依頼をしなければならないの」
渡された紙は、成人貴族が全員身につけている指輪の石座部分のデザインが描かれている。この指輪は、封蝋のスタンプとして使うため、石座部分はそれぞれ個人を表す植物や動物がデザインされている。
私のデザイン案は3つありどれも花のデザインだ。女性は植物、男性は動物というのが一般的だ。
ただ、なんかこのデザインどこかで見たことあるんだよねぇ……。
「初夏までにはデザインを決めておきたいの。注文が間に合わないわ。このデザイン以外でも良いのがあれば、そちらにしても構わないわ」
こういうものは、代々の職人が家々にいて注文を受ける。
成人は、学校の卒業後なんだけど、ゲームでは私は卒業式直後に処刑されている。私、この指輪身につけることできるのかな……。
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