第45話女子揚げ物会


 放課後、シベルとマーゴを誘って秘密の部屋に行った。女子会を開くためだ。ジョシュアやクラレンスがいると話しにくいこともあると思ったからだ。


 女子会というと、お茶にお菓子にという定番のお茶会になりがちだが、夕食時だったので秘密の部屋にカウンター付きのミニキッチンを出現させた。


 コンロの代わりに火の魔法石が敷かれていて、飲料水はタンクから。明治から大正時代の台所のような使い勝手だ。


 二人にはカウンターに座って貰って、私はキッチン側で立って食べることにした。まずは、簡単にできる人参を千切りにしたマリネを小皿に盛る。以前仕込んでおいた、ピクルスとゴーダチーズを皿にのせる。飲み物は、蜂蜜につけたレモンを炭酸水で割った蜂蜜レモンソーダだ。


 本当は、お酒が良いんだろうけれど、未成年だし。


「あ、これしゅわしゅわしてて美味しい」


 マーゴは、蜂蜜レモンソーダを気に入ったようだ。炭酸水は、北部の水源で沸いている天然炭酸水で、錬金術の基剤になるので、学校では簡単に手に入る。


 人参のマリネも、ちょうど良く漬かっている。レモンの酸味が爽やかで良い。


 私は人参のマリネを食べながら、揚げ物用の小鍋にひまわり油を入れる。ジャガイモを短冊状に切って、80℃の油に入れる。


 ポテトチップスを作りたいところだけれど、あんなに薄く切れないので、フライドポテトだ。絶対好きだと思うんだよね。主食の一つが芋の文化だし。


 フライドポテトを揚げている間に、ゴボウを皮付きのまま薄切りにして五センチぐらいの幅に切る。ボウルに水を張って、切ったゴボウを入れておく。


「シベル、いつからフィッツウィリアムに絡まれるようになったの?」


 エディットのあの言いかがりは、ちょっと異常だった。単純明快で鈍感なエディットが、自分のストーカーに気がつくのは、よっぽど酷いことになってからだ、と私は思う。ゲームでも鈍感さを発揮して、ヒロインとすれ違い片恋をする。


「ここ一週間ぐらいかしら?入学式の時に、親同士の紹介で挨拶をしてから、まったく会ってないわ。寮が違うと、授業も一緒にならないし」


 私はタマネギをみじん切りにしながら話を聞いた。揚げているジャガイモの火を少し強くして、徐々に油の温度を上げていく。


「え?なになに?何かあったの?」


 どうやらマーゴは、知らないようだ。シベルが、マーゴに簡単に今日あったことを説明している。


「なに、あいつ!むかつくぅ」


 マーゴが話を聞いて、フォークでミニ胡瓜のピクルスを力強く刺す。ミニ胡瓜をエディットにでも見立ててるのだろうか。


「めずらしく寮で大人しくしていると思ったら、あの女」


「大人しい?」


「そうよ、いつも放課後は、殿下か、クラレンスかエディットの後を追いかけて、何かしら騒ぎを起こしてるから」


 私は鍋を取り出して、刻んだタマネギをバターで炒め始めた。きつね色になったジャガイモは、いったん油から引き上げて、冷ましておく。揚げ油の温度をもっと上げて、ジャガイモをもう一度投入する。


「すごい良い匂いがする」


「もうちょっとでできあがるから」


 もう一段濃い色になったところで、ジャガイモを引き上げて、ボウルに入れる。塩を入れてボウルを振るう。


「フライドポテトのできあがり。熱いから気をつけてね」


 シベルもマーゴも恐る恐る、フライドポテトをフォークに刺す。ひとくち口に含んで、熱そうに目を瞑っている。二人とも、同じ表情をしていた。


「熱い!でも、おいしい。ジャガイモが甘い」


「外側がサクっとしていて、中がほくほくだわ」


 二人ともフライドポテトに感動している。貴族だとこういう素朴な料理って普段の日にもでてこない。


「たまに、みんなでお茶会やるじゃない、そのときホールドンはどうしてるの?」


「後が大変よ。すれ違ったりしたら、絡まれるし、殿下やクラレンスは、体をすり寄せられて猛アピールされてたし。本当、ふしだらだわ」


 前世でも学生のうちで、恋人でも無い相手に体を擦り寄せてまで相手の気を引こうというのは、中々いなかった。お酒が飲めるような年頃になってからは、そういう人も増えてきたような気がするが。


 この世界は、男女の仲については封建的で、恋人という概念を理解している人は少ない。結婚は親が決めるもので、恋愛をして恋人になって、結婚をするという段階を踏む人は平民であっても少ない。そういうこともあるかなー?ぐらいに思っている人が多いのだ。なので、異性に体をすりつけてアピールするということは、とんでもなく非常識なのだ。


 私はフライドポテトを口に入れて、もぐもぐ咀嚼しながら、タマネギを炒めていた鍋に、ほうれん草をいれる。油が回ったところで、小麦粉を振り入れて水を注ぐ。水にさらしたゴボウを、さらしで良く拭いて、片栗粉をまぶす。さきほどの揚げ鍋にゴボウを投入。色がつくまで揚げる。


「ホールドンが粉をかけているのって、それだけ?」


「……それが、あくまで噂なのだけれど、使用人達の控え室を探しているらしいわ」


「そんな部屋あったっけ?」


 この学校は、貴族であっても使用人を連れてくることが出来ない。ジョシュアでさえ連れてきていないのだ。ただ、特例でジョシュアの場合は、身辺警護の護衛だけはいる。


 王子に護衛がいないのは、こちらがドキドキしっぱなしなので、護衛が居てくれるのはありがたい。


「デクルー家の使用人を探しているらしいわ」


「うちの使用人とはいっても、誰も連れてきてないけれど」


 シベルには、そう返答したものの私には心当たりがあった。攻略対象者のデニーを探しているのだろう。アリエルは会ったことが無いはずなのにデニーを探している、と言うことは、この世界がゲームと酷似してるって知っている……?

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