第44話純情少年との攻防


 剣舞は、錬金術師の護身術でもある。一人で錬金術の素材を取りに行けるように剣を使って戦い、不足分を錬金術で作ったアイテムで補う。

 授業では練習着だが、一人前の錬金術師は、ナジュム王国風の金の飾りのついた衣装を着て剣舞を行う。

 短剣の柄には飾り紐がついていて、その一本一本に意味がある。飾り紐にはびっちりとルーン文字が刻まれていて、剣を振るうことによって簡単な紋を宙に刻み、ルーンの力を引き出し、守りや補助に使う。


 理屈は分かるけれど、剣を振るうのは結構難しい。


 基本の型から行ってるけれど、実践でちゃんと使えるようになるのかしら?




 ウィンダム先生に注意されたのが堪えたのか、その日からしばらくは、ホールドンが私に言いがかりを付けてくることはなかった。


 そう、思って安心していたのだけれど……。


 校内を歩いていたら、人だかりができている。男性の怒鳴り声もするし。ちょうど剣舞の練習場や、剣の練習場への通り道になる回廊だ。人だかりの中心から聞こえる女性の声に足を止めた。


 シベルの声だ。


「私は、あなたの後をつけていません」


 いつも冷静な彼女が怒りをにじませた声で、誰かと対峙している。ここからだと後ろ姿しか見えないが、ローブを着ているので魔法学科の生徒のようだ。


「嘘をつけ、俺に相手にされないことに怒り、俺をつけ回しているくせに」


 どんだけナルシストな男なんだよ。シベルがつけ回すとしたら、よっぽどのいい男だぞ。なにしろ、王子様の婚約者候補なのだから。


 私は野次馬の周りを回って、シベル側に移動する。どちらかというと筋肉質な体型で、栗色の髪を短髪にしている。ぱっとみた感じオオカミの混ざった犬という顔立ちの男子生徒が、シベルを蔑んだ目で見下ろしていた。


「フィッツウィリアム様、私は貴方と会ったのはこの学校で初めてだと存じます。よく知らない相手につきまとうほど、この学校のカリキュラムは優しくございませんわ」


 この犬っぽい男、攻略対象者のエディット・フィッツウィリアムなのか。そういえば、そんな顔してる。でも、ゲームでは割とシベルの事を気に入っていたのに、ここでは毛嫌いしているみたいだ。


 シベルがエディットをストーキングしているから、らしいけど。そんな暇ないだろ……。


「俺のことが好きだから、つきまとってるんだろ?」


 え?それ、自分で言っちゃう?


 野次馬達も、どん引きしている。エディットは格好いいが、爽やかなところが人気なのであって、変にナルシストになると、魅力が半減である。


 だけど、こんなことをいうバカだったっけ?バカ過ぎて、騎士団団長の跡を継げないんじゃないかな。


「な……なんだその目は!アリエルがそう言っていたんだ。そうやってつきまとって、アリエルと俺の仲を裂こうとしてると」


 ここでも、困ったちゃんアリエル・ホールドンがでてきた!


「はいはーい質問!」


 絶対に二人で向き合わせておくと、埒があかなそうなので、割って入った。


「なんだお前」


 この男、本当にバカだ。服装でしか判断してないな。

 私が錬金術学科の制服を着ているから、平民と思ったみたいだ。この溢れる気品がわからないかね?


「アリエル・ホールドンとフィッツウィリアム様は、いい仲なんですよね?」


「そうだ」


 言い切っちゃったよ。


「でも、アリエル・ホールドンは殿下に熱心にアピールしてますよね?そこらへん、フィッツウィリアム様はどう考えてるんですか?」


「殿下がお望みなら、俺は……」


「俺は、アリエル・ホールドンを共有しちゃいます?」


「は?」


「アリエル・ホールドンを二人で共有して、あーんなことやこーんなことをしちゃうんですよね!」


 本当、逆ハーレムメンバーは何を考えているんだか。恋愛するなら、当然「好き」なのを確認したらその先に進むだろう。みんなでその先に進むわけ?アリエル・ホールドンの体を共有しちゃうの?


「恋人になるなら、いろいろしますよね?」


 絶句しているエディットに追い打ちをかける。耳まで真っ赤にしたエディットは、あわあわ言いながら逃げ出した。


 勝った……!


 思わずガッツポーズをした。エディットが純情キャラだからできた方法だけど。


「ありがとうございます。助かりましたわ。ジュリア」


 シベルを助けられて良かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る