第7話 初デート②


「シュウリン、もうお昼だけど中心街に行ってみないか?行ったことないんだよね」


「そうなの?わかった。じゃあ、そこでお昼御飯食べましょ」


 私たちは、大通りに出てタクシーを探し中心街へ向かった。

私の会社がある地域は所謂工業地帯で、工場が立ち並んでいる中にある。中心街には、特に用事がなく行くこともなかった。


 中心街が近づくと、さっきまでの町並みとは全く違って高層ビルが立ち並んでいる。

私達は、タクシーを降りて食事のできそうなところを探しながら散策した。

さすが中心街だけあって人通りも多い。


ふと、一人の老人が私のところに近寄ってきて何か言っている。


「シュウリン、なんて言ってるの?」


「あなた、日本人か?って聞いてる」


(なんで日本人て分かるんだろう?)


 私は頷くと、途端に何かすごい剣幕で捲し立てるようにしゃべってくる。

何を言っているか全くわからなかったが、顔の表情と言葉の感じから絡まれているのは解った。


ムカついたので、思いっきり睨みつけると、老人は更に大きな声で捲し立ててきた。

周りの通行人も私達を取り囲むように集まってきた。


「東条さん、行こう。相手にしちゃダメ」


シュウリンは、そう言って私の手を引っ張って歩き始めた。

歩き始めても後ろの方で、まだ騒いでいる。


「シュウリン、なんて言ってたんだ?」


「聞かない方が良い。日本人の悪口」


(やっぱりな・・・ああいう反日の人は中国には結構多いんだろうな。シュウリンはどうなんだろ?)


私は、シュウリンが反日感情を持っているのかどうか気になったが、日本人相手に仕事をしているのだからそれは無いだろうと思った。しかし、家族はどうなのだろうか?

もし、家族が反日で私たちが付き合ったりすると、反対されるのだろうか・・・。


「ねえ、何が食べたい?」


「――――え?」


「あ、さっきの気にしてる?言わせとけば良いの」


「うん、そうだな。・・・中華料理が良いな。いつも日本料理ばかりだから」


「じゃあ、そこの中華料理店に行こ」


そう言って、歩行者天国の通りに面したお洒落な中華料理店に入り、少し遅めの昼食をとることにした。


メニューを見ると中国語で書いてあったが、写真があったので助かった。


「なんにする?魚料理とか点心料理とかいろいろあるよ」


「ああ、俺、ラーメンにする。中国のラーメンを一度食べてみたかったんだ」


「じゃあ、私も」


注文をして待っている間、彼女に聞いてみた。


「なあ、シュウリンは日本人のことをどう思ってる?」


「日本の国のことは知らないけど、日本人は皆良い人だよ。優しいし。」


「そうか、良かった。シュウリンも日本人が嫌いだったらどうしようかと思った」


「大丈夫。皆が日本人を嫌いというわけじゃない。日本人が好きな人も沢山いるから」


それを聞いて少し安心した。


 しばらくすると注文していたラーメンがきた。結構日本のものと見た目は変わらない。チンゲン菜とチャーシュー、細麺と鶏ガラスープ仕立てだ。

結構旨い。彼女も美味しそうに食べている。


「なあ、シュウリン。今日いろいろと案内してくれたのは俺がお客だから?」


「そうだよ。東条さん良い人だし」


「そうか・・・」


私は、結構ショックで、そう返すのが精一杯だった。


(そりゃあそうだよな。俺は何を期待してたんだろう。数回、店で会っただけで、しかもホステスと客なんだから当たり前だよな・・・)


「東条さん、これから、どうする?」


「ああ、渡辺が寮で待ってるから帰らないと。あいつ一人でどこにも行けないから、晩飯に連れて行かないと」


「分かった。私もお店に出ないといけないから」



 私達は、中華料理店を出てタクシーで寮まで向かった。


――――しばらくすると、寮がある住宅街の入り口に近づいてきた。


「シュウリン、今日は有難う。いろいろ観光地も見れて楽しかった。また、どこか行こうね」


「うん、私も楽しかった」


「また、日本に帰る前に店に行くから」


私は、そう言ってタクシー代を多めに渡してタクシーを降りた。


 寮に帰ると渡辺がDVDを見ていた。


「お帰りなさい、早いですね。もっと遅くなると思ってました」


「お前が一人で晩飯に行けないから早めに帰ったんだよ」


「別に遠慮しないでもっと楽しんで来ればよかったのに」


(こいつは・・・)


渡辺と食事に出かけたが、今日はクラブに行くのは止めた。

なんか、単なるお客だったのが辛かったのだ。


(結局、シュウリンとは進展なしか・・・)


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