第5話 再会②


 2日目の仕事も終わり、渡辺と一緒にいつも行く日本料理店に行った。

日本料理店といっても定食屋だ。とんかつ定食と鶏のから揚げ定食を頼んだが日本と全く変わらない。渡辺は初めてだったが満足そうに食べている。


「渡辺、今日もクラブに行くか?」


「ええ、行きましょう」


まあ、寮に帰ってもテレビは中国語で何を言っているのかわからないし、男2人ですることもないし、暇を持て余すだけだ。クラブみたいなところしか時間を潰せないのは確かだ。

 早速、シュウリンの名刺を取り出し、電話を掛けた。

電話を掛けるのは初めてだが、出てくれるだろうか・・・。


「・・・・」


何回か鳴らしたが出ない。知らない電話番号だから取らないのだろうか・・・。


――――しばらくすると、電話が掛かってきた。

電話に出ると、女性が中国語で何か言っている。


「シュウリン?東条だけど・・・」


「たぶん、そうだと思ったああ」


「今から店に行くけど、いる?」


「いるよお」


「じゃあ、直ぐ行くから」


そう言って、電話を切った。


 渡辺とクラブに入ると、シュウリンが出迎えてくれた。


「電話ありがとう。どこ座る?」


「一番奥に行こう」


 このクラブは、会社の人達も接待で結構使っているため、出来るだけ会わないように一番奥のボックス席に座った。

渡辺には、何も言わないのに昨日指名した小姐が来て、隣に座った。


「また来てくれて嬉しい。もう仕事終わったの?」


「終わった。いきなり電話が掛かってきてビックリした?」


「うん、誰だろうと思った。でも、声聞いて直ぐに東条さんてわかったよ。直ぐに電話帳に登録したよ。」


「見せて?」


私は彼女の携帯の電話帳を見せてもらった。

見ている間、彼女が自分の顎を私の肩にちょこんと乗せてきて、一緒に携帯を見ている。

頬と頬がくっ付きそうなぐらい顔が近くにあった。前に座っている渡辺が、気を使ってワザと見ないようにしているのが分かって少し照れた。私たちの関係を誤解されたかも知れない。


確かに、私の名前が登録してある。日本なら常連客の電話番号を登録しているのは当たり前だし、彼女もいろいろと登録してあるんだろなと思ったが、日本人らしき名前は私しかいなかった。勘違いかもしれないが少し嬉しかった。


「シュウリン、写真撮らないか?」


「いいよお、かわいく撮ってね」


彼女だけの写真を一枚。そして、私と彼女と一緒の写真を一枚、渡辺に撮ってもらった。

なにか新鮮で学生時代に戻ったような感覚だ。



 飲み過ぎたのか、彼女も酔った感じでいろいろとプライベートなことをしゃべってきた。


「私ね、1年前に彼氏と別れたの。お客さんと歩いてたら、彼氏が来て頬を殴られたの。勘違いしたみたい。でもそれっきり会うの止めた」


「そうなんだ。彼氏は日本人?」


「ううん、中国人。日本の人とは付き合ったことない。でも、日本人と結婚して日本にいる友達も何人かいるよ」


 そうそう、聞くところによると日本人は結構モテるらしい。お金を持っているというのが大体の理由らしいが、年齢にこだわる人は少ないようだ。だから、若い女性とおじさんが結婚するとか当たり前に多いらしい。やはり、経済力というのは中国では、かなり重要な結婚条件なのだろう。


(ひょっとすると、俺とシュウリンも・・・)



「ねえねえ、こっちで観光した?」


「いや、月曜に来て金曜に帰るから遊ぶ暇なんてないよ」


「そうかあ、折角こっちに来てるのに勿体無いね」


「あ、今回は土日を跨いでの出張だから休めるな」


「え、じゃあ一緒にどこか行く?案内してあげる」


「本当?行こう」


 営業的なお付き合いだろうがなんだろうがかまわない。彼女との初デートだ。


「待ち合わせ場所とか言われてもわからないよ。中国語もわからないし」


「大丈夫、家に迎えに行くから。土曜日の朝9時でどう?」


「大丈夫だよ。寮がある住宅街の入り口で待ってる」


「家出る前に電話するね」


「ああ、頼むよ。行き先も全部任せるから」


「任せといて!」


(そう言えば、渡辺はどうしよう。一緒に行ってもいいが、やはり二人で行きたい。まあ、1日ぐらい一人でいても大丈夫だろう。)

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