6. シンデレラじゃないのに、ガラスの靴が履けてしまった
「おめでとうございます! 貴女がシンデレラです!」
当選した、みたいに言うんじゃないわ。
お城の使者は大喜びで私を馬車へ押し込んだ。
片足だけガラスの靴を履いたまま。
事の
王子様の花嫁を決める為のパーティーで、国中の女性が招待されていた。私ももちろん招待状が来ていたが、口が悪くてマナーも苦手なので、パスした。行ってすらないんだよ。
そこに王子様好みの女の子が現れてダンスをしたんだけど、その娘は十二時の鐘が鳴る前に慌てて帰ってしまったんだとか。その時に残したガラスの靴を頼りに、彼女を捜していた。そして私が履けてしまったのだ。
そもそもそんな深夜までパーティーしてないで、昼間にすれば良かったのに!
貴族ならご自分の家の馬車でなんとでもなるだろうけど、庶民がどんな交通手段で帰るんだよ。きっとお城前を出発して自分の住む町まで行く、最終馬車の時間だったんじゃないの?
パーティーで国中の女性を集めたもんだからお城周辺の宿は満室、しかもその日だけ値段が高騰して地方からの参加者は難儀したって話だよ。
お城のヤツら、バカばっか!
「あのー、私これからどうなるんスかね」
向かいに座る若い男性に尋ねた。彼は今回の捜索の責任者だ。二十代かな、十八歳の私より少し年上に見える。
「お城で殿下にお会い頂きます、ゆくゆくは王妃にと望まれております」
「いえ~、私シンデレラじゃないッスよ。アネモネって名前でして」
「王子がシンデレラと言えば、シンデレラなのです。全ては王子がお決めになります」
え、何コイツ。脳に思考領域がないの?
「アホなの?」
「アホ……?」
思わず本音が口を突く。男性は心底意味が分からない、という表情で繰り返した。
私も意味が分からない。
馬車はどんどんと進み、私が住む町の門を通り過ぎた。あちらは王都だ、本当に王城へ向かっているっぽい。
まあいいだろう、王子本人と面会が叶えば、間違えたと理解してもらえるだろ。私は仕方なく馬車に揺られるままに身を任せた。帰りも馬車で送ってくれっかな~。
お城の門を検問すらなく通り抜ける。やっと着いたと思ったのに、目の前の城を通り抜け、別の城へとまだ馬車が走る。城って一つじゃないんだな……。
馬車が止まってから、広いエントランスホールで兵や使用人に頭を下げられ、何人も一気に通れる幅の広い階段を上り、これまた広い応接室に着いて、さほど時間が経たないうちに扉が開いた。
「待っていた、愛しのシンデレラ!」
バーンと扉が開き、両手を広げた男性が姿を現す。金髪に緑色の目、この国の王子だろうな。うん、頭の悪そうな、それでいて整った顔立ちをしている。
「はじめましてー」
「……誰?」
目が点になってるよ。人違いだと気付いて良かった。私を連れてきた男性を振り返る。
「殿下のご希望の女性です」
「いや、私はシンデレラを捜せと命令したんだけど……」
「いいえ、殿下は“この靴を履ける女性を連れてこい”と、お命じになりました。彼女の片足をご覧ください、まさしくガラスの靴です」
堂々と胸を張る男性。
よくその理論で威張れたよ。私のもう片方の靴は、家に残してきてしまった。これを履いてるしかなかったんだよ、クソッ。没取されたら、帰りは片足裸足になるのか?
「履いてるけど……」
王子は状況が理解できず、頭にハテナがたくさん浮かんだままだ。
「言葉通りに捉えすぎだろ! 使えない、使えなすぎっしょ! シンデレラって人が履いてた靴を頼りに、シンデレラ本人を捜せって話じゃん! 靴が履けたら強引にシンデレラを名乗らせればいいわけじゃないよ!」
「そうそれ!」
私が捲し立てた言葉に、王子が乗っかる。自分の言葉で喋れよ。ああもう、ラチがあかないな!
「どういうポンコツ育成してんの? 従うだけの機械みたいな、無駄に有能な人物を作って、どんな非道な命令にも背かないように矯正してんの? ヤバイよ?」
「そういうわけではなくて……」
王子、煮え切らんな。私はこの国の行く末が不安になるぞ。隣国に無理な要求を突き付けられたら、交渉もろくにせずに押し切られそうじゃないか。
「ご安心を、私は元々の性格です。四角四面で気が利かない、と皆が口々に言いますよ」
背筋をピンと伸ばし、男性は誇らしげに
「威張れることじゃないから。で、どうすんのよ王子様」
「ええと……私のシンデレラを捜して欲しいんですが……」
胸の前で指をいじいじさせながら、申し訳なさそうにする王子。そりゃそうだよね、一目惚れの相手みたいだし。
「では再度、捜して参ります。ガラスの靴はお返しください、大事な証拠品ですので」
「あのさーーー、私の靴の片方、地面に転がしたまま来たでしょ! 替えくらい用意してよ!!!」
ポンコツ二人では不安があるので、周囲に
「すぐにご用意します」
「頼むねー」
これ、この気遣いが必要よ。私はソファーに座ったまま、用意されたお茶とお菓子を口にした。
王子は反対側のソファーの近くで立ったまま。どうしていいか分らないみたい。
「アンタも
「なるほど! 良い考えだ。ええと、君は……」
「アネモネよ。絵は得意だからさ」
用意されたキャンバスに、木炭で絵を描く。油絵の具まで置かれてるぞ。本格的な道具を用意しやがったな。人相書きってそういうのじゃないだろ。
私は王子の話を聞き取りながら、人物画を仕上げた。
淡い月のような輝く金色で、なめらかな絹の髪、瞳はどこまでも済んだ青い空、微笑みは春の日差しの如く暖かく慈悲にあふれ……。詩人かよ。
「これぞ私のシンデレラ!!!」
絵の出来映えに王子は満足したようだ。さっきまで借りてきたハムスターみたいだったのに、今は元気にカラカラを回すハムスターになった。両手で抱えてしばらく喜び、渡したくないと拗ねていた。
捜すのに使うって言ってるでしょ。
「これで手がかりが増えました。アネモネさん、一緒に参りましょう」
「おお、送ってくれんの? サンキュー」
「いえ、シンデレラ様捜しです。私の実力の限界を感じました。貴女のお力が借りられれば、とても心強い!」
強引に連れてきた男が、とんでもない提案をしてきたぞ。限界
「何言ってんの、帰るよ」
「給金は弾みますよ」
「……しょうがないなー、手伝うわ!」
そんなわけで、私もシンデレラ捜索隊に加わった。
ヤツらは闇雲に一軒一軒訪ねていたようだ。効率が悪すぎる。
私はまず城の近くの馬車乗り場へ向かい、彼女が気にしていたという十二時頃に出発する定期馬車の行き先を確認した。該当する馬車は三つ。
次に、当日十二時に馬車を出した御者を捜し、該当の人物が乗っていないか確かめる。同日は若い女性が多かった上、夜で暗かったため判別は不能。仕方なく、可能性が高そうな馬車の行き先から調査する。先に城のヤツらが調べたところは除外、と。
地道な捜査の末、シンデレラの家は半月かからずに突き止められた。
一軒ずつ回らずに、「この町にシンデレラって娘、住んでる?」と、役所で尋ねたら該当の人物に当たったよ。
シンデレラを城に連れて行って、私の仕事は終了……、と思ったんだけど。
「アネモネさん、貴女の手腕は素晴らしい! 私の片腕になってください。ゆくゆくは妻として、足りない部分を補って頂きたい!」
と、最初に私を連れてきた男、ガーランドに気に入られてしまった。
「素敵ねアネモネさん、ロマンスだわ~」
「私もお似合いだと思うよ。もちろん、私たちの次に。ね、シンデレラ」
「ね、殿下~」
シンデレラと王子はラブラブバカップルになってる。こっち見んな。
このポンコツ男ガーランド、捜索先で宿に泊まろうって提案したら、本当に宿泊だけで食事の手配もしなかったんだぞ。こいつのおもりをさせるつもりか。
「ガーランドは侯爵家の次男で継ぐ家はないけど、子爵位は与えられるよ。高給取りだし」
「高給取り……」
王子の言葉に心が揺らぐ。実のところ、我が家はあまり裕福ではない。今回の仕事で得た報酬を仕送りして、家族にとても喜ばれたのだ。
「まずは婚約者としてお付き合いしましょう!」
やたら乗り気なガーランド。悪いやつではない、知識はあるし顔もいい。ただ残念すぎるだけで。
「うーん……」
「ところで、婚約者って何すれば良いんですか?」
「私に聞くなよポンコツ!!!」
シンデレラと王子が笑っている。
私に押し付ける気満々だろ!!!
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