第118話 下弦の月

夜しか入れない本屋がある。

眠れない夜、私はパジャマを着たまま、その本屋に行く。


月光よりも淡くて、儚い店内。傷だらけの本たちが、棚の中で身を寄せあって震えている。その中の一冊を優しく手に取る。まだ微かに温もりを感じた。


しばらく立ち読みしていると、店員のお兄さんが私の隣で(仕事をサボって)薄い雑誌を読んでいた。



「………………」


「今日も来たの? キミも好きだねぇ」


「ここにしかない本がいっぱいあるから……。だから」


「うん。分かるよ、その気持ち。でもね、注意しないといけない。この本は、中毒性が強いから。はまりすぎると元の世界に戻れなくなる」


「…………」


「注意は、したからね」


「…………………」



2冊。いや、3冊読んだところで、私は本屋を後にした。


店の外に出て、歩いていると………。



あれ?


わた…し………。





どこに帰るんだっけ?





仕方ないので、店内に戻る。


「…………………」


「あまり、出歩いちゃダメだよ」



優しいお兄さんが、一冊の本を開き、床に置く。左足から、ゆっくりと。本の中へ。




ゆっくり……。




自分だけの小さな世界に帰っていくーーーー

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