第104話 人形

昔から、我が家には生きた人形がいる。家宝であるその人形は、姿を変えながら祖母から母。母から私に受け継がれた。楽しい時や悲しい時。毎日毎日。私は、何でも人形に話しかけた。



「学校と塾。今日もつまらない1日だったなぁ………。あっ! でもね、こうしてあなたを見ると何だか心が安らぐの。本当だよ?」


最高の癒し。不思議と人形と話した後は、気分が晴れた。


私の話を子供の頃から聞いていた人形は、いつしか本当の家族よりも心が許せる存在になっていた。



だから。



家が火事になり人形が焼失した時は、気が狂ったように毎日泣いた。



そんな私を心配して、母が新しい人形を造ってくれた。私達一族以外、誰にも真似の出来ない秘術がある。



「これが、新しい人形よ。だから、もう大丈夫。これから仲良くね」


「うん……。ママ、ありがとう。大好き」



新しい人形は、まだ涙を流しながら私を見ている。術の効きが甘い。もう少し時間がかかりそう。



「………た……すけ…」



「人形は、ただ黙って私達の話を聞くモノだよ。でも大丈夫。明日には、完全な人形になれるからね」


「い…………ゃ」


そっと撫でた黒髪は、シルクのように滑らか。



明け方近く。あんなに泣いていた人形からは、もう一滴も涙は出ていない。左目は、既に硬いグラスアイになっていた。右目ももうすぐ。


私達の家宝になれたんだから、きっとこの人形も喜んでいるはず。





「ねぇ、ねぇ。聞いて。私の話」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る