第100話 蜂の巣

ボクは、蜂。だけど今日、女王様に巣を追い出された。餌を運ばないで、毎日毎日あの子に会いに行っていたから。まぁ、こうなるのは当然。



それでも。帰る場所がなくなっても。

飛んでいく。あの子の元へ。


真っ白な家。


寝たきりの病弱な彼女は、ボクを受け入れる為に部屋の窓を少し開けてくれている。



ほらっ! ね。



「今日も来てくれたの?」


「うん。君に会いたくて」


「そう……。ありがとう」


笑った顔が見たくて、今まで外の世界で見てきたことを彼女に話した。


「ずっとずっーーと遠くにね、光る砂山があるんだ。たぶん、この世界の半分は砂で出来てると思う。それぐらい広いんだよ」


「それは、砂漠ね。………見てみたいなぁ」


「へぇー、あれってサバクって言うんだ」


時計の針が、ちょうど一周した頃。


突然、彼女が苦しみだした。



「誰かを呼んでくる!!」


「っ、待って………いかないで。私を一人に……しない…で」


泣いている。どんなに胸が痛くても、血を吐いても歯を食いしばって我慢していた彼女。


震える両手でボクを優しく包む。



「うん。分かった。もう……どこにも行かない。ずっと、君の側にいるよ」


「ありがとう………。うれしい」



彼女の声を聞いたのは、それが最後だった。



何日も過ぎて。彼女がいなくなった部屋の窓から、今日もボクは外の景色を見ている。


「……………」


彼女の部屋に無断で出入りする人間たち。うるさい。彼女の悪口を大声で話す。笑いながら。


「……………………」


ボクは、久しぶりに女王様に会いに行き、新しい家を提供する代わりに、一つ頼み事をした。



「………………………………」


夜でもないのに部屋が暗くなり、無数の仲間が女王を連れて部屋に入ってきた。慌てる人間たち。その人間の体に貼りつき、容赦なく針を突き刺す。



僕は、泥団子のように固く動かなくなった人間たちを確認した後、静かにこの家を去った。




声が聞こえた。彼女の声。


あの黄金に輝く砂山の先で、きっと僕を待っている。


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