関係性


「ねぇ、パパ。なんだか元気ないね」


「うん? あぁ………ごめん。少し疲れてて」


「ふ~ん。じゃあ、肩揉んであげよっか」


「いや、いいよ。大丈夫」


「……本当に大丈夫?」


「大丈夫だよ。優しいね。ありがとう」


「あっ! じゃあ、ママを呼んでくる。ママがいたら、パパも元気になるでしょ?」


そう言うと、裸足のまま家を飛び出した。臆病な僕には、そんな彼女の小さな腕を掴むことすら出来ない。


見つかるはずのない母親を探しに行った娘。



「…………………」




一時間くらいで、娘は帰ってきた。裸足だったので、足は泥だらけ。



「おかえり。随分、遅かったね」


「ただいま………アナタ」



娘じゃなく、『今』は僕の妻。


僕達夫婦には、子供はいない。娘は、彼女が作り出した新たな人格の一つ。



「アナタ、疲れた顔してる……。お仕事大変なの? 無理しないでね」


「大丈夫だよ。君は、優しいね」



正確には、僕達は夫婦ですらない。



医者と患者。



それ以上でもそれ以下でもない。

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