西日の男の子

 彼の部屋の片隅には、ダンボールだけがある。他には何も無い。

 空っぽになったその部屋には、少年だけが西日を受け、座っていた。

 離婚届には既に朱肉を押された。あとは少年だけが部屋から出れば良い。

 少年はおもむろに立ち上がり、部屋のドアを開けた。

 少年はサンダルを地面にすらせながら、歩道橋の階段を上がり、通りの途中で立ち止まる。

 大きな川が流れている。セミが鳴いている。ジリジリと心身にだるさを伴わせる蝉だ。

 道橋の上でその華奢なその背中に、夕日が架かる。



 一匹のアキアカネがその指に止まった。

「さようなら」

少年は言い含んだ言葉を残して、歩道橋を降りていった。

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