おばあさんと犬
私は、恋人を待っていた。犬の散歩道でもある道路の真ん中に整備された憩いの場。
夕方の都会は、寂しくもあり寒くもあり。けれどそれが肥になって、恋焦がれていた。
一方で私はそわそわもしていた。恋人が待ち遠しいのもあったが、それより勝るのは歩いている老人たちが私に話しかけないかどうかだった。
話しかけられることの多い私だ。今日もとうとう話しかけられてしまった。おばあさんは隣のベンチに犬を上るように促していた。犬は若さはまだわずか残ってはいたが、すでに老衰しているようだった。
こういうとひどく見えるようだが、きっと運動をさせていたのだろう。おばあさんは、「前は上れたんだけどねぇ」と空を仰いでいた。
どうやら前に上らせたベンチが高かったようだ。犬は私が座った隣に、体を重たそうにしながらも足を折りたたんだ。
犬は震えていた。よっぽど寒いのだろう。私は震える柴犬を、ここで初めて見た。
「あれももうじき咲くよ」
おばあさんは、目をしばつかせながら桜を仰ぎ見た。「そうなんですか?」そう聞くと、当たり前だよと言われた。「そうですよね」そう言うと、おばあさんは笑った。
平成31年1月29日
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます