第十一話 水族館デート

美海said

待ち合わせ五分前。

私はそわそわしながら、胸の上で揺れるペンダントを見た。

海月クラゲと三日月の飾りが、日の光を浴びてキラキラと輝いている。


まだかなぁ…って、何をそんなに楽しみにしてんの⁉


パチッと自分の頬をたたく。


だって、本気になっちゃいけないんだもん。

芹沢君の告白は、嘘だから。

なんてったって、罰ゲーム、でしょ?

ありえない‼


カツンッと靴で地面を蹴る。


「美海…?」


聞きたかったような、聞きたくなかったような、温かい声。


「芹沢君っ」

思わず赤面しそうになって、慌てて手を握る。


「やっぱり私服可愛いね‼とってもよく似合ってる」

笑顔で言う彼に、私も笑顔で返す。


でも…これから夕方までもつかな…。

それが不安で仕方がない。

いつも以上にキラキラしてる彼を見ていると、いつも以上にドキドキする。


でもふと、芹沢君の告白が嘘だと思い出した。


せっかくいい時間を過ごそうというのに、今になってそれを思い出すとは…。


えいやっと、そんな考えを頭の中から追い出す。


とにかく、今日は楽しむのみ‼


「美海、何から見たい?」

つぶらな瞳で見つめてくる彼に、思わずドキッとする。


「え、えっと…ぺ、ペンギンかな」

そう言って、一番近くのペンギンコーナーを指差す。

「ペンギンか。美海らしいね」

眩しすぎる笑顔で答えた彼は、さっそくそちらに向かって歩き出す。置いて行かれないように、慌てて彼を追いかける。

「暗いから気を付けて」

「うん」


やっぱり、女の子には慣れてるって感じだな…。

ま、芹沢君モテるし。


私はさっさと歩いて彼に追いついた。

「ここって人気のデートスポットなんだって」

「へぇ…」

「それでね、俺、美海と行きたいとこあるから後で付き合って」

「いいけど」


ちゃんと調べてくれたんだな。

それに、芹沢君が私を行きたいところって、何処だろう。


 その後は、トンネル型の水槽や、水中でふわふわ浮かぶ海月クラゲを見たりして水族館を存分に楽しんだ。全部見終わった時に時計を見ると、ちょうど3時過ぎだった。

「あ、そうそう。ここね、俺が言ってたカフェ。」

「うん。楽しみ」

芹沢君がドアを開けてくれて、ちょこっとお辞儀して店内に入る。


「うわぁ…素敵」

思わず息を呑んだ。


レトロな雰囲気のカフェで、椅子などはアンティーク家具でそろえてある。

「さ、座ろ」と言って、芹沢君が窓際の席に座った。

彼の隣に腰掛けると、彼はメニュー表を差し出した。

「これがおススメらしいよ」

爽やかレモンタルト…

「‼」

な、何これ‼

めっちゃ美味しそう‼


「じゃ、じゃあ、これにしよっかな。芹沢君は?」

「美海と同じの」


テーブルに運ばれてきたレモンタルトを、食べる前に写真を撮る。

「君が喜んでくれてよかった」

芹沢君がふわっと微笑む。


「うん…。楽しかったよ」

ようやく言えた、素直な言葉。


一瞬驚いた顔をした芹沢君は、すぐに普段の表情に戻った。


私もレモンタルトに視線を戻し、それを堪能した。


そういえば、芹沢君行きたいところがあるって言ってたな…


「芹沢君、行きたいところって…」

「あ、あぁ…」

芹沢君がポケットからスマホを取り出した。

「これ」と言って差し出されたスマホの画面を見ると…。


「綺麗…」

「この前俺が来た時に、ここにある観覧車から撮った景色だよ」

チクリ、と小さな針が心に突き刺さった。


前って、誰と行ったんだろ…。


「美海…?」

彼が心配そうに見つめてきたから、私は慌てて何でもない、って言って笑顔を作った。


私が食べ終わると、レジへ行って「払うから」と言う私の声に耳も傾けず、芹沢君は全額払ってくれた。


私たちは観覧車乗り場につくと、係の人が声をかけてくれた。

「お二人はカップルですか?」

「はい」と彼が戸惑いもなく答えるのを見て、私は胸が痛くなった。

どうせ嘘なのに。

よくもそんな嘘を…。

「この観覧車に乗ったカップルは幸せになれるっていう恋のパワースポットなんですよ‼」

係の人は観覧車が来ると扉を開けて笑顔で送り出してくれた。


それにしても、二人っきりは気まずい。


「ね、美海」

「何」

冷たい声で言うと、彼は少し悲しそうな表情を浮かべた。

「…景色、綺麗だね」


え…今何か言おうとしてた…?


でも結局その後は、たわいもない会話をしただけだった。

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