第九話 仕事場
美海said
※デート前夜
あぁ、どうしよう…。
明日何着よう?
悩めば悩むほど、悩みが尽きない。
大人っぽいのがいいかな?
可愛いの?
でも、頑張ってオシャレして行っちゃうと、こっちが本気みたいだよね。
そうだ。こちらの想いは悟られてはいけないのだ。何しろ相手は自分に嘘の告白をしてきた相手だから。でも、今でも芹沢君に片思いしてるのには変わりない。
私は自分の気持ちを抑え込むと、べっどに横になった。
朝、目を覚ましてハッと気付く。
あぁ、そうだ。今日仕事か。
私は、〝スクール・プリンセス〟、略してスクプリの雑誌モデルとして働いている。今日は月に二度の撮影の日。
どっちにしろオシャレしないと、編集長に何か言われちゃうしな…。
結局、白いブラウスに膝上の紺色のプリーツスカートを合わせてみた。
うん。悪くない。
私はお母さんに車で職場まで送ってもらった。
「行ってらっしゃい。頑張ってね」
「うん」
私は急いで楽屋へ向かった。
コンコンコン、と三回ノックする。
「レイラ、楽屋入ります!」
「おけおけ、入っていいよー」
夏樹さんだ。
夏樹さんは私のメイクさん。とても美人で、話が面白い。
「夏樹さん、今日も元気ですね」
「あ、そうそう。今日いいことあったんだー」
もう、語尾に音符が見えそうな勢いで夏樹さんが話しかける。
「今日は夏服のコーデだから、青っぽい服になるかも…ってあれ?」
「え、どうし――」
「いいことあったでしょ?デート?」
私はぶわっと赤面した。
「図星だぁ」
「ち、違いますよ。彼氏いませんから」
そうだ。
あれは嘘の告白。
芹沢君は、私のこと好きなんかじゃない。
「あれ、何かいけないこと聞いちゃった?」
いつの間にか、暗い顔をしていたようだ。
「いえ、大丈夫です。さ、仕事仕事!」
無理して笑顔を作ると、夏樹さんに笑いかける。
「最初の衣装はどうしますか?」
「…あぁ――」
夏樹さんが白いブラウスと星空のような銀色の花が散りばめられた紺色のワンピースを出してきた。
「これこれ」
「可愛い…」
「でしょ?さすが編集長だよね。それに今回撮る来月号のスクプリの表紙、レイラにするつもりでかなり張り切ってるみたいだし」
驚いて、絶句する。
私が、表紙?
いや、確かに最近呼ばれる回数多くなたし、やけに編集長に呼ばれるとは思ってたけど。
いやいや、ないない。
「冗談じゃないよ?」
珍しく真剣な顔をする夏樹さんにも驚く。
「頑張らないと、ね?」
「はい…」
私は元気のない返事をすると、手に持った服を握りしめた。
私が、表紙…。
ドラマでいう主役、それに、この雑誌の顔になるのだ。
再び目を上げて鏡を見る。そこに移っているのは、いかにも自信げのない、平凡な女の子だ。
これじゃダメ!
私はぎゅっと目をつぶると、満面の笑みを浮かべた。
「夏樹さん、頑張りましょう!」
早速渡された服に着替え、メイクを済ませると、私たちはスタジオに向かった。
「おはよう、レイラ」
まるで水のように澄んだ声に、はっと顔を上げる。
「—―っ、編集長‼おはようございます」
さすが世界トップクラスを誇るモデルだ。背も高いし、スタイル抜群。
「さ、来月号の表紙を飾るのは貴女でしょ?頑張って」
いつになく明るい編集長は、笑顔で私の返事を待っている。
「はい、頑張ります!」
型にはまったようなセリフを言ってしまってから、はっと肩を強張らす。でも、編集長は気にすることなく立ち去って行った。
よかった…。いつもだったら激怒されるところだもん。
「レイラちゃーん、スタンバイしてー」
「はーい!」
カメラマンの坂井さんの近くに行って、今日のポーズなどを確認すると、撮影に入った。
「レイラ、ダメダメ、もう少しぶりっ子ぶって」
「レイラちゃん、上目遣い!」
いろいろ注文されながらも、撮影を進める。
上目遣い…難しい…。
「レイラ、白目になりそうよ」
夏樹さんに指摘され、私は一旦休憩を取ることにした。
「夏樹さん…」
何?と言いながら夏樹さんが振り返る。
「上目遣いできますか?」
彼女はちょっともったいぶると、私に向かって上目遣いして見せた。
美人…。これは男子はイチコロね。
「どお?参考になった?」
「めっちゃ可愛いです、師匠!」
夏樹さんは苦笑して言った
「そこまででもないよ」
「コツ教えてください!」
「コツはねぇ、そうだなぁ…。好きな人のこと考えて、本気で落とそうとする?」
「うわ、すごいですね」
ちょっと引くなぁ。でも、そのぐらいしないとダメかな…。
私は思い切って、芹沢君のことを考えながら上目遣いをやってみた。
「すごい、レイラ!偉いぞ!」
夏樹さんが服が乱れない程度に私を抱きしめた。
「さ、再開しましょうか」
夏樹さんが坂井さんに伝えに言っている間に、私はちらりと時計を見た。
(1時25分か…。何とか間に合いそうだな)
「レイラ」
いつの間にか夏樹さんが戻っていて、私は慌てて撮影場所に戻った。
撮り終えたのは2時42分。待ち合わせの十分ほど前だ。
幸い、待ち合わせ場所の水族館がすぐ近くにあるので、私は急いで着替えを済ませた。
「あ、そうだ!」
夏樹さんがバッグの中から何かを取り出して、私の手に握らせた。
「はい、これ」
それは、ペンダントだった。
「レイラの初(?)デートを祝って!プレゼント」
ペンダントは、私の着ている服に合う、海を思わせるものだった。
「ありがとうございます、夏樹さん」
「良かったー、喜んでくれて。じゃ、行ってらっしゃい!」
「はい!」
私は急いでビルから出ると、早歩きで水族館へ向かった。
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