第五話 保健室でのラブソング

流星side

嫌だと思いながら来てしまった…。昨日のことが頭から離れなくて、結局眠れなかったんだよなぁ。

「おは、美海‼」

「今日も可愛い‼」

教室の扉をくぐるや否や、たくさんの友達に取り囲まれる美海。

大変そうだなぁ――ま、俺も他人事じゃないんだけど。

自分でいうのもなんだけど、学校内では結構モテるほう。

「お、おはよう、芹沢君」

「おはよ、美海」

よし‼今日はどもらないで言えた‼実は家でめっちゃ練習したんだよなぁ(笑)

でも、いくら鈍感な俺でも、今日の美海がいつもと違うのに気付いた。ちょっと顔が赤い。

「体調悪いの?」

「え、ううん」

でも美海はずっと額に手を当ててるし、朝読中もちょっと伏せてたり…心配だけど、いくら席が一番後ろとはいえ、教室でおでこに触るのは―――アレだよな。

美海の取り巻きにいじられるか、俺の友達にからかわれるか、両方か。

 結局四時限目の体育まで時間が過ぎた。相変わらず美海は少し体調が悪そうだ。

「大丈夫?体育休んだら?」

東も心配そうだ。

「大丈夫だから」

東が来たと気付いて、美海はぱっと身体を起こすと元気そうに両手を振って否定した。

「そう…?」

東はまだ心配していたが、美海と一緒に更衣室へと教室を出て行った。

今日は確かハンドボール投げと持久走だった——って、持久走って、ヤバいんじゃね⁉美海倒れたら…俺絶対授業集中できねぇ…。

でも、時すでに遅し。もういないし…。

陸翔りくとに急かされて、俺は着替えをひっつかんで男子更衣室へ向かった。

「持久走とかマジつれーよな。この時期に、千五百メートル走とか…」

「―――っテメ…バカか。距離言うんじゃねぇよ。余計しんどくなるじゃんか」

俺は陸翔を睨みつけると、さっさと着替えてグラウンドへ向かった。慌てて追いかけて来た陸翔は、面白そうに駆け寄って来た。

「で、どうなの?水川さんとはうまくいってんのか?」

「どうだろ。嫌われてる気もするけど」

陸翔は大げさに目を見開いた。

「俺にはそんな風に見えないぜ。彼女、絶対お前のこと好きだろ」

「んな訳ねぇって」

俺はそう答えながら美海を探した。


美海、無理してないといいけど。

「そう言えば、なんか水川さん体調悪そうだったよな」

「やっぱ?お前も気付いてた?いつもと違うなって」

陸翔がうんうん頷いた。

「あったり前だろ。俺は入学した時から水川さんに目ぇ付けてたんだからな。俺の方がかっこいいし―—」

「言ってろ」

そう返しながらも、俺はやっぱり美海を見ていた。

 女子は確か千メートルで良かったよな…。ま、きついのは一緒か。

でも、何だか嫌な予感しかしない。俺は走りながらずっとモヤモヤしたままだった。

 無事何事もなく俺は走り終わったが…。

「キャーッ‼」

女子の方から悲鳴が聞こえて、俺は飛び上がった。

「美海⁉」

「水川、大丈夫?」

先生が駆け寄って―――。

―――ダメだ。見えねぇ…。

「おい、琉星。行って来たら?」

陸翔が真剣な表情で俺の肩をつかんだ。

「え…でも、いいのかな。授業中だし…」

「んなこと今はどうでもいいだろ⁉とにかく行ってこい‼」

陸翔は俺の背中を美海の方へドンッと押した。

俺は駆けだした。先生が止めるのも聞かず、疲れも忘れて、美海に向かって。

美海…。

「せ、芹沢⁉」

女子の体育担当の山口先生、通称“ヤマセン”が驚いた様子で俺を見た。

「み、水川さんが、倒れたって?」

「あ、うん、熱っぽい」

ヤマセンは息を切らしていた。

そういや、ヤマセンさっき女子と走ってたよな。

「お、俺が保健室まで連れてきます」

「体育はいいのか?」

「俺、さっき走ったんで、大丈夫です」

ヤマセンが止めようとすると、陸翔が走って来てヤマセンに耳打ちした。

「へぇ、そゆこと。じゃ、宜しく。そっちの先生には上手く言っとくよ」


陸翔ォ…。あいつ、ヤマセンにばらしたな⁉

でも、俺が保健室まで連れて行けるならいっか。

俺は美海を抱えて保健室へ向かった。

美海軽いなぁ…。

ってそんなの今どうでもいいし‼

俺は保健室の扉を荒々しくノックすると、先生の返事も待たずに部屋に飛び込んだ。

「ど、どうしたの、芹——って美海ちゃん⁉倒れたの?ほら、ベッドに寝かせて」

宮松先生が美海を見た途端に大慌てでベッドのカーテンを開けた。

「ここ、ここ。今ちょうど開いてるから」

俺が美海を無事ベッドに横にさせると、「じゃ、ちょっと先生は用事があるから、美海ちゃんの体調良くなったら戻ってね」と言って、宮松先生はニヤニヤしながら保健室を出て行った。

つまり、宮松先生も知ってるってことだ。

ん、待てよ?

何で宮松先生まで俺らのこと知って―—‼


思い当たるのはただ一人―――陸翔だ。

これがいいのか悪いのか…。


まぁ、今はいいんだろうな。


 俺は眠っている美海を改めて眺めた。


そういや、こんなふうにじっくり美海の顔見たことなかったなぁ…。

長いまつげ、綺麗な髪、すべすべの肌―――

(髪の毛かかってる…)

俺はそっと美海の髪の毛をどかした。

うわ…サラサラだ…。

ドキドキして、思わず目を瞑った。

でも、美海はまだ寝ていて、何も起きなかった。

「好きだよ、美海」

それから、ものすごい睡魔と戦って…俺が覚えていたのは、そこまでだった。

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