第二話 芹沢君の告白

美海side

何だかんだいろいろあって、あれから一年たった。私はもう高二。しかも、芹沢君とは今同じクラス。

 私は教室に入ると同時に、友達、というよりも取り巻きたちに囲まれる。

「おはよー!今日も美海可愛いね」

「今日のコーデも最高‼ちょー可愛い‼」

正直、ずっと近くにいるのは邪魔だけど、一人でいるよりかはいい。

そんな私の何よりの楽しみは、

「おはよ」

「ん…おはよ」

芹沢君に会う時。いつも素っ気ない返事を返されることが多いけど。

「今日は朝飯ちゃんと食った?」

「うん…。食パン半分とレタス」

今日は運がいいな。たくさん話しかけてくれるといいんだけど。

「相変わらずの少食だね」

「そういう芹沢君はどうなの?」

芹沢君は悪戯っ子みたいに私を見つめてから言った。

「俺は食パン一枚と目玉焼きとサラダ」

「へぇ…」

「へぇ…って何?」

「何でもないよ」

今日はやたらと話しかけてくるな。

タイミングがいいのか悪いのか、チャイムが鳴って朝読の時間になった。芹沢君の方をチラチラ見る。

まつげ長いなぁ。綺麗…。

黒い髪が少し、耳にかかってて。

その時、芹沢君が顔を上げて、目が合った。慌ててそらしたけど。

芹沢君はメモ帳を取り出して何か書き込むと、私の机に置いた。

「あのさ、今日の放課後、図書室来てくんない?」

驚いて、思わず芹沢君を見た。

「約束」

芹沢君は私の耳元で囁いた。

ドキドキして、授業は頭に入ってこない。隣の芹沢君はいつも通りクールな表情を崩さない。

 そして、とうとう放課後がきてしまった。私はなるべくゆっくり準備して、気持ちを落ち着かせようとしたけど、無駄。

「ね、美海、絶対告白でしょ」

親友の風香がずいと顔を近づけて来た。

「知ら——」

「頑張ってね~」

風香は私の返答も待たずにさっさと帰って行ってしまった。

あぁ、ドキドキする…。ホントに告白だったら―――。

でも、そのドキドキは早くも崩れ去って行ってしまった。

「俺、絶対フラれると思うけど?」

この声…隣のクラスの男子?

「罰ゲ-ム、頑張れよ!」

は?罰ゲーム?何それ―—。

階段を下りてくる音がして、私は急いで物陰に隠れた。混乱して、涙が出そうになったけど、慌てて引っ込める。

芹沢君、きっと待ってるし、行かないと。

急いで階段を駆け上がると、屋上の扉を開けた。

「あっ…。良かった。来てくれたんだ」

芹沢君はふわっと笑みを浮かべた。

ずるいよ。そんな顔されたら、本気かと思っちゃうよ・・・。

「それで、話って?」

芹沢君は少しだけ緊張した表情を見せた。

「えっと…」

はっきり言ってくれたらいいのに。どうせ、嘘なんだから。

「すっ、好きです!付き合ってください‼」

どうせ、嘘なんでしょ?

その一言が言えずに、黙ってしまう。

「一年の時、初めて君と会った時から、ずっと好きでした」

嘘なのに、何でそのことを出してくるの―――?

それなのに、私の口から出たのは可愛げのないOKの返事。

「いいけど」

「マジで⁉やった‼」

彼の反応が、ホントに好きなんじゃないかって思うほどで、嘘だと思ったら涙が出そうになった。

「今日、一緒に帰らない?放課後デート」

嘘の割には積極的だな。

「…いいけど」

でも、やっぱり私の口から出てくるのは素っ気ない返事。芹沢君は私の気持ちも知らず、嬉しそうに走り去っていった。

「嘘のくせに…」

私はそう呟いて、空を見上げた。今日は晴天で、雲一つない。下を見れば、桜の花が地面にピンク色の絨毯を作っている。なのに、私の心の中ときたら―――。どんよりとした厚い雲が覆いかぶさり、まるで冬のように寒々しい。

 不意に、水が頬を濡らした。雨かと思って空を見上げると、雨雲はかかっていない。

そっか、私の涙―――。

そう自覚してから、泣きたくなった。

ねぇ、教えてよ。

真っ青な空に向かって問いかける。

芹沢君は、ホントは誰が好きなの?

でも、いっこうに答えは帰って来ない。でも、それでもいい。むしろ、答えなくていい―――。

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