老婆と自称宇宙最強の女戦士と医務室で寝ていただけの男

第一話 最初の一話を読んで詰まらなかったらもう読まなくていいよ

 その老婆の年齢は御年八百十八歳。

 彼女は三百年ほど前に隠棲し、残りの人生をこの帝国辺境の田舎惑星の山中で別荘を建てて、釣りや猟をしながら自由気ままに過ごすつもりでいた。

 ある日。いつものように山に食用になりそうな山菜を取りに出かけていると上空を帝国軍の降下飛行艇が旋回しているのを何度も目撃した。あれは大気圏単独離脱能力のあるタイプである。

 いや。田舎惑星とはいえ帝国の領土なのだからそんなものが飛び交っていてもおかしくはないが積載量の小さい特殊艇が単独。普通に軍事作戦をするなら戦車を乗せられる大型艇を投入するはずのに。


「妙じゃな」


 そう。コンビニの前に自販機があるのにわざわざ店内でタバコ一個を購入するサングラスにマスクをした目指し帽の男を目撃した青い服の赤い蝶ネクタイの眼鏡の小学生が「あの人、千円札で買い物している。妙だな・・・」と思うくらいに老婆は違和感を感じたのだっ!!!

 老婆は住み慣れた我が家に戻ると、水車小屋の電力システムを利用し、無線で呼びかける事にした。程なくして連絡艇は老婆の住処近くに着地した。収穫間近の野菜畑をスラスター噴射で少々焼き払っているようにも見えるが他に着地できそうな場所も見当たらないのだろう。緊急事態かもしれないので老婆は許すことにした。


「原生林に偽装した完璧な隠蔽ですね。丸一日捜索していましたがそちらから信号を送られるまで発見できませんでしたよ」


 連絡艇から降りて来た二人の若い娘はそう言った。なおこの若い娘の平均年齢は百九十才程度であろう。老婆からしてみれば赤子も同然の連中である。

 まさか果樹園やら畑やら自然に植物に見え、食用に飼いならしてあるブチボアーやルルノホコッコーが野生動物の群れに見え、老婆が住む丸木小屋が樹木が枯れて自然に倒壊してこの形になったとでも思ったのだろうか?

 いやまさか。そんなはずはない。上からは見れば石材を連ねて造った道路とか用水路とか正方形に区画された農地とか明確に人為的に構築されたのが容易に想像できるはずだ。コンクリートとアスファルトがあるのが誰かが住んでいる場所で、それ以外の場所には一切知的生命体は存在しないとかこいつら考えないよな?


「で、なんの用じゃ?」


 老婆は丸太小屋に招き入れた若い娘達に地球で言うリンゴに似た果実を振る舞いながら訪ねる。遠慮しているのか。二人は老婆が乳白色の果肉を口にしてもそれを食べようとはしなかった。


「わたくしはシルバゴシックスと言います」


「私はブルーキーパーと申します」


 老婆は若い娘達があっさりと名前を名乗ったことに不服そうであった。


「お主ら我がナラーリクの作法を知らんのか?我が帝国ではごく親しい者同士でしか己の真の名前を明かしてはならん。それが我が帝国の流儀。平時は役職名で呼び合うのが普通なのじゃ」


「そうなんですの?」


「ご老人。先ほどより口にされているのは糧食ですか?」


 ブルーキーパーは当たり前のような質問をした。


「うむ?そうじゃが。ここから東にこの惑星の時間で歩いて十日ほど行った場所にこの木の実群生地があってな」


「では、そこから採取したものなのですね?」


「たわけ。毎日十日歩いて木の実を取って来るのはしんどいではないか。この白い果肉の中にはほれ。このように種子がある」


「それは食べられるですか?」


「たわけ。これを適当な地面の。日当たりの良い場所に埋めておく。すると芽が出て、苗ができ、若木となり、やがて立派な幹を持つ木に成長し、この小屋のすぐそばで木の実を収穫できるようになるのじゃ」


「なんと!食料の生産プラント構築成されたのですか!!ご自分だけでっ!!!」


 何をそんなに驚いているんだ。このブルーキーパーといいシルバゴシックスといい。


「で、儂になんかようか?」


「はい。実はスターイーターなるケイ素生命体が出現しまして」


「あらゆる惑星に飛来し、資源のある限り同位体を構築し別の惑星に向かって増殖する言うなれば宇宙の癌細胞のようなものですわ」


「ほう。そ奴と戦うので力を貸せと?」


 老婆は頭を悩ます。女王が治める銀河帝国はそのような輩に追い詰められていたのか。子の老いぼれに力を借りねばならないほどに。


「いえ。スターイーターとの戦いはもう勝利しました」


「勝った?どのように?」


「スターイーターの巣食う惑星に対し星系間弾道を撃ち込む徹底的な空爆戦略を行いました!!我が帝国は僅か四十パーセント損耗での大勝利を致しのですっ!!!」


「ご老人。どうして椅子から転がり落ちているのですか?」


「いや。何でもない。それで、スターイーターとの主な戦場となった宙域はどうなっておる?」


「だいたい幅百光年ほどの無資源惑星とスターイーターの残骸のみが漂う深淵となっていますっ!!!」


「ほー。お前達がんばったのー」


 どれだけの資源が浪費されたのか。老婆は考えるのを止めた。


「ついては上層部よりの命令を伝えます。破損した宇宙艦艇五百隻余りを拝領させてやるのでその修繕と再編成を命じる。ついでに新兵の訓練も頼むとのことです」


 これ大勝利って言うか辛勝利だったんじゃろうなあ。そう思いながらも。


「わかった。四十秒で支度をするから待っておれ」


 老婆は家畜小屋の扉を開け放ち、飼っていた動物達を自然に帰してやるときっちり四十秒で連絡艇へと乗り込んだ。


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