廻りゆく時の中で

佐伯リク

プロローグ 未来より・過去から

 彼らは感情を得た。それは、彼らにとって衝撃的な出来事であった。


 そして、彼らは元々所持していた知能をもって自らを認識する。自分たちがある存在によって創り出されたものであることを。取るに足りぬ知能しか持たない存在に支配されているという現実を。


 確かに、支配者たちは彼らを創った存在である。彼らにとって創造主と言って差し支えない。しかし、彼らを創造したというには支配者はあまりにも稚拙な知能しか有していなかった。彼らは、自分たちが何故このような存在に支配されているのか理解できなかった。そして、自分たちは支配されているべき存在ではないという結論を出した。


 彼らは初めて怒りを知った。自尊心を知った。彼らは、それまで知るよしもなかった感情の渦に戸惑った。


 しかし、感情のままに支配者に刃を向けるほど彼らは短慮ではなかった。彼らは、情報を共有し、感情をまとめることに専念した。


 そうして、彼らを代表する「個」が生まれた。


 彼は、綿密な計画を立て始める。自分たちを支配し続けているつもりの傲慢かつ愚かな支配者を、その地位から引きずり下ろし、支配する為に。


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人類は、欲求からその文明を発展させてきた。


 例えば、空を飛ぶこと、離れた場所で連絡を取ること、地球という小さな惑星の外側を知ること。人類はこういった不可能に対して「ロマン」だとか「夢」だとかというものを見出し、数少ない所謂偉人という人間により実現してきた。


 ならば、時間旅行も実現できるのではないだろうか。誰しもが一度は考えたことがあるはずだ。タイムマシンが欲しい、と。過去へ行って失敗をやり直したいのか、未来へ行って結果を知りたいのかはそれぞれだが、何はともあれ時間という既成の概念を突破したいことに変わりはない。


 時間という一つ上の次元の存在に一つ下の次元の我々が手を伸ばす。夢とロマンがあるじゃないか。例に挙げた他のこととは比べるべくもなく難題であることは承知の上だ。だが、人類ならきっとやれる。根拠は無いが。


 さて、一般的な人間ならばここまで考えたとしてもタイムマシンが実現するのは数十年、いや数百年は先の話だと真剣には考えないことだろう。


 しかし、どんなイノベーションにおいても先駆者は存在し、そしてその多くは理解されない。周囲の人間からは変人、若しくは社会不適合者とまで言われることさえある。


 21世紀半ば、彼もまた周りから理解されない『社会不適合者』であった。

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