第27話 地下道をつくります

 そんなわけで、夜を待って、サミューちゃんとスラニタの街へと向かった。

 【隠者のローブ】、【猫の手グローブ】、【羽兎のブーツ】、【察知の鈴】を装備し、荒事にも対応できる状態だ。

 到着したのは街の外。外壁沿いにある木と木で囲まれたところ。


「ここでいいかなぁ」

「はい。レニ様。ここであれば人目もなく、気づかれることはないと思いますが……」

「じゃあ、ほるね」

「……本当に、ここらシュルテムの屋敷まで、地下道を掘るのですか?」

「うん。ちかしつにいきたいから」


 そう! 私は地下を掘ってシュルテムの屋敷まで通じる道を作るつもりなのだ。


「シュルテムの屋敷には怪しい地下室があります。計算上はこの場所からまっすぐですが、地下道を作るには時間がかかりすぎるのではないでしょうか。もちろん、私も手伝いますが……」

「れににおまかせあれ」


 心配そうなサミューちゃんにふふんと胸を張って応える。そして、取り出すのは【つるはし(特上)】。つるはしといえば、宝玉を掘り当てた【つるはし(神)】があるが、あれは一回きりで壊れてしまう、使い勝手が悪いアイテムだった。それに比べれば、こちらは掘り進むスピードが速く、耐久性も高い、とても使い勝手のいいアイテムで、ゲーム内で使用されるのはこちらが主流だった。

 3歳児には大きい。が、猫の手グローブを装備しているため、いつもの私より力が強くなっているのだろう。悠々と持ち上げることができた。

 柄をぎゅっと持ち、地面にえいやっ! と突き立てる。すると、ボコッと土がなくなり、斜め下に向かって道ができた。


「……すごい、です……」


 その様子を見て、サミューちゃんが呆然と言葉をこぼす。

 さらに、言葉を続けた。


「さすがレニ様……すごい力。まさに規格外……。力を信じると決めていたのに、一瞬でも疑ってしまった自分が情けない」

「さみゅーちゃんだいじょーぶ?」

「申し訳ありません。自分を恥じておりました。とにかく、これならば、すぐに屋敷まで道が通るでしょう。私は背後の警戒と方向の指示をいたします」

「うん。おねがい」

「はい。レニ様、もう少し下方に向かって掘り進めてください」

「りょうかい」


 サミューちゃんの指示を得て、また地面にえいやっ! と突き立てる。すると、ボコッと土がなくなった。


「次はこのまま前方に向かってください」

「うん」


 斜め下に二回ほど掘り進めたことでできた地下道は長さ4mぐらい。径はちょうど大人一人が屈まずに歩けるぐらい。あまり大きくはないけれど、私とサミューちゃんが通れれば十分だろう。

 その地下道を進んで、今度は目の前の土の壁に向かって、えいやっ! と突き立てる。すると、地面に突き立てたのと同じように、目の前の土の壁がボコッとなくなった。

 サミューちゃんの指示を聞きながら掘ることを繰り返すこと十数度。土がボコッとなくなった瞬間、ガラガラと音がした。そして、現れたのは土の壁ではなく、どこかの部屋のようで――


「とうちゃく、よし」


 サミューちゃんの正確な計測力と私の【つるはし(特上)】の力は完璧。現れた部屋の中に入り、前後左右を指差し確認すると、そこには何人かの女性がいた。シュルテムに無理やり買われた女性たちだろう。


「なにっ!?」

「なにが起きたの!?」


 みんな、驚いて、こちらを見ている。うん。それはそうだ。いきなり壁に穴が開いたらびっくりする。うっかりしていた。


「おじゃまします」


 怪しいものではないので、急いで【つるはし(特上)】を外し、【隠者のローブ】のフードを取る。さらに礼儀正しく挨拶もした。【猫の手グローブ】をつけている私は猫耳があるので、あちらからは猫獣人に見えるはずだから変装はばっちり。姿を見られてもかまわないしね。


「え」

「あ……こども?」

「どうしたの?」


 幼い姿の私を見て、女性たちは安心したようだ。けれど、すぐに焦った顔へと変わった。


「だめよ、こんなところへ来てわ」

「危ないから、帰ったほうがいい」

「見つからないうちに……」


 一人の女性が私に近づいて、私を追い出そうとする。

 すると、背後で待機していたサミューちゃんがすっと私の前へ出た。


「大丈夫です。私たちはあなた方を助けに来たものです」

「助けに?」

「はい。ここにシュルテムがあなた方を買い取った書類や借用書などがあります。一人ずつ返しますので取りに来てください。地下道はスラニタの街の外に続いていますので、そのままご自分の村や街へ帰ることができるかと思います」

「そんな……でも……」

「心配ありません。シュルテムについてはこちらに任せてください。また、ご家族にはすでにあなた方のことを伝えてあります。安心して帰っていただけます」


 サミューちゃんの冷静な言葉。そう。サミューちゃんは連れ去られた人を把握し、家族に話をし、ここにいる女性が帰る場所を用意してくれていた。

 シュルテムに買われた女性をこの屋敷から連れ出したとしても、帰る場所がなければ意味がない。さすがサミューちゃんである。


「本当に……そんなことができるなんて……」

「では、名前を呼びます――」


 いまだに現実かどうか受け止めきれていない女性たち。サミューちゃんは気にせず、一人ずつ名前を呼んだ。そして、書類や借用書を返していく。

 実際にそれを手にしたことで、女性たちは自分に起こっていることが真実だと信じることができたようで、みるみる顔が明るくなった。


「これもあげる」


 私はそんな女性一人一人に両手で持てるぐらいの布袋を渡していく。


「これは?」

「なかに、おいも、おにく、ぱんがある。おなかすいたらたべて」

「いいの?」

「うん。おいしいよ」


 入れておいたのはすこしの食糧と、数枚の銀貨。

 この街から馬車で行かないと辿りつかないような場所に帰らないといけない人もいる。たぶん、これだけあれば家に帰れるだろうという内容や額をサミューちゃんと相談して、入れた。お金は私の持っていた薬草を道具屋で売って体に入れたものだ。


「おいも、ままがつくった。おにく、ぱぱがつくった」


 母が作った干し芋と、父が作った干し肉。とってもおいしいのでおすすめ。父と母に「ちょっと欲しい」と言うと、分けてくれたのだ。

 だから、食べてね、と渡すと、みんな受け取ってくれた。そして、お礼を言いながら、部屋から地下道へと出ていく。

 そうして残ったのは私とサミューちゃんの二人。

 私はもう一度フードを被ってから、サミューちゃんへと話しかけた。


「さみゅーちゃん、このうえに、しゅるてむがいる?」

「はい。ここは女性たちが寝起きしていた場所で基本的にはここで生活していたようです。ですが、この部屋から出ると、シャワーやトイレがあって、そのまま階段を登ると主寝室へと繋がるようになっていました」

「そっか」


 変だよね。主寝室から地下室へと直接行ける通路。……主寝室からしかいけない地下室。逃げて行った女性たちは本当にみんな美人だった。

 両手をぐっと握る。そして力を何度か入れたり緩めたりすると、肉球がきゅむきゅむと鳴った。

 すると、そこに男の声が響いてきて――


「今日はだれにしようかのぅー! 最近入ってきたばかりの、反抗的なあの子かのぉ!」


 粘っこくて、無意味にキーが高くて、なにより品がない。

 部屋についていた扉。それをまっすぐに見つめると、そこがガチャリと開いて――


「今日はお前だぞぉ!――って!?いない!?」


 入ってきた男が驚きに目を見開く。

 たるんだ肉体にたるんだ精神。鍛え直す必要がある。


「みんなかえったよ」

「……!? どこじゃ!? どこにおる!?」

「どこでもよろしいのでは? 街長のシュルテム」

「なっ! なんじゃ、お前は……!」


 私の姿は見えないけれど、サミューちゃんの姿は見える。

 家具の陰から姿を現したサミューちゃんを見て、また驚く男。でも、すぐにデレッと表情を変えた。――これがシュルテム。


「……いや、しかし、これはまた美人なエルフ……。なんとか儂のものに……」


 ならないよ?

 サミューちゃんが気を引いてくれた隙に、私は一気にシュルテムに近づいた。

 そして、そのたるんだ腹に右ストレート!


「ねこぱんち!」


 地下だからお星さまじゃなくて。


「かせきになぁれ!」

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