その日、天使を見た
リリィ有栖川
入学式
チカはその日、翼を見た。
高校の入学式は退屈で、体育館に射す暖かな光が眠気を誘う。隠すことなくあくびをして、早く終わらないかなと、ぼんやり窓の外を眺めていた。
だがその視線は、凛とした声に導かれた。
映ったのは、光に照らされ輝く何か。
眠気が何処かへ飛ばされた。舞台に天使が舞い降りていた。
色素の薄い髪、ブラウンの瞳、華奢な体に、全てを覆い隠せるほど大きい、透明な翼。
瞬きも忘れて見つめた。数分見つめていたが、チカには数秒に感じられた。
翼が一度羽ばたいて、翼の持ち主の女生徒がこちらに振り向いた。いくつか透明な羽が舞って、光に溶けるように消えていった。
彼女が舞台から降りてくる。彼女の翼は他の誰にも見えていない。窮屈そうにたたまれた翼は、それでも他人に当たるけれど、幽霊みたいにすり抜けていく。
だが、チカにはどうでもよかった。
クラスメイトに教室に戻ることを促され、やっと我に返ると、急激に動き出した脳は、翼を中心にいろんな言葉や映像が渦を巻き、教室にたどり着いて、席に座った瞬間に、答えが出る。
「絵、描かなくちゃ」
誰にも聞こえない呟きは、チカの高校生活を全て費やす宣言だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます