第1話
「今日も暇じゃな」
無精ひげを生やし、バーテンダーの服を着た年配のお爺さんがカウンターの席で頬杖をつきながら呟いていた。
カウンターの奥では、白い珈琲カップを磨いている女性が一人立っている。そして、その女性も又お爺さんと同じ服を着ていた。
カップをクリーム色の布巾で磨く度に「キュッキュッ」と、音が鳴る。女性は長い睫毛の奥にある瞳を細め、ぷっくりとした可愛らしい口を開く。
「……お
〝お祖父ちゃん〟と呼ばれたお爺さんの名前は
徹三はビクリと肩を上がらせると「あ、あはは!」と苦笑する。それは内心焦っているようにも見えた。
「すまんすまん。別に悪気はないからの? そ、そうじゃな〜、ここは客引きをしないといけないな!」
「違うっ!!」
「は、はい……?」
徹三はポカンと口を開け女性を見る。女性はカップを思い切りテーブルに置くと、徹三は又もやビックリして肩を上がらせた。
カップが割れていないかヒヤヒヤする徹三。しかし、そんな徹三の気持ちとは裏腹に女性は目を釣り上げ徹三に向かって怒鳴り始めた。
「逆に忙しかったら私が大変やろ!? そんなん嫌や! そりゃぁ、儲かることはええかもしれんけど、バタバタとアタフタとするのはウチ、嫌やで!?って、お祖父ちゃん聞いてる!?」
ジーッと女性の顔を見る徹三に女性は自分の話を聞いていない徹三にムッとなると、真顔だった徹三の顔が途端にニヤケ顔になり「アリサ、お前は怒った顔も中々可愛いのぉ〜♪」と、言った。
徹三のニヤケ顔に気が抜けてガクリと項垂れる『アリサ』こと
アリサはこの探偵事務所でもあり喫茶店でもある副店長で徹三の孫でもある。そして、目の前でヘラヘラと笑っている徹三が、このお店の
アリサが呆れながら項垂れていると、お店のドアベルが「カランカラン」と、音が鳴った。
徹三はその音に無精ひげを撫でながら「お客様じゃのぉ」と、アリサに言った。
「わかってるわよ、もう……」
アリサがそう言うと、アリサは接客用の笑顔でニコリと入ってきたお客に向かって微笑む。その微笑みはまるで女神や天使のように美しく可憐な微笑みで、お客はアリサのその微笑みに思わず足が止まった。しかしアリサは気にせず、いつも通り入ってきたお客にいつもどおりの言葉を掛けたのだった。
「いらっしゃいませ、お客様。幽霊喫茶探偵事務所へようこそ。……さぁ、奥へどうぞ」
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