や・み・な・べ
@kinail
第一話 無くなった!
僕は失恋した。
そのため、慰める会と称しサークル室にてみんなで鍋を囲んだ。
そしてその日に、僕は大変なことに気がついた。
未練たらしく付け続けていた、恋人との大切な指輪をなくしてしまったのだ。
「あっ」
と気づいた頃にはもうすっかりみんなお開きモード。
大学のいつものメンバーがいそいそと身支度を整えていた最中だったが、僕は部屋中歩きまわって探した。
が、見つからず、仲間と協力して小型の冷蔵庫さえどかして見てみたけれど、ホコリにまみれた紙が数枚あっただけで指輪は見つからない。
「まあでも、これですっぱりあきらめもつくだろ」
「お前がいつまでも元恋人のことを引きずってたのを見かねた神様の仕業って事にしてさ」
「言えてる」
なんとなく気が変わったのか、二次会のカラオケに行こうと盛り上がる仲間たちをよそに、僕はある確信を抱いていた。
突然無くなった指輪…。
僕の右手に輝いていたシンプルな指輪が無くなった経緯は、失恋のショックで食の細くなった僕の痩せた指から転げ落ちたからだとして。
部屋中くまなく探し尽くした今、論理的に考えて残った指輪の行き先はたった一つしか残らない。
僕は息を整えると、半円を描いて囲む仲間たちを見て言った。
「…この中に、僕の指輪を食べた人がいる」
みんなの視線の先には空っぽになった土鍋。
そのふちに、周辺に、雑多なゴミが散乱している。
ネギ、白菜、えのきなどの包装袋。
だけではなく、おかし、チョコレート、すっぱいグミ、など。
そして極め付けはぐしゃぐしゃに丸められた新聞紙! …闇鍋といったら黒い長靴! …らしい。
つまり、鍋は鍋でも僕たちがしていたのは闇鍋パーティー。
その中に、いつの間にやら僕の指輪が、具として混入したまま誰かにすっかり頂かれてしまったというわけだ!
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