アンサー!:科学技術の進歩と解答
紫 和春
ケース1:ISSの新型アーム製造
西暦2036年。人類はより繁栄を極め、その勢いは宇宙にまで伸びていました。それは、既に宇宙空間に存在する人工物、
しかし、既存の設備ではそれに答えることはできません。そこで
「ISSを充実させるために、カナダアーム2の正当な後継機を完成させる必要があるでしょう」
——ニューヨーク工科大学 シド・ドーラン博士
カナダアーム2は、ISSで使用されている
しかし、これには弱点もあります。
「カナダアーム2は両端がエンドエフェクタで構成されています。これによってカナダアーム2単体で移動することが可能となっています。しかし、一方のエンドエフェクタにはモービルベースシステムが占領していて、移動に制限をかけてしまいます」
——ニューヨーク工科大学 シド・ドーラン博士
そのため、基本的にカナダアーム2は移動用のレールであるトラスから外れることはありません。
その制限こそが、ISSでの活動を妨げていると言ってもいいでしょう。
「そこで、我々は新たなチームを発足して、新たなMSSの製造に着手しました」
——NASDA職員 ジェーン・ゴールド
この計画にはさまざまな国と機関が強力することになりました。アメリカ、カナダをはじめ、イギリス、日本、インド、ロシアが協力に名乗り出てくれました。
『よろしく』
『こちらこそ』
「各国から技術者が派遣され、チームが編成されました。いよいよ計画がスタートします」
——NASDA職員 ジェーン・ゴールド
2036年9月、十数人程度のメンバーによってサテライト計画と名づけられたカナダアーム後継機製造計画が始まりました。
まずチームは、カナダアーム2を製造した民間企業の技術者を招集しました。今後の参考にするためです。
「本当なら、この企業が後継機を製造すれば一番なんですが、政治的な観点から国際色豊かなチームで行わざるを得ませんでした。今回、この技術者にはオブザーバーとして参加してもらうことにします」
——サテライト計画責任者 ドラゴ・マルケル
技術者から話を聞いたチームは、次の作業に移ります。NASDAから要求された性能を満たすために、大まかな構造を決定しなければなりません。
「今回NASDAから要求された性能には、トラスに接続可能である、3つ以上のエンドエフェクタを装備できる、船外活動中の宇宙飛行士が操縦できる、もしもの場合に備えて自力飛行可能であることの4つがあります。これはあくまで最低限の要求であり、場合によっては増えることも示唆されました」
——サテライト計画プロデューサー ジョン・ウィード
この要求はかなり厳しいものでした。これまでにないような新しい試みが含まれていたからです。そのため、チームは問題を一つずつ解決していくことにしました。
「まずトラスに接続可能であること、3つ以上のエンドエフェクトを装備できることについては、カナダアーム2の発展型として捉えることができます。よってこの2つの問題は簡単に解決することができます」
——サテライト計画技術顧問 ディラン・ローレン
そうなれば問題は残りの2つに絞られます。
「宇宙飛行士による操縦は何とかなるかもしれませんが、自力飛行に関しては新しい技術を採用しないといけません」
——サテライト計画技術顧問 ディラン・ローレン
最大の問題は、自力飛行に注目されます。
技術者はどのようにこの問題を解決したのでしょうか?
「新しい技術を開発する事も考えましたが、それにはコストがかかりすぎます。そのため、既存の技術でできるものを考えました」
——サテライト計画技術顧問 ディラン・ローレン
チームはNASDAの資料を参照することから始めます。
数日もすれば、スラスターに関する資料が集まりました。これらから自力飛行に必要なスラスターを探します。
『この資料が使えそうだ』
「ですが、どの資料も大質量の物体を動かすためのスラスターしか載っていません。これでは適切なスペックとは言えないでしょう」
——サテライト計画技術者 関根浩二
チームは資料を改めて見直し、一番小さいスラスターを探しました。スペースシャトルが現役だった頃の資料は残っているものの、それより前はあまり残っていません。
そこでチームは答えをNASDA以外に求めました。
「我々は答えを、日本やロシア、インドの宇宙開発に求めました」
——サテライト計画技術顧問 ディラン・ローレン
すると、答えはすぐに見つかりました。
インドの宇宙開発の過程で、小型の人工衛星の軌道を変えるためのスラスターがあったのです。
「このスラスターは1トンの質量を簡単に動かす程のものです。また、一般的な液体燃料式のものではなく、高圧ガスによる反動によって姿勢制御するものでした。この性能は我々にとっては重要なものです」
——サテライト計画技術者 関根浩二
これは朗報です。直ちにインドに対して、詳しい設計の要請がされました。ですが、インドも簡単には明け渡してくれません。国家機密に等しいものであるからです。
数か月の交渉の元、インドはこの設計図の公開を承諾しました。それに伴い、インドの技術者がNASDAのもとにやってきます。
「これで一歩前進しました。あとは宇宙飛行士の操縦席を設けることに注力すればいいのですから」
——サテライト計画プロデューサー ジョン・ウィード
しかしこれで完成というわけではありません。ここから詳しい設計をしなければいけないからです。
『難しい仕事になりそうだ』
チームは早速設計に取り掛かります。
設計に際して、チームは複数の案を提唱しました。
「要求された性能に沿った設計案を複数提案します。そのため、メンバー全員にデザインを出してもらいました」
——サテライト計画プロデューサー ジョン・ウィード
早速設計案をNASDAに提案します。
その中で最も現実性の高いものを採用します。
『よし、この案で行こう』
こうしてGOサインが出ます。詳細な設計が始まります。
「今回の設計案は腕が4本、中心部に小型の操縦席を設けています。また、操縦席の周辺に姿勢制御と自力飛行のスラスターを設置しました」
——サテライト計画技術顧問 ディラン・ローレン
緻密な計算がなされていきます。こうして数週間ほどで設計図が完成しました。
『よーし出来たぞ』
次は、この設計を元に製造します。主にカナダアーム2を製造した企業を中心に発注です。
「設計の時の計算は、このために必要なのです。腕にかかる重量やトルクの計算を行う必要がありました」
こうして必要な材料が部品がそろっていきます。
すると次の問題が出てきます。
「これらを宇宙に運ぶ手段が必要です。現在NASDAでは自前でロケットを飛ばしてはいません。そのため、アメリカ以外の国で打ち上げをする他ありません」
——サテライト計画プロデューサー ジョン・ウィード
今回は、ロシアのソユーズロケットと日本のH3Aロケットを使って運搬することが決定しました。
順調に事が運んでいたある日、事件が発生します。
「地上で部品の組み立てを行っていたところ、一部が脱落するという事故が発生しました。原因がなんだったのかを調査する必要があります」
——サテライト計画技術顧問 ディラン・ローレン
すぐにチームが動きます。まずは部品の様子を観察します。破損の状態を確認すればどのように壊れたのかを知ることができます。
『これを見てくれ』
『なんだこれは?』
「私たちは奇妙な傷を発見しました。そもそも今回の部品の脱落は関節部分で発生しました。その関節部分を見てみると、締結しているネジ部に破損が見られたのです」
——サテライト計画技術者 関根浩二
脱落したネジ部を詳しく確認していきます。
『このネジはどこのものだ?』
様々な検証を行っていくことで原因がわかってきました。
「今回使われてたいネジはヤードポンド法のネジであることがわかりました。これは重大な欠陥であることに間違いありません」
——サテライト計画技術者 関根浩二
調査をしていくと、この脱落した部品を製造した企業はアメリカの工場で作られたことが明らかになりました。
アメリカでは2020年代に、すべての工業製品に対してメートル法を使うように法律を変えています。そのため、現在では新規にインチを用いたネジは製造されていません。
ただし、航空機業界では現在もヤードポンド法が適用される例があります。古い機体の場合です。
「現在は基本的にインチネジを製造することは違法ですが、例外として航空機に対しては許可があれば製造可能です。その際、メートル法に換算した大きさのインチ径で表示されます」
——サテライト計画技術顧問 ディラン・ローレン
製造元である工場い対し、チームが聞き込みに行きました。
『こんにちは』
『やぁどうも』
『ここではネジはどこに保管しています?』
『あそこの倉庫だよ』
『見せてもらえますか?』
『えぇ、もちろん』
倉庫の中は整頓はされていたものの、それぞれがキチンとラベリングされているわけではありませんでした。
『ネジはここに』
『ではM6のネジはどこに?』
『えぇと…。これですかね』
「工場の技術者はネジ径をノギスで測って探していました。確かにこれなら目的のネジを探し出すことができるでしょう」
——サテライト計画技術者 関根浩二
しかし、ここに問題がありました。
『型番を見る限りではM6ネジに近似したインチネジのようです』
『そうなんですか?』
「これでは問題が発生してもおかしくありません」
——サテライト計画技術者 関根浩二
この後チームは専用の部品を用意するなど、対策を講じました。今後は問題が起きることがなくなるでしょう。
問題を乗り越えたチームには、もう遮るものはありません。計画は着々と進んでいきます。
「最初の構造物が打ち上げられたのは、計画が始まってから3年もの時間が経過していました。これでもかなり早いほうではありますが」
——サテライト計画プロデューサー ジョン・ウィード
これらの構造物は宇宙に打ち上げられて、無重力空間で組み立てられます。
「この機体について詳しく解説しましょう。この機体の正式名称は『ヒューマアーム』です。中心部に操作用のタッチパネル及び構造保持部、そして姿勢制御と自力飛行用のスラスターが装備されています。この構造保持部に接続するように腕が4本生えており、それぞれにエンドエフェクタが装備されています」
——サテライト計画技術顧問 ディラン・ローレン
ISS周辺は、かつてない程の賑わいを見せています。
「カナダアーム2もフル稼働で組み立てに協力します。このような場面では本領が発揮されるでしょう」
——サテライト計画技術者 関根浩二
こうして無事にヒューマアームは宇宙空間に浮かび上がります。
あとはトラスに接続して完成です。ヒューマアームの真の姿が出現しました。
「これが人類の叡智の結晶です」
——サテライト計画プロデューサー ジョン・ウィード
ヒューマアームについて、簡単な機体解説をしましょう。
この構造物は重量2530kg、全長25.5m、スラスター10個、スラスター用外付け高圧ガスボンベ2本、操縦用パネルを装備しています。
こうして人類は新たな技術を手に入れました。これからを構築していく第一歩になるでしょう。
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