256 俺とおそろいのペンをそんなに喜んでくださるなんて……っ!


「イゼリア嬢! 採寸お疲れ様でした! ほらっ、見てくださいっ! ローデンスさんがペンの試作品を持ってきてくれたんですよ!」


 俺はペンを持ったまま、ぱっとソファーから立ち上がるとイゼリア嬢へ駆け寄り、自分の分の試作品を手のひらに乗せて差し出す。イゼリア嬢の細い眉がきゅっと寄った。


「ごきげんよう、オルレーヌさん。あなたがいらっしゃるまでは落ち着いて優雅な生徒会室でしたのに……。ほんっと、あなたはいつでも不必要なくらい元気ですこと。そんなに大声でおっしゃらなくても聞こえますわ」


「す、すみません……っ。試作品でも素晴らしい出来だったので、ついテンションが上がってしまって……」


 俺はぺこりと頭を下げて謝る。


 へへ~、叱られちゃったけど、でも同時に「元気」って褒められちゃったぜ!


「さあっ、どうぞこちらへお座りくださいっ! イゼリア嬢も早く試作品をごらんになりたいでしょう!?」


 俺はいそいそと空いている三人掛けのソファーをイゼリア嬢に勧める。


 イゼリア嬢を真ん中に、俺とリオンハルトが両脇を挟む形だ。イゼリア嬢のお隣をゲットするために、わざわざ立ってイゼリア嬢をお出迎えしたんだもんなっ!


 ソファーに座ったリオンハルトとイゼリア嬢に、ローデンスさんが「こちらでございます。デザインなどをお確かめくださいませ」と恭しく試作品を渡す。

 

 華やかで甘いイゼリア嬢のコロンの香りがかすかに揺蕩たゆたってくる。


 ああっ、なんて幸せなんだろう……っ!


 あまりの幸せに、うっとりとする。今日は台本の読み合わせをしようって話になってたし、このままイゼリア嬢のお隣で……っ!


 と、ペンを見たイゼリア嬢が「まあっ」と弾んだ声を上げる。


「なんて可愛らしいのでしょう! 薔薇が見事なのはもちろんですが、うさぎさんの表情にも愛らしさがあって……っ。とっても素敵ですわ!」


「ええっ! 本当に素敵ですよね!」


 一も二もなくイゼリア嬢のお言葉に同意する。


 俺とおそろいのペンをそんなに喜んでくださるなんて……っ! くうぅっ! 嬉しすぎます!


 出来上がったら、ずっとずっと大切に持ってましょうねっ!


「ああ、わたしも満足だ。この通りに進めてほしい」


 しげしげとペンを眺めていたリオンハルトもゆったりと頷き、ローデンスさんに試作品を返す。俺とイゼリア嬢もそれぞれ、試作品を差し出した。


 丁寧に試作品をスーツケースにしまったローデンスさんが立ち上がる。


「皆様、ご確認いただきありがとうございました。では、一日も早く皆様の元へお届けできるように、従業員一同で励みます」


 深々と頭を下げたローデンスさんが、面輪を上げて俺に微笑みかける。


「はいっ! ほんっと楽しみに待っています!」


 こくこくこくっ、と大きく頷いた俺にくすりと笑みをこぼし、ローデンスさんが生徒会室を出ていく。


 リオンハルトが俺を見て柔らかな笑みをこぼした。


「ハルシエル嬢がそんなにペンを楽しみにしていたとは……。なんだか嬉しいね」


 甘い笑顔に、ぱくりと心臓が跳ね、顔が熱くなる。


「そ、そりゃあ……。おそろいのペンですから……っ」


 憧れのイゼリア嬢とおそろいのアイテムなんて……っ! 嬉しくないわけがないだろ――っ!


 思わずうつむき、もじもじと告げると、イゼリア嬢が俺を振り向いて涼やかな声を出した。


「そういえば、オルレーヌさん。あなただけ、まだでしょう?」


「へっ? 何が、でしょうか……?」


 きゃーっ! イゼリア嬢にお隣で見つめられたら、それだけで天に昇りそうな心地になります~!


 きょとんと問いかけると、イゼリア嬢が呆れたようにアイスブルーの瞳をすがめた。


「採寸ですわ。遅れてきたあなたはまだでしょう? 行かれてはいかが?」


「え……っ」


 そ、そんなぁ……っ! せっかくイゼリア嬢のお隣になれたのに……っ!


 俺はおろおろとディオス達を見やる。


「ディオス先輩やヴェリアス先輩達は……?」


「いや、俺達はもう済んだんだ……」


 ディオスが申し訳なさそうに首を横に振る。ヴェリアスにクレイユ、エキューもかぶりを振った。


 えぇぇ~っ! でも、確かに、俺ひとりのために、採寸に来てくれている人達を待たせるわけにはいかない。


「じゃあ、行ってきます……」


 イゼリア嬢! すぐに採寸を済ませて戻って来ますからね! ですからお隣はお願いですから開けておいてくださいねっ!


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